第136話 宵闇の記憶 1
「ごめん。私も、癒として生まれ変わったから、癒には癒の生を可能な限り歩ませてあげたかったんだ。楓乃子としての私はすでに生を終えているからね。・・・・宵闇のことは、癒の力と私の魂を代償に、封じておけると思っていた・・・・。」
楓乃子は、光弘によく似た綺麗な顔を辛そうに歪めた・・・・・。
「私のことを伝えたところで余計な波風をたてるだけ・・・・伝えるべきではないと思ったんだ・・・・・。」
「どうりで、さっきまですっかり忘れてたわけだ。」
勝は納得した表情で、腕を組んでうなずいた。
「話は済んだか。・・・・これ以上余計な者に集まられても面倒だ。取引の材料も失った。俺はもう行く。」
宵闇の身体が、闇の向こうへ沈むように消え始めた。
「待つんだ・・・・・。」
「・・・・・。」
今まさに姿を消そうとした宵闇に、楓乃子が声をかけた。
その顔には何の表情もなく、動きを止めた宵闇をただ静かに見つめている。
「前から気になっていた。・・・・君はなぜ、みーくんに・・・無色の術に、そんなにこだわる。・・・・・君の目的はなんだ。」
「・・・・・・・闇、だ。俺は、闇だけの世界を望んでいる・・・・。」
「・・・・・なぜ。」
「俺には・・・」
何か口にしかけた宵闇だったが、舌打ちをして楓乃子を睨んだ。
「貴様は、あいつによく似ているな。お前のおかげで、余計な客が増えてしまったようだ。」
宵闇の視線の先を辿り振り返ると、そこには海神と蒼の姿があった。
「・・・・貴様っ。」
海神の姿を目にした途端、宵闇が凶悪な殺気をむき出しにし、黒い霧の塊を手のひらから撃った。
放たれたのは宵闇の渾身の一撃だったが、蒼が落ち着いた様子で海神をかばい前に出ると、腕を一振りし霧を祓ってしまった。
「おい。殺されたいのか。なぜ海神を襲う。」
「・・・・・。」
宵闇はギリリと音がするほど強く歯噛みし、なおも殺気立った目で海神を睨みつけている。
ドロドロと渦を巻く濁った記憶が、宵闇の心をかき乱していた。
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雷を司る
彼らが生まれた時、まだ
時折この場を荒らしにくる妖鬼や、気の荒い質の神妖を諫めながら、決して広くはないこの豊かな世界を守り、穏やかな毎日をたゆたうように神妖たちは過ごしていた。
ある日、神妖界の長が人の世から足を踏み外して落ちてきたという、仮面をつけた子供を拾ってかえってきた。
白妙は、長に子供を人の世へ返すよう諭した。
「長・・・・。人の子と我らでは生き方も、流れる時も全てが違いすぎる。親も探しているかもしれない。すぐに返したほうがいい。」
「・・・・白妙。お前の気がかりを私はきちんと理解している。今回だけは、黙って私の好きにさせてはくれないか・・・・・。頼むよ。」
大概の出来事を笑顔で受け入れてしまう長の、いつにない強い意志に、白妙はため息をついた。
「長・・・私は性別を女として生きてきました。長一人では何かと手にあまることもありましょう。・・・・お手伝いします。」
「白妙・・・・。君ならきっと、そう言ってくれると思っていた。・・・ありがとう。」
長の太陽のような満面の笑みに柔らかい微笑みを返すと、白妙は幼子の頭をそっとなでた。
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