第134話 勝の追跡
時計の針が8時を回ったころ、俺は
「2人とも、泊まってかないか。簡単なものなら俺が飯作るし。今日はもう遅い。・・・・それに・・・・・・悪い。俺が独りで過ごすの、辛いんだ。」
勝と都古は驚いた顔で見つめてきたが、2人ともすぐに表情を暗くし目をふせた。
先に口を開いたのは勝だった。
「悪いけど、台所貸してくれよ・・・飯は俺が作る。・・・・
「・・・・真也。・・・・私も頼む。・・・・すまない。」
絞り出すように答えた都古の声は、かすれて震えていた。
俺は彼女の胸の内を想うと、どうしようもできず、ただ頭をなでてやることしかできなかった。
「当たり前だろ・・・・。謝るなよ・・・・都古。」
俺が母さんと父さんに伝えると、二人とも何も聞かず、笑顔で首を縦にふってくれた。
勝と都古が大好きな妹の
「みっくんは?」
あどけない瑞月の言葉に、俺たちは一瞬表情を硬くした。
「今日はちょっと用事があるみたいで来れないんだ。」
俺がそう言うと、瑞月はつまらなそうに唇を尖らせたが、都古に頭をなでられて、すぐに機嫌を良くした。
順番に風呂に入っている間に、勝が4人分のチャーハンを用意してくれていた。
勝のチャーハンは絶品なのだが、今回のはいつもと味が違った。
恐らく、味をつけ忘れたのだろうが、そのことに気づいているのかいないのか、誰もそのことに触れることはなく、ただもくもくと口に運ぶ。
心も体も疲れているはずなのに、目だけが冴え冴えと覚めきってしまって、俺たちはいつまでも座ったまま、時折ため息をついてただ寄り添っていることしか出来ないでいた。
「光弘っ・・・。」
ふと、風が吹いた気がしてその方向に慌てて目をやると、いつになく元気のない癒がつ宙をただよっていた。
じっと語り掛けるようにボクを見つめてくるその瞳に、心の奥でさざ波がたつ。
「癒・・・・光弘に何か起きてるのか。」
癒は小さくうなずくと、勝の方へ向かって顎を上げた。
「勝。癒が、お前の力を借りたがってる・・・・。」
自分でも不思議な感覚なのだが、癒の言いたいことは、俺の頭の中に浮かびあがるように伝わってくる。
勝も心得たもので、すぐに視線を鋭くして神経を集中させる。
「どうすればいい?」
「闇色の球を出して欲しいみたいだ。」
俺は、感じたままに勝へ伝えた。
いつもと違う癒の様子に緊張感を持ちながら、すぐに闇色の玉を作り出し、宙に浮かべた。
闇色の球が自分の身体の大きさを越えた途端、癒は音もなくその中へ飛び込み、そのまま一瞬で転移していってしまった。
「あいつ!俺の事使うだけ使って、1人で行ったのかよ!」
勝の憤る声に、人差し指をたてながら、俺と都古は勝を座らせた。
「勝、声がデカイ。みんな寝ている。静かにしろっ。」
都古の言葉に苦笑してから、俺は表情を引き締めて勝に問いかけた。
「お前の術は解けちゃってるのか?」
「いや。まだだ。」
癒に置いて行かれてふてくされた様子の勝に、都古は困った顔で話しかける。
「落ち着け。お前にしかできないことだ。・・・・・術が解けていなければ、お前なら癒の元までたどる事ができるはず。」
「そうか!」
都古の言葉にようやく気力を取り戻し、勝は癒の行く先をたどった。
勝は目を閉じると眉間に皺をよせ、慎重に気配を探り続けた。
「届いた・・・・!」
「よし!」
「行こう。」
俺たちは自分の身体から、
あと少しで辿っていた糸の先にたどり着くというその直前で、勝の術が解けてしまった。
切れた糸が宙に舞う。
俺は目をこらし気配を集中させた。
糸が切れたということは、癒は無理矢理どこかの空間に飛び込んだ可能性が高い。
癒がたどった軌跡を何もない白い世界で探っていると、ようやく癒が作ったと思わる綻びをみつけた。
微かに紫色の電流が滞留している場所をみつけた俺は、全ての色の術を練り込んだ力を刀の形で顕現させ、ためらうことなくそこへ切り込んだ・・・・・・。
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