第87話 癒 8
まだ意識を失ったままの
そんな癒に、
「癒。お前に
癒は探るような目で白妙を見つめた。
こいつは一体何を考えているのだろう。
白妙は美しい顔に似合わず、油断のできぬ相手だ。
現に、白妙だけは出会ってからずっと、綻びを探るかのように私から目を離そうとはしない。
白妙の提案に、
「白妙、待て。秋津がこのような目に合うほどの役を、産まれたばかりの神妖に任せるというのか。」
「それはあまりに酷というもの。言葉すら持たず
「言いたいことはわかっている。正直、私とて迷っているのだ・・・・・。」
白妙の言葉に、沈黙が広がっていく。
その沈黙を破ったのは、光弘だった。
「待ってください。」
硬い声音に何かよからぬ気配を感じ、癒は光弘を鋭い眼光で見つめた。
「もうこれ以上、誰もかかわらせたりしない。あなた達も、
やはり・・・・・。
「俺が誰の事も想わなければ、あの黒い霧は誰も襲えない。それなら・・・・俺が望むことは一つだけだ。」
「光弘・・・・・。」
「真也、
「おいっ!」
噛みしめるように最後の台詞をつぶやくと、光弘は額に指をあて、いきなり言霊を放った。
「
光弘の指先が光を帯び、徐々に輝きを増していく。
癒はすかさず自らの妖力を解放し、光弘の術へ向けて放つ。
癒の瞳が
次の瞬間、カシャーンという音と共に、光弘ははじかれたようにのけぞり、勝の腕の中に倒れ込んだ。
癒が凍り付くような瞳を光弘にむける。
冷たい怒りと、それと同じくらい深い悲しみが黒い瞳を揺らしていた。
子供たちが光弘にぶつける心の声が、空しく教室に響く。
光弘は、恐らく考えを変えない。
実際、光弘が宵闇を受け入れ心を閉ざせば、奴を封じ込めることができるのは事実なのだ。
だが・・・・・・。
教室に流れるなか、白妙が口を開いた。
「光弘。そういえば、世話になった礼をまだ伝えてなかったな。お前のおかげで、2年前のあの時、私は我に返ることができたのだ。あのままでは連中を殺し、危うく
突然過去の話題を出された光弘は、首をかしげて白妙を見つめている。
「光弘よ・・・・・・。お前、自分の望みを通すならば、相手のわがままを1つくらい聞いてやっても
光弘の傷ついたような眼差しに、癒は哀しくなった。
自分がどれだけかけがえのない大切な存在であるか、この人には理解できないのだ。
「癒。話を戻すぞ。お前・・・・・光弘を守れるか?」
癒は、じっと光弘の瞳を見つめた。
癒は自分に怒っていた。
自分の目の前で2度も光弘を危険にさらした。
どんなに強力な力があっても、この人を失ってしまったのでは生きていく意味がない。
そのために得た力なのだから。
白妙や
お互いの利害が一致している以上、断る必要はなかった。
それに、白妙に言われるまでもなく、光弘を守るつもりではいたが、白妙の願いとして受けておけば便利がいいかもしれない。
もう、自分を抑えるのはやめだ。
たとえこの人に嫌われ、遠ざけられたとしても・・・・・・。
癒は白妙に向かって「いいだろう。」というようにあごをしゃくり、うなずいた。
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