第50話 祓 3

 何度か練習するうちにちょっとずつ慣れてきたが、このはらいを使用するには、言霊ことだまというものが少し厄介なようだった。

 能力を使用するには彼呼迷軌ひよめきと自分のイメージが重なる言霊の選択が必要になるのだ。


 「例えば、移動する時に使用している言霊。僕らは、"わたれ"という言葉を使っている。これは彼呼迷軌の感覚が、僕たちを移動させているのではなく橋渡しをしているイメージに近いからなんだ。同調しない言霊を使用すると術がうまく発動しない。逆に言えば、イメージが綺麗に重なる言霊の選択ができれば、術の精度や技が格段に増すんだ。移動に慣れたら色々試してみるといい。」


 久遠くおんの説明に耳を傾けながら、小川にそって川下へ向かい移動していた俺たちは、巨大な湖が視界に映る場所に出た。


 湖の上には無数の島が浮かび、島のはしから流れ落ちる滝があまりの高さに霧となって宙に舞っている。


 もはやなんでもありだな。

 最初の白妙の悪ふざけが可愛く思えてきた。


 そんな風に考えていた俺は、そこでようやく時間が大分経ってしまっていることに気づいた。


 マズイ!きっと母さんが心配してる。


 焦った俺が、近くにいた翡翠に「そろそろ家に帰らなくてはならない」と伝えると、翡翠は満面の笑みを浮かべた。


 「帰るのはいつでも問題はありませんが、せっかくなので、神眼しんげんを使って外の様子をご覧になられてはどうでしょう。お急ぎであればそのまま移動もできますし。一石二鳥ですよ。」


 確かに・・・・。

 だけど、ここから自分ちの様子をこんな風に見るのは、なんかちょっと緊張するな。


 そんなことを考えながら、俺は神眼を使った。


 「見せろ。」


 え・・・・・・?

 なんなんだよ。これは・・・・・・。


 俺は、自分の目に飛び込んできた景色に息をのんだ。

 明らかに動揺している俺を見て、しょう光弘みつひろもいぶかし気な表情で外の世界へと意識を集中させる。


 「「見せろ。」」


 2人同時に神眼をつかうと、俺と同じようにその場で凍り付いてしまった。


 「お、おい。・・・・・これって。一体どうなってるんだよ。」


 勝の声が震えるのも無理はない。

 俺たちの目に映る景色は、全てその動きを止めていたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る