第26話 川名 光弘の物語>出会い 1

 姉さんが死に、母さんが倒れ、俺は転校することになった。


 家に帰っても、学校に来ても、俺が独りでいることに変わりはない。

 大勢の中で独りなのと、誰もいない家の中で独りでいるのと、それだけの違いしかなかった。


 学校で、自分の周りに集まってくる人々に仮初かりそめの笑顔を向けていれば、何事もなくただ時だけが過ぎ去ってくれる。

 いつ訪れるとも知れない解放される時を心を殺して独り待ち続けることしか、俺にできることはなかった。


 俺のせいで、姉さんは死んだのに。

 俺が生き続けているのは、なぜなんだろう。

 夢の中でくり返される姉さんの最期に、目には映らない傷口が深く深くえぐられていく・・・・・・。


 転校直後から始まった野崎たちからの嫌がらせは、俺の心に別の大きな傷を作った。


 毎日のように蹴られ身体に暴言を書きなぐられては、シャワールームだと言って掃除用ロッカーへ押し込まれ、冷水をあびせられる。


 ・・・・・誰でもいい。

 誰か・・・もう終わらせてくれ。


 独り心の中でポツリとつぶやきながら、俺はこの痛みを感じることで、悪夢に深くえぐられていく心の痛みを誤魔化そうとしていた。


 俺が死ねば必ず誰かに迷惑がかかってしまう。

 俺は最期まで、この痛みから・・・・・生きることから逃げるわけにはいかないんだ。


・・・・・全てのことがどうでもよくて、全てのものをもうこれ以上傷つけたくなかった。


 押し寄せる寒さに凍えきった身体を、冷たい金属のロッカーへ預け、暗闇の中俺は、これでいい・・・このままでいいと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る