7話 「遺跡の住人たち」

「わおっ! これは!」

 水たまりに取り残された、魚を見つけたバークたちがよろこぶ。

「リアンくんでかしたわ!」アモスがリアンの頭をなで回す。

「この魚食べられますよね?」

「火を通せば、きっと問題なく食べられると思うぞ」

 バークがリアンに、ニコリと笑う。


「これで腹ごしらえをしてから、一気にあの戦艦目指して進むか!」

 バークがそう宣言する。

「そうだな、距離的に半日以上かかるとも思えないしな。まずは体力を蓄えないとな」

 アートンが周囲を見渡して、燃えるものがないかを探す。

 バークが魚を水たまりからすくい取る。

「何? このライター。下品ねぇ」

 アモスがヨーベルの持っていたライターを見て、怪訝そうにいう。

「ああ~、これはですね。あ……、そういえば……。えっと……。ほら、サイギンでわたしがネーブさまのところに行った時に……」

 ヨーベルがここで、ストプトンのことを思いだし、その件について話そうとした。


「わああ!」

 すると、アートンの声がする。

 全員がそっちに注目する。ヨーベルもいいかけの言葉を飲み込んでしまう。

「どうした、アートン!」

 バークが何事かと思い声をかける。

「魚もう食ったか?」

 アートンが、そんなことを訊いてくる。

「生で食うわけないだろ、バカかお前はよ!」

 アモスがすかさず突っ込む。


「どうしたんだよ」

 バークがしけった板を見つけると、アートンに尋ねる。

「リアンたちは、来ないほうがいい」

 アートンがそんなことをいってくる。

「え? なんでですか?」と、リアンが不思議そうにする。

「見ないほうがいいものを、見つけてしまった……」

「何、もったいぶってるのよ! 出番増やそうと思って、いちびってんじゃないわよ!」

 アモスがアートンに突っかかる。

「そんなんじゃないよ……。わかったよ、後悔しても知らないからな」

 アートンが何かを引っ張って、水たまりから少し引き上げる。


 それは、ブクブクにふやけた水死体だった。

「わあっ!」

 リアンが驚く!

「うげ、同じ場所にいた魚だっけ?」

 アモスも嫌そうな顔をする。

「一気に食欲減退ね」


「ここにもいたよ!」

「こっちもだ!」

 リアンやバークが、この辺りに同じような水死体を見つける。

「ここにいた住人なのかな?」

 リアンが不安そうにいう。

「そうだろうな……」

「ってことはこの人たちって、ハーネロ神国の人ってことなのかな?」


「人?」

 リアンの言葉に、アモスが死体の顔や姿を見て疑う。

 水死体は明らかに、人間ではない別の生物だった。

 ハーネロ遺跡の中にいる生物ということで、それらはハーネロンとしか考えられなかった。

「きっとハーネロ神国のハーネロンなんだろうな……」

「……だろうな」

 アートンとバークも納得したように、水死体を見る。

「ここが沈んで、八十年ぐらい経つんだっけ? それだけ年月が経っても、けっこう原型留めているって、どういう連中よ」

「人造生物だから、耐久性高い感じなのかもな」

 アモスの疑問に、バークが適当なことをいう。


「ヨーベルとミアリーは?」

 アートンがふたりの姿を探す。

「あっちにいますね」

 リアンが指差した先にふたりがいた。

 そこにリアンたちが合流する。

 そして、驚く。

 ここにも水死体があったのだ。

「ふたりは平気なの?」

 リアンが訊く。

「こういうのって、けっこう大丈夫ですよ」

 おぞましいバケモノの死体を前にして、ヨーベルとミアリーはケロッとしている。


「なんだか、この方は普通じゃない感じではありませんか? ちょっと偉い人なのかもですね」

 ミアリーが若干うれしそうにいう。

 そのハーネロンはやたらデカいし、複数の腕を持っていたのだ。

「この人たちって、やっぱりハーネロンなんですよね? 課長さんクラスでしょうか」

 ヨーベルが質問してくる。

「ハーネロ神国の遺跡だもん、いて当然でしょうよ」

 アモスが、当たり前といった感じで応える。


「わあっ! すごいです。実際にハーネロンさんを死体とはいえ、見れるなんて最高です!」

 ミアリーがやたらよろこぶ。

「この方たちは、ここで働いていたのでしょうか?」

 ヨーベルが周囲に転がる死体を眺め、訊いてくる。

「かもしれないな……」

 アートンが適当に応える。

「この先、こういう人たちがいっぱいいるかもしれないけど。ずっと海底に沈んでいたんだし、きっとみんな死んでいますよね?」

 不安そうなリアンが尋ねてくる。

 もし生きているのがいたとしたら、大変なことになりそうだとバークは内心震える。



 アモスがドアを蹴破る!

「こっちよ! こっちから進めるわよ!」

 アモスがみんなを呼ぶ。

 リアンたちは建物内部を、目的地である、引っかかっている戦艦めがけて進んでいた。

 結局、見つけた魚は食べなかったリアンたち。

 徐々に空腹も感じだしていた。


「ここは天井が、思いっきり崩落してるわね」

 アモスが崩落している天井を眺めて、先に進めるかどうかを検討している。

「危険かもしれないから、みんな端を慎重に行くぞ」

 バークがそう宣言して、率先して歩きだす。

 全員が部屋の隅を歩いていた。

「床もなんか危ない感じがするが、いまさら引き返せないか」

 アートンが足場の不安定さを危惧する。

「見てみろ! またいたぞ……」

 アートンが向こうに、大きな化け物の死体が転がっているのを見つける。

「ねえ、あいつの周りに転がってるのって」

 アモスが勝手に、そちらに向かって走る。

「見てよ! やっぱりじゃん! これ金貨だって!」


「金貨?」

 リアンたちもアモスの側にやってくる。

「これは、ハーネロ金貨ですわ……」

 ミアリーが驚く。

 ハーネロ金貨は、ハーネロ神国が発行していた通貨だった。

 ハーネロ神国が滅んだ際に、すべて回収された幻の貨幣だった。


「やったじゃん! これ持ち帰れば、けっこう金になるんじゃね?」

 アモスがうれしそうに、床に散らかっている金貨を拾いあげる。

「おい、止めとけって」と、バークがアモスにいう。

「なんでよ! 金はあったほうがいいじゃない!」

 不満そうにアモスがいう。

「持って帰ったって、これは換金するのも難しいと思うぞ。確かフォールでは、ハーネロ時代の遺物を持つことすら、禁止されているんだっけ?」

 バークがミアリーに質問する。

「はい……。法律でそうなっています」

 ミアリーが残念そうにつぶやく。


「だから持って帰ったって使い道もないし、ヘタしたら捕まっちまう」

 バークがアモスにそういって諭す。

「そうだよ、それにこのお金は、この人のだと思うし……」

 リアンが足下に転がっている、水死体となったハーネロンを指差していう。

「何よ、あたしひとり、守銭奴みたいな感じで攻めちゃってさ! いいわよ! フン!」

 アモスが拗ねて、金貨を放り投げる。

 しかし、ヨーベルだけがハーネロ金貨をこっそり一枚拾う。

 そしてそれを、いつもつけている黒いポーチの中に入れるのだった。

 ヨーベルのこの行為は、誰も気がつかなかったようだった。

「みんなには内緒なのです……」

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