5話 「キネとストプトン」 後編
「そういえば、そのメモの女の容姿とは、今はかなり印象が違っている。髪はショートヘアに変わっている」
「なるほどそうか、髪型以外の変化はないか? あったら詳しく教えてくれないか」
キネがメモを用意する。
「服装が普通にカジュアルになっていたから、僧衣のころの印象とはかなり違うな。人目を引く容姿をしているから、見つけようと思えば容易だとは思うな。あと、女であれだけの身長をしているのは少ないからな。それとそうだ、赤いフレームのメガネを掛けていた、変装用なのか本当に目が悪いのかはわからないがな……」
ヨーベルのだいたいの背丈を、手で示しながらストプトンは教える。
「女の仲間についてだが、ネーブ殺害をしでかすような連中とは、おまえは思えなかったんだよな」
「そうだな、危険な仲間という印象は、彼女の話しを聞く限り受けなかった」
「その女絡みの犯行ではないとしたら、ネーブを殺害したのはいったい誰なんだ……。というか、そもそもどうやってネーブの元から、そのヨーベルという女は解放されたんだ。そこが一番重要なんだよな……」
キネは解せぬといった感じで、メモ帳にペンを走らせる。
「それについては、訊けなかった俺のミスだ。状況が逼迫していたから、訊くべき情報の優先度を選択ミスしてしまった」
ストプトンが悔やむ。
あの時、パルテノの一味に追われるようなことがなければ、訊きだせていた情報だった。
「やはり、こちらにいましたか」
キネとストプトンが会話していると、そんな声がかけられる。
話しかけてきたのは、サルガのフルッピーという隊員だった。
フルッピーは、掛けていたメガネをクイッと直す。
この男は先ほど、リアンとぶつかった男だった。
フルッピーはキネの舎弟的な存在で、彼を兄貴と慕っていたりする。
同じサルガのケリーとフルッピーは、キネの弟分というヒエラルキーが隊には存在した。
「フルッピーか、今日は勝ってるようだな。で、例の件はどうなった? 見つかったか?」
キネが席に着いた、上機嫌そうなフルッピーに尋ねる。
「ゲンブさんたちの情報を探ってみましたが、まるで手がかりなしですね。そもそもこの宿に来てすらいないとの話しですし」
「いったい、なんの話しだ?」
フルッピーの言葉に、ストプトンが興味を持って尋ねてくる。
「キタカイの街にあらかじめ送っておいた、ゲンブ、エンブル、ケリーの三人と急に連絡が取れなくなったんだよ。連中、この宿に滞在するといっていたのに、チェックインすらしてないというんだ」
キネがそう教えてくれる。
「なんだか、接点がなさそうな三人組だな。相性が悪そうな、ケリーとエンブルを一緒にしたのか? 親父さんらしくない人事だな……」
ストプトンが腕組みしながら考え込む。
「サイギンでは暇すぎて、無理から任務を作って行動していた節があったんだよ。その三人も、その影響をモロに受けた感じでな」
「なるほど、飼い殺しみたいな状況に陥った感じか。それで無理から、任務を与えたってとこか」
キネから受けた説明で、ストプトンはなんとなく事情を理解した。
「チェックインすらしていないのか?」
フルッピーに訊くストプトンが、飲み物を一口飲む。
「みたいです。時期的に、とっくにチェックインしてるはずなのにね。親父さんは口では大丈夫だろうとかいってますが、内心もう諦めてもいそうですね」
ライ・ローの感情を読み取ったフルッピーが、店員を捕まえて紅茶を頼む。
「ゲンブはやる時はしっかりとやる男だが、手を抜く時はとことん抜くからな。それがたたって、何か良からぬゴタゴタに、巻き込まれたのかもしれないな……」
「調査対象に、変な感じで突っ込んだとかないでしょうかね?」
フルッピーが、考え込んでいるキネに尋ねてみる。
「キタカイでの内偵対象も、サイギン同様目くそ鼻くそな連中ばかりだったはずだ。接触して、どうこうされたなんて考えられない。やはり、キタカイに来るまでの間に、何かあったと考えるべきだろう。この宿にチェックインしていないのが、その証明だろう」
「不安だな。旧友として、俺も三人の身を案じておくよ」
ストプトンが、オールズの祈りの仕草をして三人の安否を祈る。
「ところで、おまえたちはキタカイでは何をする予定なんだ?」
ストプトンが胸のロズリグを、服の中にしまいながら尋ねてくる。
「俺はしばらく、おまえと行動を共にしようと思ってるよ。例の女との接点を図れるようなら接触したい。きっと親父も、そうしろといってくれるはずだ」
「おまえが手伝ってくれるなら、これほど心強いものはないな」
ストプトンが、キネに対して礼をいう。
「おまえは、オールズから完全に追われてる身になったのか?」
キネがストプトンに尋ねる。
「パルテノ一派からは追われる身だろうな。だが、オールズ教会本体から追われるということはないだろう。パルテノたちはそもそも、オールズ教会から孤立しているような連中だからな。だから本部に僧籍はまだ残っているはずだ。一応考えている案としては、この街で例の女と再接触を図れたら、カンズリーンのヨセイジャ司祭を頼る予定だよ」
「ヨセイジャ司祭か、ありかもしれないな。あの人なら、困ったおまえを助けてくれるだろうな」
キネは、ヨセイジャという司祭の人柄を、知っている風な感じでいう。
「キネの旦那がいっていたように、サルガに戻るってことはまだ考えてられないのですか?」
「パルテノのところにいたどん底の時には、サルガに合流するのも考えたが、今は自由を得た身だ。もう少し僧侶として活動しておきたい。これでも俺は、オールズの敬虔な信徒だと自負しているからな」
ストプトンが、フルッピーの質問にそう答える。
「とにかく、例の女と接触を図れるならやっておきたい。ここに来てくれることを祈るばかりだ」
ストプトンは、ヨーベル・ローフェという女との再会を心待ちにしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます