第5号線「ララへ」

 「ララへ。


 僕がお店を出てどれくらい経っているだろうか。君が普段、決して触れない場所にこの手紙を置くことにしているから、もしかしたら、ロボットの君にはこの手紙を一生、見つけることが出来ないかもしれない。

 だがもし。もし君が、いつかプログラム以外の行動に出てくれた時の為に、僕はこの手紙を残そうと思う。


 まず君には、謝らなくちゃいけない。


 僕は君に嘘を吐いた。買い出しに行くなんて嘘だ。嘘なんだ。僕はもう、ここには戻らない。


 人類が地上を飛び立って空での生活初めてから、50年が経とうとしているらしい。

 この節目に、政府は残りの地上人(最近はwalkerウォーカーと言うらしいね)を一斉に空に移住させる制度を制定したんだ。

 君も分かっているだろう。人類の大半が空で生活しているこのご時世、地上で商売は、もう出来ない。治安も悪くなる一方だ。今から空に移住すれば、政府が費用を負担してくれるし、新しい物件も格安で手に入る。


 だから僕は、これからは空でお店をやっていこうと思う。


 ただ…、ただ。


 空へ移住するにあたって、ロボットの君を連れて行くと、付添税が掛かるんだ。そしてロボットの付き添いがあると、政府の補助が受けられない。

 分かるかな。分からないよね。

 簡単に言うと、君と一緒に空へ移住するには、多額のお金が掛かるんだ。

 とても今の僕には払えない。


 だから、僕と君は、ここでお別れだ。


 君はきっとこの手紙を見つけるまで、僕が教えたとおり、お店を完璧に掃除して、毎日茶葉や食材の鮮度を管理して、ずっと、ずっとこのお店を守ってくれるだろう。


 ララ。


 この手紙を見つけたこの瞬間で、君の役目は終わりだ。


 今まで頑張ってくれて、僕を支えてくれてありがとう。

 君の声に、君の感触に、そして君の笑顔に、僕は何度も救われてきた。

 本当にありがとう。だからどうか、これからは君の好きなところに行って、好きなことをして欲しい。

 あわよくば、君が気に入っていたお母さんうさぎやお父さんうさぎ達も、そのときには一緒に連れて行ってほしいな。

 ああ、それから。君の身体は特殊なレアメタルが多く使われていて、それを狙う悪い人が最近は増えてきたから、地上人には迂闊に近寄らないようにね。特に、人相を隠している地上人には要注意だ。顔を剥ぎ取られてしまうかもしれないよ。


 君を置き去りにする身で、いつか君を迎えに行くなんて図々しい事を、僕は言えない。君のこれからを拘束することも出来ない。


 だから僕は、君が幸せでいられるように、空から祈り続けている。


 どうか、いつまでも、僕が愛した笑顔で、笑っていてください。


 さようなら。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る