第24話 隣室
部屋のドアの前に立ち、南条はドアをノックした。
「自分の部屋ですよね。なんでノックするんですか?」
「そうか。ここは、わたしの部屋なんだな?」
知りたいのはこっちだよと突っ込みそうになる。
カチャリと音がした。ドアのラッチが開いた音だ。南条の部屋からではない。奥の203号室からだ。
どんな
奈緒と明奈は隣室のドアを見た。ドアは
ただ、ドアが開いた途端、廊下の温度がぐっと下がったような気がした。大型の冷凍庫の扉から漏れてきたような寒気が、ドアの隙間から流れて来る。
「なんだか、嫌な気分」
明奈が呟いた。能天気な明奈にしては、重苦しい口調だ。
「川窪さん、あそこ、誰か
小声で明奈が告げる。確かに、僅かに開いたドアの隙間から誰かが奈緒たちを見ているように思える。
「隣の人でしょう。暑がりなのね。冷房が強すぎ」
笑い飛ばそうとしたが、奈緒の顔は
「そうなのかな?あの人、なんだかこっちの人じゃないような気がします」
こっちの人とあっちの人の違いって何?明奈の首ねっこを
「開いた!」
南条の大声に、奈緒も明奈も飛び上がった。L字型のドアノブの開け方が分からず、四苦八苦していたらしい。
「いや、苦労した。おかしいな。出るときは簡単に出てきたはずなのに」
奈緒と明奈の非難の表情に、南条は困惑した。
明奈が奈緒の肩を叩く。明奈の視線が隣室のドアに向いている。ドアは先ほどより大きく開いていた。ドアの下方から
「入りましょう。早く部屋に」
南条を急かし、ドアを開けた。飛び込もうと足を踏み出した瞬間、奈緒と明奈の体は凍りついたように動かなくなった。
真夏の熱気と共に、凄まじい臭いが南条の部屋から流れ出て来た。隣室からの冷気など問題にならないほど、南条の部屋から流れ出てくる淀んだ空気は濃厚だった。
「うぐっ」
「無理、絶対ムリ。こんな部屋に入ったら、子供ができてしまうわ」
呟いて明奈を見ると、明奈は口と鼻をバンダナで
「仕方ない。オサカベさん、ここで待ってて。絶対に動かないでね。必ず戻ってくるから」
ホラー映画では、必ず戻ると言って出て行った登場人物は絶対に戻って来ない。そんな考えが奈緒の脳裏を
「お願いね、ここを動かないで。南条くん、いい?わたしが戻るまで、部屋の中に入らないで。5分、いいえ、3分で戻る」
南条の返事を待たず、奈緒は廊下を駆け出した。階段を駆け下り、コインパーキングに駐車した覆面パトに向けて突っ走る。
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