第62話 人生の終わりに。

春の雪の降る日。


おじいちゃんは空へと旅立った。

最後まで粋な人だった。


子どものころからやんちゃだったというおじいちゃんは、

おじいちゃんになってもやんちゃで(笑)


出かけるときは必ず帽子をかぶり、盆栽と鳥とお酒を好み、相撲を見てレコードを聴いた。

そして家族の誰より、涙もろく情に熱い人だった。

姉の結婚式で、一番先にひっそりと涙を流していたのを私は覚えている。


私は幼いころ、おじいちゃんについていっては、おじいちゃんの仕事場で遊んでいた。

時にはコンクリート工場で、時にはダンプ車に乗って。

そして、ユンボに乗るおじいちゃんを遠くから見て、絵を描いていた。(そのために外で絵を描く用の画板を母に買ってもらった)

その絵をおじいちゃんは、とても気に入ってくれた。


とても器用だったので、私に竹トンボを作ってくれたこともある。

家の周りに生えている竹を切ってきて、ナイフ一本で削って作ってくれた。

その竹トンボの飛ぶパワーには驚いた。これが本物だと。

20年以上経った今、竹トンボをしまった棚から出してみた。


月日が経っても、そのまま形も色も変わっていない。私の思い出もそのままだ。


思い出すといろんなことがよみがえってくるけど、

思うことはもっと話せばよかったな。話せるときに話せばよかった。

大人になってからはあまり、会える時間がなくなり、

私を認識できなくなってからは数年経っていた。


家に帰ってきたおじいちゃんの手は温かかった。

そして、変わらずおじいちゃんに手はごつごつとして大きかった。


最後のおじいちゃんの体温を自分の体で感じられた。

ああすれば、こうすれば、思うことは終わらないけど、私にとっておじいちゃんはシャイでいつもニコニコとして、かっこよく人生を生きた人だ。



おじいちゃんが旅立つ3日前、入院中だった時。

おじいちゃんの夢を見た。


お酒好きだったおじいちゃんと家で乾杯していた。一緒にお酒を飲む夢を見た。

おじいちゃんは夢の中で笑っていた。私も笑っていた。


現実では一緒にお酒を飲むことはできなかったけど、最後に話せなかったけど。

それでも、夢の中ででも、会えた。


嬉しい夢だった。


また夢の中で会えるといいな。


おじいちゃん、いつかそっちで一緒にお酒飲もうね。

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