第20話 花火大会③

 特設会場に着いた俺たちは、周囲を見渡していた。


「ギリギリに来てるから、見やすい位置があまり無さそうだな」


「でも、あの辺なら座りながらでも花火見えそうじゃないですか?」


 かのんが指さした方を見ると、確かに人があまりいなくて座る事はできる。

 だけど、人があまりいなくて座れそうな所ほど立地が悪く、見にくいこともある。


「とりあえず、見やすいか確認しに行こうか」


「そうですね」


 案の定、この場所は座る事は出来るが花火が上がったら木で隠れてしまう。

 木で隠れてしまったら、多少見えても感動が減るので、俺は他にいい場所がないか更によく見回した。


「かのん、あそこなら花火も見えそうだし座る事もできそうだぞ」


 俺が指さした所は、石階段になっていて紙なんかを敷けば座れるし、場所的にも花火が見やすい感じの場所。


「善は急げなので、埋まる前に向かいましょう!」


「そうだな」


 目的地に着くと、席はそれほど埋まってなく、そして絶好のスペースである。


「ここのスペースで良さそうだな。かのん、浴衣が汚れるからこの紙を引いて座りな」


「奏風先輩の準備の良さに私は今、猛烈に感動しています!!」


「そんな事で感動するなんて安すぎるだろ」


「奏風先輩になら無料ただで感動を差し上げます!」


 少し笑みをこぼしながらかのんに言うと、満面の笑みで返答してきた。


 その言葉を聞いて、俺は少し戸惑ったが「そうか」と頷き、俺とかのんはその場に座った。



 花火が上がるまで、あと数分と迫っていたが俺達は少し沈黙していた。

 理由としては、かのんが買ってきた物を食べていて集中していた事が大きい。

 俺はというと、行く時に貰ったパンフレットを開いて、花火大会の概要や歴史などを読んでいた。


「っ…けほ…」


 すると、横でかのんが咽せた。

 よく見ると、食事で喉を詰まらせた訳ではなく、普通に喉が渇いて咽せた様子。


「かのん、お茶を飲んで喉を潤すんだ」


 俺がそう伝えると、かのんは首肯してお茶に手を伸ばした。

 そして、キャプを開けるなり勢いよくゴクゴクと飲み始める。

 横で「いい飲みっぷりだ」と思いながら、眺めていた。


「奏風先輩…助かりました…」


「飲み物も飲まずに、行動してたから仕方がないけど気をつけろよ」


「はい、夢中になって忘れてました」


 そんな感じで話をしていたら、花火の開始時間になった。

 開始時間と共に『ヒュー…ドン』と大きな音を発して綺麗な花火が広がる。

 

 俺は花火を見ながら「綺麗だな」と呟くと、かのんが「綺麗ですね〜奏風先輩と花火見れて幸せです」と言われて少し照れ半分、嬉しさ半分に顔が赤くなった気がした。


 二発目、三発目の花火は最初と同じ形だったが、上がる数が二倍・三倍へと増えて同時に五発上がっていった。

 五発目に関しては、ハート型の花火が上がりかのんが「ロマンチックな花火で素敵」などと呟いたので、「色んな形の花火があるんだな」と盛り上がった。


 最後に、花火大会恒例の連発してからの特大が上がり花火大会は終わった。


「あ〜、まだ興奮が覚めません!!奏風先輩はどうでしたか?」


「そうだな。俺も花火を見たのは久しぶりだから、とても楽しい時間を過ごせたよ。来年も見に行きたいな」


「そうですね!来年も二人・・で見に行きましょう!」


「だな!」


 かのんと会場から駅前までの帰り道でそんな話をしていた。

 実は言うと、俺も内心とても興奮していた。

 花火大会に来たのも久しぶりだが、女の子と二人で浴衣を着て出掛けること、そして、これが一番大きくて、一年後にまた一緒に見ることを約束した事。

 後で携帯のメモ帳に忘れないようにメモしとこうと、我ながら変な事を考えていたら


「奏風先輩、駅前に着いてしまいました。そして、夏休みがいよいよ終わってしまいますね…この約一ヶ月とても楽しかったです。二学期が始まっても、また二年のクラスに遊びに行ってもいいですか?」


 しんみりした雰囲気を出して、話しかけてきた。

 夏休みが終わり、また学校が始まる。

 かのんは、この夏休みはとてもかけがえのない思い出になったのだろう。

 だからこそ、夏休みが終わるのが寂しいと思う。

 そんなかのんに向けて俺の言う事は決まっている。


「かのん、俺はいつでも教室で待ってるから遠慮せずに遊びに来いよ!まぁ、いつでもって言いながら授業中とかはダメだぞ」


「わかりました。奏風先輩に迷惑が掛からない程度で、遊びに行きますね!」


 これが今、俺がかのんに伝えられる最大限の言葉。

 それを聞いたかのんは、少し微笑んで伝えた。


 俺は迷惑いつも掛けてるようなって思いながら、その言葉は飲み込んで、改めて「待ってるよ」と伝えた。


「では、また学校で会いましょう!大好きですよ!」


 そう言って、かのんが大きく手を振りながら改札へと走っていく。

 俺はそれを見ながら、手を振って踵を返す。



 帰宅後、かのんの言葉を考えながら


「いよいよ、覚悟を決める時なのかな…」


と独り言を呟いていた。

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