神龍現る!

 しかし夏はその音を聞き逃すことはありません。


「りん 今何か聞こえたでしょ! なんでどど~んって音がしたの?何かしたの?」


「私何もしてないよ。鏡見てただけだもん」


「そう?りんが鏡みてるとき遠くからどど~んって聞こえたように思ったんだけどさ。偶然かな」


「そう? 私気付かなかった」


 りんは鏡をそ~っと元の場所に戻しました。

 少し首をかしげて考えていた夏でしたが


 「さあ そろそろお家に帰ろうか」

 祠の小さな扉を閉めて両手を合わせると、ふたりは小道を下りていきました。


 「ねえちゃん、春の七草はなんだっけ?」 

 りんは道々鼻歌まじりでお花を摘んでいます。


 夏は大桜を振り返りながら

「さっきのあの音なんだろう?聞き覚えのある音なんだけどな・・・鏡と言えばゆきがキラキラ太陽光を反射させながら巫女舞いの練習をしてたよね」

 花摘みをするりんを後ろから見つめつつ腕組して考え込みながら丘を下りてゆく夏でしたが


「りん ちょっと待って!」


 夏が突然りんを呼び止めました。

「りん!おいで!試したいことがあるんだ。もう一度大桜に行くよ」

 言うが早いか夏は猛ダッシュで丘を登り始めたのです。


 夏があまりにも急にUターンしたので りんはわけもわからぬまま後を追うしかありません。

 息を切らして丘を駆け上がった二人はふたたび祠の前にたたずみました。


                  ♬ ハリーポッターテーマ曲 


 夏はすばやく一礼すると祠の中から鏡を取り出します

「りん さっきやった通りにやってみて!」

 もどかしそうに鏡をりんに手渡します。


「どうやったかよくわかんないよ。こうだったかな?」

 りんは怪訝(けげん)げに鏡を受け取ると言われるがままに自分の顔を写してみたり、裏返したりしてみましたが別に何事も起こる気配はないようです。


 りんのそのしぐさを真剣な眼差しで観察していた夏でしたが

「やっぱりさっきの音は偶然だったのかな?・・・。りん、もう鏡しまっていいよ。わたしの思い違いみたいだわ」


「うん わかった」


 りんが鏡をしまおうとして鏡を裏返しにしたそのときです。


 太陽光が鏡に当たりその反射光が一瞬、大桜の幹を横切りました。


               ♬ ドドーン 雷鳴


 遠くから雷鳴が鳴り響きました。


 りんはハッとして夏を振り返ります。


 夏の瞳がキラッと輝きました。そして興奮気味に叫びました。


「りん!わかった! その鏡だよ! 鏡の光が大桜の幹を横切った瞬間に雷鳴が聞こえたんだ。よし!鏡を貸してごらん」


 夏はりんから鏡を受け取ると青空に大きくかざしました。そして太陽光をいっぱいに受けた鏡のその反射光を大桜の幹に投げかけたのです。


その瞬間

 

                       ♬どど~ん


 また晴天の空に重低音の雷鳴がとどろいたではありませんか。


「よし!」 


 夏は太陽光をしばらく幹に当て続けます。

 すると遠くの空に渦巻型の黒い雲が現れ大音量の雷鳴とともに見る見るうちに丘に迫ってきたのです。


「お~い あんたたち 早く下りんと雨がくるど~」

「は~い わかりました」

 

 大桜の近くの畑で鍬打ちをしていた近所のおじいさんが大慌てで鍬をかついで丘を下りて行きます。


                  ♬ 和太鼓


 そして突然の大粒の雨。

 でも二人はその場から離れようとはしません。


 そうです! 二人にはあのゆきの使いが上空に現れることが分かったからです。


                ♬ パイレーツ オブ ザ カリビアン

                   

「やった~!神龍さんだ!」


 りんが大粒の雨を浴びながら雷雲に向かって両手を振ります。

「神龍さ~ん!生きていたんだね~!」

 夏も上空を見上げて叫びました。


 雷雲の合間からあの懐かしい神龍がその巨大な姿を現したのです。


「神龍さん 久しぶり~!」


 二人は神龍に大声で呼びかけます。

 神龍は金色の目を細めると雲とともにゆっくりゆっくりと大桜のそばに降り立ちました。

 同時に雨はピタリと止んで辺りは霧に包まれたのでした。

 その霧の中で神龍と姉妹は数年ぶりに再会します。

 

「夏様、りん様お久し振りです。あなた方が私を呼んで下さることをずっとお待ちしておりました。やっと鏡を使う方法に気付かれましたね」

 神龍は例のなつかしい重低音で二人に優しく語り掛けました。


「神龍さん今日はずいぶんと派手に雨を降らせたね。せっかく咲き始めた桜の花が痛んじゃうよ」

 ずぶ濡れになったりんが神龍に少しお小言しましたが顔は満面の笑みです。


「ごめんなさい。久しぶりに呼ばれたものでつい嬉しくて少しやりすぎました。確かにおっしゃる通り桜の花が痛みますね。次からは気を付けます」

 りん様にはかなわないなと少し伏し目がちになる神龍でした。


「神龍さん、あなたは千八百年もの間、この桜とこの村を守ってくれてたの?」

 夏が問いかけます。


「はいその通りです。でもずっと“神庭の滝”で眠っていたわけではありません。時には時空を移動してこの国の色んなことを見てきました。この桜とこの村を守ると同時にゆき様がお造りになったこの倭の国を千八百年の間、ずっと見守ってきたのです。

 これからも今の日本の国をそっと見守り続けて行きます。それがゆき様から私に与えられた使命なのです。ですから私はこれから何百年いや何千年も“神庭の滝”で生き続けていきます。なにしろ私の命は不滅ですからね」


 神龍はぎょろ目をキラッとさせると嬉しそうにいいました。

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