第84話 新たなる地

出口方面に向かって歩きながら俺は考える。

俺は理の力をまだまだ理解していないのではないかと……。

この先を理解する為にはもっと違う事をやらねばならないのかもしれない。

だが、それが何かは見当がつかない訳だが……。


《難しく考えない方がいいの》


「うーん……難しく考える訳じゃないが……」


《何れ時が来ればわかるの》


まあ、そんな物なのかもしれない。馬鹿の考え休むに似たりって言うからな。


《主は上手いこと言うの》


……コイツはバットアックスの刃の方でぶん殴った方がいいですかね?


それにしてもアマモと言う九尾の妖狐は一体何者なのだろうか?試練とか言うからには精霊とかそっち系じゃ無いだろうか?


その昔、光の勇者とやらも受けた試練か……だが、俺は器が圧倒的に貧弱だからそれを何とかしなければならない。精霊の腕輪があると言っても制約があるからね。光の勇者様がどれほどの器の持ち主だったかは知らないが、俺と同じとは到底考えられないしね。


それにしても此処に飛ばされてから色々な事があったなぁ。とにかく最初にアシュのおっちゃんと出会った事は俺にとって幸運だったよ。それが無かったらまだ半分……いや、三分の一も来れてないかもしれない。何せ言葉から教えて貰ったのだからね……そう言えばすっかり慣れてしまったが、コチラの言葉が向こう側でも通じるのかな?また覚えるのは面倒だなぁ……。


「おい、ラダル。どうかしたのか?」


「うん、今までの事を考えてた。それでさ、また向こうでも言葉が通じないとヤダなぁって」


「ああ……それは考えてなかったな……確かに有り得なくはないな」


するとブリジッタさんは俺達にこう話した。


「恐らくだけど言葉はコチラと変わらないと思うわよ。向こう側から来たという書物が全部コチラと同じ字を使ってたからね」


「あっ、そうなんだ!そりゃあ良かった!」


「って言うか、言葉から覚えたの?」


「うん、コッチとは文字も言葉も全く違ってたからね」


「そ、そうだったんだ。それじゃあ大変だったわねぇ……」


「ああ……もうアレはやりたくないな……」


「とにかく良かったよ。コレで問題も無しかなあ」


「此処を出てからはどうするの?」


「とりあえず武装商団とやらを探さないとね。まあ人里に行かないと駄目だろうね」


「地図も何も無いからねぇ……大丈夫?」


「とりあえず『眼』に空から人里を探させてから動くようかな。闇雲に動いても仕方ないしね」


「そうねぇ『眼』ちゃんなら直ぐに街の一つや二つ見つけてくれるわよ!」


《それは任せるの。昔行った村が有れば良いの》


「でも随分と前なんだろ?もしかすると無くなってるかもだからな」


《それは否定しないの》


そんな話をしながら前に進んだ俺達はこの先でコボルトの群れに遭遇した。

キラは喜んでコボルトを倒しながら食ってたよ……どうやらこの洞窟に住み着いていた様だね。俺達が洞窟の奥からやって来たのはコボルトもびっくりしだろう。流石にアマモの魔力を感じ取ってこの辺に居たんだな。

その後も色々な魔物が居たのだが、全てキラと『十三(じゅうぞう)』によって倒されていた。


「コボルトが居るって事は出口もそう遠くないな」


「やっとこの洞窟から出れる……」


「しかし……何故ウロボロスなどが居たのやら」


「そうねぇ……生態については分からない事が多いから……何せ絶対数が少ないからねぇ〜」


《本来は地下深くに居るの。あのガスが充満してたせいで出て来たの》


「ああ……って事は……」


「全てはドワーフのせいって事だね!クソっ!」


「まあ、あのドワーフ達にはウロボロスの背骨を使った物を作らせるから、それで元を取らないとねぇ~」


「奴らには丁度良い仕事だよ。酒だけ与えてれば頑張るでしょ!」


「それに……コレも有るから迷わないしね」


とブリジッタさんは奴らが持ってた方向感覚を戻す魔導具を取り出した。


「いつの間に……」


「フフフ……ラダル君が長と話をしてる時に最初に襲って来たのが居たじゃない?アイツからせしめたのよ」


「ムムム……流石はブリジッタさん……侮れんな」


「帰りにでも背骨を持って向こうに交渉するわ。しっかりと千年洞窟にした責任も取ってもらうから」


もうブリジッタさんの頭の中では壮大なドワーフ奴隷計画が組まれている様だ……ドワーフ共め、死ぬまで骨の加工をし続けると良いわ!フハハハハ!!


「あっ!明かりが見えて来たわ!」


「おお、遂に出られるぞ!」


俺は暗視用のゴーグルを外して外に向かって行った。出口を出るとそこは山の中腹で向こう側とは少し違う草木が生い茂っている。相当な年数人が入った様子は無い……獣道だけが有る感じだな。


《上空から確認するの》


『眼』はフワフワと上空に向かって行った。


「さて、コレで任務完了よ!本当にお別れね」


「そうだな。改めて礼を言うブリジッタ」


「ありがとう。私も礼を言うわアシュトレイ、ラダル君、私もロザリアも強くなれたしウロボロスのお宝も手に入れた。全部あなた達のおかげよ、本当にありがとう」


「こちらこそありがとうですよ。あの時二人が助けに来てくれなかったら本当にヤバかったですから……」


「そうよ!だからここまで行くって言ったのに!」


ロザリアは頬をふくらませてそう言った。


「ゴメンゴメン。あの時は危険に晒す訳に行かなかったんだよね……」


「ニャア……」


「フン!私はもう強いんだからね!」


「うむ、この旅でロザリアはとんでも無く成長したからな。師匠のオレも形無しだ」


「そうねぇ〜ロザリアの師匠は“両方”共に優秀よねぇ……」


と言いながらブリジッタさんはロザリアの頬を引っ張ってる。目が怖いです……。


「も、もちろん、ブ、ブリジッタも優秀よ!」


「そぉ?解ってるなら良いわよぉ〜」


《村が見えたの》


と『眼』が頭の中に画像を送ってきた。ほお……結構大きな村……いや、街だな。


「ここからだと……アッチの方向だね。距離はそこそこあるなぁ」


「まあ、慌てる事は無い。街でゆっくりと策を練ろう」


「うん。それじゃあブリジッタさん、ロザリア、俺達は行くよ!」


「ラダル君、無茶しちゃダメよ。アシュトレイもね!」


「ああ、解ってるさ。ロザリアの事頼んだそ」


「もちろんよ。任せて!」


するとロザリアが俺の方やって来た。


「も、もう助けに来てあげられないんだからね!!」


「そうだな、気をつけるよ」


「わ、分かってれば良いのよ!師匠も元気で!」


「おう、ブリジッタの言う事を守るんだぞ。無茶はするなよ」


「ニャア~」


「キラも元気でね。ラダルの事は頼んだわよ」


「ニャッ!!」


「それじゃあ、ブリジッタさん、ロザリア、さよなら!!」


俺とアシュのおっちゃんはブリジッタさんとロザリアと握手をしてからそのまま街に向かった。

俺は振り返りながら手を振るとブリジッタさんは手を振り返してたが、ロザリアは仁王立ちして腰に手を当てたままだった。何でや?




◆◆◆◆◆◆




そこから動かないロザリアを見ながらブリジッタは溜息を吐いてこう言った。


「全く……ロザリア、泣いても良かったのよ」


「な、泣いたら……ふ、二人共困るでしょ!」


そう言って泣くのを我慢しながらロザリアは仁王立ちで二人が行った方向をじっと見ていた。


「ホントに不器用な子ね……誰に似たんだか……」


ロザリアは二人が見えなくなるまでそうしていた。


これから数年の後、ロザリアとブリジッタは仲間と共に世界を救う為の壮大な冒険をする事となるのだが、それはまた別の物語(おはなし)。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




いつもお読み頂きありがとうございます。

これにて第二章は終幕となります。如何でしたでしょうか?

この後、閑話を一つ挟んだ後に第三章の開幕となります。戦乱の真っ最中のこの地でラダルとアシュトレイはどの様な冒険をする事になるのでしょうか?


そして、ブリジッタとロザリアの物語はいずれ書きたいと思っております。


皆様の応援のおかげで無事に二章ラストまでたどり着けました。本来の予定より10話ほど多くなってしまい間延びしないかと思いましたが、如何でしたでしょうか?

それでは閑話挟んでですが、第三章でお会い致しましょう。

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