第77話 スナイパー『十三(じゅうぞう)』

ヅーラ渓谷を魔物を倒しながら10日間……遂にヅーラ渓谷を抜け出す事が出来た。

このままコンロンまではあと1週間くらいかな。


この間もロザリアの進化は止まらなかった。光魔法に関してはアシュのおっちゃんが免許皆伝の様な事を言っていたし、ブリジッタさんも「概ね問題無し」との言葉を貰っていた。後は二人共に実践有るのみという見立てであった。

俺は自分が天才だなどとは思ってはいなかったが、それでも並の奴よりは出来る方だとは思ってた。けれどロザリアを見ていると天才というのはそういうレベルを超えた存在なのだなぁと思うわ。

そりゃあ俺がどれだけ魔力操作や無詠唱にこだわってどんだけ練習してたかを考えれば、教えたその日に出来るとかとんでもない事なのよね……。ホント羨ましいわ。

まあ、当然隣の芝は青く見えるってバイアスもかかってるだろうけど、やはり凄い事だよ。もし俺が前世の記憶を持って無かったら当然嫉妬したと思うよ。でも俺は嫉妬と言う感情よりは凄さの方が全然湧き上がってるのよね。コレは俺がおっさん的な視点でロザリアを見てるからなのだろうね。


そんな俺はと言うと……ドワーフの里で手に入れたオートマタをイジっていた。

斥候用にと造られたソレは俺の半分位の背丈しかない人型で軽い奴だ。こいつは中々面白いオートマタで、色々な場所をスタスタと登ってしまうし、軽業師の様な動きも出来て素早い。しかも一つ目なのだが物凄く目が良いので遠くまで見えるらしい。『眼』に確認させたら真面目に4km以上の視野がある事が判明した。

そこで俺は以前に帝国の奴からぶんどった魔法銃を持たせてスナイパーとして使えないかとコイツに教育を施していたのだ。

当然の事ながらこのオートマタの名前は、かの伝説的スナイパーのコードネームから『十三(じゅうぞう)』と名付けた。どこかの街の名前や役者の名前に似ている気がするが、細かい事は全く気にしない。

『十三(じゅうぞう)』は本当に優秀なスナイパーだ。木の上だろうが建物の上だろうが崖の上だろうがササッと登って魔法銃を撃って正確に相手を倒す。しかも生き物では無いので俺の魔導鞄に入ってしまうから持ち運びにも便利だ。


「よし、『十三(じゅうぞう)』撃て!」


音もほとんどしない魔法銃からバレットが高速で発射される。


《命中なの》


4キロ先に居る『眼』から画像が送られる。おお!!ど真ん中に命中してるぞ!スゲェな『十三(じゅうぞう)』は!!


(『眼』どの位の精度だ?)


《今の所96.2%の命中精度なの。この距離だと風の影響が有るからこの精度でもかなり凄いの》


(やはりこの距離だと『眼』のサポートは必要だな。サポート無しだと2kmが限度だな)


《直線上の風向きと風速さえ解れば『十三(じゅうぞう)』の狙撃は完璧なの》


(分かった!もう戻って良いぞ〜おつかれちゃん)


「よし、こんなもんだろ。『十三(じゅうぞう)』もご苦労さん」


『十三(じゅうぞう)』は魔法銃を魔導鞄に入れた後、自らも魔導鞄の中に入って行った。超便利だ。


「ラダル、どうだ?『十三(じゅうぞう)』の射撃?だっけか?」


「うん、凄い命中精度だね。『眼』とのコンビだと4キロ先の的を確実に捉えてるね」


「ほう、それは凄いな……」


「驚いたわね……4キロ先って……聞いた事無いわね!」


「因みに俺なら【暴走する理力のスペクターワンド】を使った『溶岩弾(マグマバレット)』なら6キロ先を当てれるよ。戦場ではそれで指揮官クラスを倒してたし」


「ろ、6キロ?!!」


「はぁ?!6キロ?!嘘でしょ??」


「ホントだよ。『眼』のサポートは当然要るけどね」


「へぇー、凄いわね……なら『十三(じゅうぞう)』ちゃんは要らなくない?」


「いや、アレね……結構神経使うからさ。あまり頻繁には使えないからね。だから『十三(じゅうぞう)』が使えるに越した事は無いね」


「なるほど……じゃあ良いオートマタ手に入れたわねぇ〜」


「うむ、『十三(じゅうぞう)』恐るべしだな」


確かに良い買い物だったよ。使いにくいオートマタを死蔵してるより使えるオートマタの方が良いに決まってる。それにしてもドワーフの魔導具職人は本当にスゲェな。


コレで俺は戦況を見渡せる『眼』と近距離攻撃無双のキラと遠距離狙撃の『十三(じゅうぞう)』と言う武器を持った事となる。

この先の戦乱の地においてはこのチームは大きな力となるだろう。しかもコレにオールラウンダーのアシュのおっちゃんが加わるのだからね。

まあ、正直俺が指揮官なら絶対に欲しい傭兵団だよな!


するとロザリアとキラのコンビが今日の夕飯を仕留めて戻って来た。


「キラが半分食べちゃったけどジャイアントスパイダーを狩って来たわ!!」


「ニヤッ!」


「おお!結構大物だね!コレなら半分でも十分な量だよ!」


「当然よ!私とキラが狩ってるんだからね!」


「ニヤッ!!」


俺は飯の支度にかかる。今日はみんな大好きな鍋にしようかな。ん?ちょっと待てよ……せっかくだから買って来た魔導オーブンでピザにすっか!カニならぬジャイアントスパイダーピザ!!

早速俺はパイ生地を作り出す。


ロザリアとキラは俺がドワーフの里で購入したシャワーテントで身体を洗ってる。キラの世話をしてもらって助かるわぁ〜。この魔導具も優秀だわね。


パイ生地を沢山作ってジャイアントスパイダーの脚の身とオーク肉をハーフアンドハーフで。トマトソースとたっぷりチーズをかけて魔導オーブンで焼けば出来上がり〜。


「コレは中々美味いな!熱っ!」


「おいひい……わね……ハフハフ……」


「のびーる!!」


「どんどん食べてね。まだまだ焼けるよ」


俺も食べながらキラにも上げる。キラ……一口で食って火傷……あっすぐ治るから平気ね……。

結局、全部平らげたので余り無し。好評だったので翌日もピザ作る事になったわ。魔導オーブンのおかげでメニューがまた増えたなぁ〜。


こんな感じで1週間が瞬く間に過ぎて、最後の目的地となるコンロンに到着した。


コンロンに着いて直ぐに宿を手配した俺達は村長の所に挨拶に行く。ブリジッタさんは何度も来てるので話は早かったよ。


「ブリジッタ殿!かのデュラハンスレイヤー殿と共にポリュペーモスを倒されたとか!本当に素晴らしい活躍ですそ!」


「うふふ……刺激的な毎日よ。で、村長に聞きたいのは千年洞窟についてなのよ」


「千年洞窟ですか?今はかなり荒れてる状態ですぞ。近寄らない方が宜しいかと……」


「そんなに酷い状態なの?」


「過去の記録ですと……山脈の向こう側と交易がされていた頃も有ったのですかね……今はかなりの魔物が住み着いてしまってますね」


「だが向こう側に行かなければならないのですよ。我らの故郷に帰る為にね」


「うむ……200年前ならば道も判っており、魔物が危険でも通れなくは無かったのですがね……あの怪物共が現れなければ……」


「あの怪物共??」


「はい、記録によると200年ほど前に毛むくじゃらの怪物達が現れてからあの洞窟の道という道を破壊して回ったそうで……それであの洞窟は余計に迷宮の様になってしまったとか」


「……」


ブリジッタさんもアシュのおっちゃんも絶句しているね……俺も嫌な感じしかしないんだけどさ……一応聞いてみるよ。


「その怪物達って、その50年後くらいにパッタリと見なくなったとか有りませんよねー?」


「おお!!良くご存知で!!」


あのクソドワーフ共が!!今から戻ってぶち殺したろかーー!!





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





いつもお読み頂きありがとうございます。

ドワーフの里で手に入れたオートマタの『十三(じゅうぞう)』が新たなキャラとして登場しました。スナイパーという事ですからこの名前です。彼は手足を持たない『眼』の攻撃手段としての側面も持っております。

そして、ドワーフの真相もココで語られましたね(笑)


星の数も500超えました。本当にありがとうございます。

皆様の応援感謝しております。

これからも何卒応援宜しくお願い申し上げます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る