第40話 胡椒とゴブリンの集落

俺とアシュのおっちゃんで旅をする事になってから1週間、獣道に毛の生えた様な道を歩きながら最初の村に向かう。その間はテントを張って野宿である。野宿の際には例の結界用魔導具を使い結界を張る。そして魔導コンロと魔導鍋で飯を作って食べる。


「中々快適だな。宿屋に泊まってるのと変わらんな」


「この結界の魔導具はホントに良く出来てるからね。向こうでは行軍の時も楽だったよ」


「ほら、虫も入ってこないからな。それだけでも大分違う」


と結界の前で此方に入ってこない羽虫を指差している。そう、虫除け要らずなのもこの魔導具の優秀な所なんだよね。普通テントだけだと地を這うようなのは虫除けをテントの周りに撒けば良いけど羽虫系は結構入ってくる。でもコレはそういうのも含めた全ての認識を外し、そして強固な障壁を張るのである。

俺の持ってる魔導具は魔法障壁、結界、暗視ゴーグル、ランタン、コンロ、鍋、時計、水筒、小型ストーブなどなど……更に使い方が分からんのもまだ多数あり、自動人形(オートマタ)も数体ある。まあ、店の中の丸々一戸分が入ったのだからこの魔導鞄は凄い性能だ。

何故あの時店主は魔導鞄に全部入れて持って逃げなかったのか??考えてみれば不思議である。

まあ、それは良いとして…売れそうでなおかつ自分が使わなそうなのはクロイフさんの倉庫に入れてあるけど、自分で使えそうな物は残してあるので、何処に行こうともどんな場所でも生きて行ける。

動かす為の魔石も沢山ストックしておりその点も問題無い。


「オレがあの村に行くまでの旅とはエラい違いだよ。見張りが居ないから良く寝れないし、寝落ちして何度死にそうになった事やら…」


「まあ、一人旅だとそれが普通でしょう。俺は運だけはいいからね。だからアシュのおっちゃんにも出会えたんだ」


「そうか…運だけはいいか」


アシュのおっちゃんは俺が入れたお茶を飲みながら夜空の星を見ていた。俺は使った物を綺麗にしてから鞄に戻す。


……そんな旅を続けながら途中の村に立ち寄る。


アシュのおっちゃんは村長に挨拶に行ってしばしの滞在の許可を取る。幸いにアムトレ村に行商に来てた人と顔見知りだった事もありすんなりと受け入れられた。

村長に色々な情報を教えてもらう…勿論、ここに来るまでに狩った魔物の肉や素材を渡す。ギブアンドテイクって奴ですよ。

村長は色々な情報を教えてくれたが、中でも気になる情報を教えてくれた。

『太陽国ギスダル』の国境には“サラブテ山脈”という大きな山脈があり、そこを越えると次の国らしいのだが、山脈を越えるのはかなり困難を極めると言っていた。更に噂では山脈の向こう側は長年戦争を続けているらしいと言う。

もしそれが本当なら戦争をしてる国を越えていかないとならない。バリバリの装備で向こうに行ったら直ぐに殺されるかも知れないなあ……。

とにかく州都に行けばもっと詳しい事も分かるだろうとの事だった。

その山脈も越えるのも大変そうだし、この先はかなりしんどそうな予感だ。アシュのおっちゃんも流石に厳しい顔になったよ。


俺達は2日後に村を出て次の村を目指した。途中、サーベルタイガーみたいな魔物に襲われた。コイツがかなりデカい割にスピードが速くてビックリしたが、飛びかかって来た所を避けざまに『千仞(せんじん)』を着地点に展開すると思いっきりハマったのでアシュのおっちゃんがハルバートで首を落として終了となる。

立派な牙と毛皮をゲットしたので高く売れるかもと俺はニマニマしていた。


そんなこんなで1週間後に次の村に到着。やはり村長さんの所に行ってご挨拶。取っておいたサーペントの肉をあげたらスゲー喜んでた。ええ人やな。

この村ではちょっと面白いものを手に入れた。それは胡椒である…と言うかそっくりなのよね。ここから先にある村で作られてるらしくて値段はそう変わらないと言ってた。

コレで料理の幅が広がるし、何なら樽一杯買ってもいいわって事でココではビンを2本分を調達した。

俺は胡椒が欲しくてアシュのおっちゃんに早く次の村に向かおうと催促してこのまま出る事になった。

次の村までの6日間でサーベルタイガー2頭とグランサーペントを1匹を倒した。コレは良い稼ぎになりそうだ。


次の村であるべダンに着いたのは昼頃であった。村長さんの所に行ってご挨拶をすると村長さんから思わぬ申し出があった。


「実はラチウ(胡椒の事)の栽培場所の近くにゴブリンが住み着いて困っているんじゃ…旅人さん達は腕が立ちそうじゃし…何とかしてくれんかのう…」


「そんな事ならお安い御用です。ラチウは俺が守ります!!」


「おいおい……」


「何と!!有難いのう!!」


胡椒の為ならゴブリンごとき一掃してやるわ!!このラダルに任せなさい!!

俺は意気揚々とそのゴブリン達が居るとかいう場所に向かったのである。待ってろよこのゴブリン共があぁぁぁ!!!



「……聞いてないよぉぉぉ…こんなに居るの??」


見ると100は超えようかと言うゴブリンの数…コレってジェネラルとかその上とか居そうな気しかしないんですけど…。村長めぇ……騙しやがって!!


「全く……お前が安請け合いするからだぞ……。さて、どうするかな…」


「仕方ないなぁ……おっちゃん、このまま何もせずに3時間ほど様子見しながら待ってて下さい。もしゴブリンが来たら逃げても良いです。俺が何とかします」


「おい、何とかするって…ラダル??」


俺は『隠密』を発動してゴブリンの村に潜入した。そして【エナジードレイン】を村に居る全てのゴブリンに指定して発動させる。

俺は『隠密』を発動させたままゴブリンの村を歩きまわっていると、ゴブリン達が何かを持ってきては置いてゆく洞窟を見付けた。こっそりと入ってみるとそこには色んなガラクタが山のように置かれていた。

その中に俺は前に見た事が有るものを発見した…コレって『眼』の鍵じゃねぇか??

手に取ってみると…うん間違いない『眼』に最初に突っ込んだのと全く同じ奴だ。ただし色が違うな…前のは鉛色のまんまだったけどコイツは翠色だ。

俺はありがたくそれを頂戴して、魔法鞄の中に入れた。いつか『眼』とまた会えた時にコイツを渡してやろう。まあ、いつ会えるかは分からんけどね〜。

他には何かないかなと漁っていると革袋が何十点もぶん投げてある。中身を出した後のやつかな?と一応中身を確認する。するとその中の一つに腕がズボッと入る奴があってビックリした!俺の持つ魔導鞄と同じ種類の物を発見したのだ!俺の鞄ほど入らない様だが革は丈夫そうで使い勝手は良さそうだ。その他お金がそこそこと、使えそうな剣や盾等で計7点……おいおい…大漁じゃねーのよ!!


良い感じでその洞窟で宝探しをしながら時間を潰してると2時間ほどがあっという間に経っていた。

外に出てみるとゴブリンどもがだいぶ弱っているのが分かる。

アシュのおっちゃんは……言う通りに隠れてる様だね。

そして更に30分ほど経つと弱いヤツからバタバタと倒れて行く。3分の1ほど減ったかな?ここまで来るとゴブリンも流石におかしいと感じてるようだが時すでに遅し。

コレでやっと終わりかと思ってたら突然 物凄くヤバい魔力がコッチにやって来た。

そうか……このゴブリン達の主が帰って来たのか。他の奴らもソコソコの魔力だな…12、3匹か…どうやら主力を連れてどこかに行って居たようだ。

俺は【エナジードレイン】を改めてそいつらにも指定した。


そして30分後、そいつらが帰ってきた頃にはここのゴブリンは全滅していた。

帰って来たゴブリン達は最初何が起こっているか分からない様だったが、次の瞬間凄まじい怒りの波動を感じた!コイツはスゲぇな…間違いなく今までの魔物の中でダントツ一位の魔力だ。あのグレーターダークラミアでさえコイツほどの魔力は無かった。ゴンザレス隊長より上か?贔屓目に見て五分五分かな……こりゃあタイマンじゃとてもとても……全く勝てる気がしねえな。

俺はこっそりとその場を離れてアシュのおっちゃんの居る場所まで戻る。


「おっちゃん、お疲れ」


「!ラ、ラダル!!お、脅かすな!」


俺は『隠密』を解除してアシュのおっちゃんの前に出て来たのだ。


「アレはヤバそうなんでしばらく様子見で」


「ちょっと待て!あのゴブリン達は一体どうやって倒したんだ!?」


「うふふ、それは企業秘密です。あのヤバいのもしばらく様子見してれば弱って来ますから、そこで倒しましょう」


「き、きぎよう?なんだか分からんが秘密なのだな……まあ良いが…」


「あと2時間位大人しくしてくれると良いんだけど…そうは行かないだろうなあ……」


こうして、思っても見なかったゴブリンキング達との戦いに発展したこの依頼には、ただ単に胡椒が絡んでただけだったとアシュのおっちゃんはまだ知らない…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る