第8話 二人の馬鹿と迷宮への鍵
のんびり行軍しながら目的地に向かっている
俺達は大きな街道に出た事もあり、護衛らしい事も起こらなくなっていた。
小さな町ではすぐ近くに天幕を張り、閣下は其処でお休みになる。
大きな街では閣下は近衛兵と共にその街で1番高級な宿に泊まる。
俺達は街の近くに駐留する事になる。
さほど急がない事もあり、大きな街では釣りをした様に俺達にも休養日が与えられる。
カルディナス伯爵軍は何時ぞやの街、工業都市リメルトに到着していた。
街の外に我々は駐留してテントなどを張り簡易の駐屯場を作り上げる。
閣下は街の一番良い宿にお泊りだ。羨ましい…。
休養日となりヒマになったので、俺は何となく例のバカ店主を揶揄いに向かった。
「いらっしゃ…何だオマエか…」
「はあ?何だはねーだろ?客に対してよぉ〜」
「何言ってやがる!あんなに値切りやがって!このクソガキが!」
「暴利を貪ろうとするからだろ?出なきゃ50金貨のモンが800銀貨にならねーだろが!この守銭奴が!」
「あ〜そう言う事言っちゃう??良い物有るんだけどそ〜ゆ〜態度しちゃうんだ」
何か妙な自信が有って気持ちが悪いんだけど…コイツ。アタマカチ割ったろか?。
「何が良い物だ。またとんでも無い値付けしてんだろ?あ〜?」
「コレよコレ。またまた遺跡から出ちゃったよ!お宝が!」
バカ店主がこれみよがしに見せつけて来たのはひと振りの剣である。
今時、アホの貴族も買わなそうなキンキラの宝石付きの剣だ。
…ホントのバカだなコイツは…まあ、コレが100歩譲って遺跡から出たモノだとしても、どうして魔法兵の俺に勧めるかね?
しかもどう見ても偽物としか思えない。宝石が散りばめられてる金ピカな剣などが遺跡から出るもんかよ!!
コイツはダメだと俺は褒め殺し作戦に移行する。
「へぇ~毎度毎度凄いねえ〜おじさんもしかして凄い商人じゃ無いの?」
「おおよ!やっと俺の凄さに気付いたかこのクソガキが!」
「で、いくらなん?」
「100金貨だな!!」
言うに事欠いて100金貨とか言ってるよ。ホントに救いようが無いな。
「へぇ~それは安いねぇ〜」
「そ、そうか?」
「俺が見るに…300でも安いね」
「ホ、ホントか??」
俺は300銅貨のつもりだが、アッチが勝手に300金貨だと思い込んでいる様だな。
「でも、持ち合わせないから買えないや…残念だなぁ〜」
「そ、そうか…そりゃあ残念だなぁ」
「ウチの兵士に宣伝しとくよ」
「そうか!!頼むわ!!」
随分機嫌が良くなったアホ店主はちょっと待ってろと店の奥からなにやら持って来た。
「まあ、あんちゃんとは色々有ったが宣伝までしてくれるんだからウチの取って置きを出すぜ」
と胸を張るアホ店主。まだ何か売り付けるつもりか?
箱の中身を見ると古ぼけた丸いペンダントが入っている…俺は魔力を感知してみるとコレには魔力は何も無い。手に取り見てみると魔力じゃ無い何かを微量に吸収してるのが感じられる…。片面は何やら紋章の様な絵が彫られており、その裏面には魔法陣が書かれている。
何か魔力とは違うエネルギーを吸収しながら回復に変換してる様だ。どうやら微弱に体力を回復するアイテムらしい。微弱だから気付け程度だろうが回復には違いない。身に着けていれば常に回復を掛けられてる事になる。だが回復魔法とは明らかに違う仕組みで回復を行っている。あの魔法陣か?…中々興味深い仕組みだな…。
と言うのも回復魔法は光魔法の系統なので光属性の魔力を必要とする。ところが俺は【ザ・コア】を獲得した際に闇魔法の”さわりだけ”を持っている。光属性と闇属性は相反する属性なので反発してしまう為、俺の魔力を使っての回復魔法は絶対に発動しない。
このペンダントの回復は魔力を使ってないので、光魔法とは明らかに違う系統の回復である。
つまりコレは当たりのアイテムである。
だが、俺は欲しそうな顔をしない。まるで興味が無い様にペンダントを箱に戻した。
「どうだ?良い物だろ?」
「悪くは無いけど…微妙かなぁ〜」
「そんな事は無いだろ?回復魔法は貴重だからな」
コイツ…馬鹿だからやっぱり回復魔法と勘違いしてやがるな…。
「また遺跡で発見された奴なの?」
「いや、コレはまた別の場所だ。あんちゃんは【カノッテス大迷宮】を知ってるか?」
「カノッテス?いや、初めて聞くねぇ。ダンジョンみたいなもん?」
「いやいや、彼処は遺跡とダンジョンを合わせた様なモノだが、紋章を持つ者しか入れない特殊な迷宮で、色々な仕掛けが多くて最深部に到達した者は未だに居らず、難攻不落の迷宮とも呼ばれてる。そこで見つかった宝箱から出て来たお宝だ」
「ふ〜ん…そうなんだ」
「良いか?あんちゃん…この紋章は【カノッテス大迷宮】から出るお宝に必ず刻印されている。つまりはこの紋章のアイテムが有れば【カノッテス大迷宮】に入る事も出来るって事だ」
「へぇ~、んでその大迷宮は何処にあるの?」
「それも紋章を持つ者の前にしか現れる事は無いと言う言い伝えだ」
何やら面白そうな話になって来たな。コレは回復のアイテムというだけで無く、【カノッテス大迷宮】に入る為の鍵でもあるって事か。なるほどなるほど…オラ、ワクワクして来たぞ。
「う〜ん、何とも雲を掴む様な話だなぁ〜」
「過去に【カノッテス大迷宮】から出たお宝はその殆どが国宝として大切に保管されている。そしてお宝選抜隊を組織してお宝探しをさせてるって噂だ」
「噂…ねぇ…でもさ、何でこんな貴重な物がこの店に有るの?」
「ウッ…そ、それは…なぁ…」
店主は焦った様に唸りだした。コイツ何か秘密があるのか??
「それが分からないとコレが本物だって判断出来ないよ。それで買えって言われても中々難しいよ…いくら俺とおっちゃんの仲でもさあ」
「…仕方ねえなぁ…前に買ってもらった杖の時に廃嫡した貴族から手に入れたって言ったよな?…アレは俺だ」
「へっ??」
あまりに斜め上のカミングアウトに驚いて変な声出ちまったよ!!コイツ元貴族だったのか?いや、確かに商売人にしちゃあオカシイわな…物の価値も解らないのに仕入れなんて出来っこないもんな。そう言われるとコイツの不自然さが納得出来る。廃嫡されるくらいだからアホなのも含めてだ。
「そ、そうなんだ…そりゃあお気の毒様で…」
「変な気を使うなよ、あんちゃんとオレの仲だろ?まあ、ウチの家宝だったんだがオレを廃嫡したオヤジはコレの価値を知らなかったから、あの杖や宝剣もオレに押し付けたのさ」
そうなのか?知ってて渡したんじゃない…いや、あの宝剣はどう見てもアカン奴や…親子揃って見る眼無しってトコかな。
「なるほどね…んで、これいくら?」
「金貨100…」
「はい!撤収!!」
「待て待て!話を最後まで聞けってーの!!あんちゃんには金貨1枚で良い。コレはこれ以上負からないぜ」
「分った!」
「じゃあ金貨1枚で決まりな!」
「じゃあ銀貨500で!」
「杖の時と同じ事言ってんじゃねーか!!」
「冗談だよ。金貨1枚で良いよ」
「コノヤロー!!持ってけドロボー!!」
「客にドロボーっての止めなさいよ…」
俺は金貨1枚支払ってそのペンダントを手に入れた。
このペンダントを金貨1枚なら安いもんだ。
俺なら10倍で売るけどね…商売人としては三流だな元貴族さん。
良い買い物が出来たのでホクホク顔の俺はにこやかに店を去る。
そして野営地に戻りアホ店主との約束通りに、遺跡から出た剣の偽物を300金貨で売ってる馬鹿が居ると宣伝しておいた。
面白半分に見に行ったシュレンが400金貨で売ってたとかで大笑いしながら帰って来た。アイツはホントの馬鹿だ。
今日は会議が有るとかで隊長と副長は伯爵閣下の泊まってる高級宿に向かった。
俺は副長から4番隊の留守を預かる魔法兵の臨時の小隊長を任された。
本来は小隊長の下が伍長なのだけどウチの魔法兵は少ないから小隊長が居ないのよね…。
騎兵、重機兵、槍隊はそれぞれ小隊長がいる。弓兵は少ないので伍長のみだ。
そして、しばらくすると3番隊の伝令とか言う奴がやって来たので相手をすると、元3番隊隊長のあの馬鹿だった。今日は馬鹿とよく出会う日だな!
「き、貴様…」
「ん?今オマエは「貴様」と言ったか?俺は臨時の小隊長であるが何か用か?伝令」
「し、小隊長…」
「用が無いなら帰れ。今忙しい」
「くっ…ほ、報告します…4番隊小隊長は臨時の小隊長もう含め会議場に至急集まれとの事です」
「了解した。が、至急であれば直ぐに言わぬか!ウチの隊長には「貴様」と抜かした事も含め報告して置く!以上だ下がれ!」
元隊長は震えながら下がっていった。
コレには訳がある。
あの3番隊の元隊長は帰ったその日、閣下への報告の際にあのローブの話を閣下にせずに報告を終えようとしたのだ。
つまりはローブをパクろうとした訳だ。
楽しみにローブを待っていた閣下は3番隊の隊長に「報告漏れは何か無いか?」と聞いたと言う。すると元隊長は「特に御座いません!!」と答えたという。
閣下は3番隊隊長をローブの件をかなりキツめに問い詰めたらしい。すると真っ青な顔をしながら「すっかり忘れていた」などと嘘を付いたらしい。
しかし、どう見ても嘘だと分かる言い訳に堪忍袋の緒がキレた閣下に隊長職を剥奪された挙句、奴隷の首輪まで嵌められて下働きに降格させられ、副長も共犯としてヒラに降格させられ奴隷に落ちたと言う。
しかも他にも不正が無いかと調べられると、この元隊長と元副長は3番隊入隊時に必ず行なう魔力量の計測で不正をしており、魔力量を誤魔化していた事も今回発覚してしてしまった。
その他にもウラ帳簿が出て来て、軍の資金を横領した事やら悪事の数々が出るわ出るわ…。
この事が原因で怒り心頭の閣下は父親の貴族まで閣下の側近から外したのだという。
怒り狂ったその父親は元隊長を廃嫡したという事で奴は平民で尚且つ奴隷となった。
その話を聞いて俺は笑い転げてしまった。
まさかとは思ったが、ものの見事にあのローブをパクろうとした訳だからタチが悪いのだがもう笑うしか無い。まるでコントみたいに罠にハマってくれたのだから。
閣下を相手に良くやったよな。普通ならその場で処刑されてもおかしくないからね。
それに喜んだのは俺達だけじゃ無く、何と3番隊の連中まで大喜びしてたらしい。
何でもあの元隊長は閣下の側近だった貴族の息子と言う事だけで、何かと言うとそれを鼻に掛けている嫌味なヤツだったらしい。
隊長としての能力も低く、かなり3番隊の魔法兵は迷惑していた様だ。しかも副長はヤツの腰巾着で頼りにならず、小隊長達がかなりの負担を強いられていたと言う。
現在3番隊の隊長には小隊長としてずっと3番隊を支えていた人が昇格したという事で、3番隊の魔法兵達からは俺が元隊長と腰巾着を引きずり降ろしてくれたと感謝されてるらしい。
今現在、あの二人が3番隊の中でどの様な扱いを受けてるのかは知らんし興味も無い。
ただ、俺の所にわざわざ伝令に寄越すあたりで解るというものだ。
まあ、正直に言うとただ元隊長が自爆したってだけの話だが、感謝してくれるのは嬉しいかな。
俺は急ぎ小隊長達を集め、会議の場に向かう事になった。
会議場に到着すると、他の隊の小隊長も呼ばれて居るらしく人でごった返している。
一体どうした事だろう?
俺は隊長の側まで行き小声で話しかけた。
「どうかしましたか?」
「ラダルか…まずい事になった。北の大国、ローレシアが王国に宣戦布告して来た」
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