第5話 横取りと穴掘りとキャンプファイヤー

ダイラード閣下にはお褒めの言葉を頂いて、直属の隊長にドヤされた俺は、何とも微妙な感じでテントの外に出た。

するとタイラー副長が直ぐに出て来て俺を呼び止める。


「ラダル、お前から預かった得物だが俺が引き取る事にした。コレは買い取りの代金だ、受け取ってくれ」


副長は小さな皮袋を俺に持たせる。中には金貨が5枚も入っていた!イヤイヤ貰い過ぎでしょ??


「副長…コレは多過ぎでは…」


「ん?そうでも無いぞ。鎧は良い物だったし剣はかなりの業物だったぞ。兜は穴が空いてるが欲しいと言うのが何人か居てな、一番高く買った奴に渡した。その代金も入ってるから遠慮することは無いぞ」


「そうですか、それなら遠慮無く…ありがとう御座います」


「今回は初陣で大活躍だったな。これからも期待してるぞ」


副長はそう言うとポンポンと俺の頭を叩いてそのまま立ち去っていった。


しかし、儲かって仕方無いな…だけどこの金如何するか…まあ、半分は実家に送るとしても、装備品も今回で良いのが手に入ったから当分要らんしなぁ…。まあ、しばらくは使わないとしても持ち歩きには不便過ぎる。金貨は意外と重いからね。


そして俺はぶん取ったローブを改めて調べてみる。裏を見ると魔法陣の模様が刺繍されている様だが、何が書いてあるのか良く解らない。何となくだが裏返しみたいに見える。

あの魔法兵の魔法を防御した時に、俺の『魔力玉』から少し魔力が吸い取られた気がしたので、恐らくだが魔法障壁的な魔法付与が成されてるのかなと推察した。

コレを着ていた参謀とやらは不死身と言われていたらしいので、恐らくこのローブのお陰なのだろうね。



じゃあ今度は俺が不死身になる番かな?フフフ…



…そんな風に思っていた時期が俺にもありました…。

結果から言うと遅れてやって来た本隊の3番隊隊長にローブをぶん取られてしまった。

伯爵に献上した後でローブを研究する為とか何とか…クソっ…。

まあ、散々ゴネまくって100金貨はせしめたのだけど。

あの野郎のツラは絶対に忘れない。


「くそぅ…あんにゃろ〜」


「まあ、そう怒るな。コレで3番隊には借りを作らせたからな」


副長がまあまあと俺の頭をポンポン叩く。


「ぐぬぬぬ…解せぬ…」


「まあ、過ぎたる武具は身を滅ぼしかねねぇからよ。良い膝当てとガントレットも手に入れてるじゃねーか。コレで手打ちにしろ」


隊長もソレを言われた時には流石にムッとしていたが、伯爵の名を出されては折れるしか無かったのだ。


「まあ、今回はこの位にしといたるわ…ぐぬぬぬ…」


二人に宥められてようやく諦めが着いた。


実はローブをぶん取られた後に、1から4番隊隊長と副長が居る場で、この功績を餌に3番隊の伍長にとか言う話が3番隊のアホ隊長から出たが「3番隊だけは絶対にヤダ」と本人の目の前で断ってやった。

野郎は目をひん剥いた挙句、顔を真っ赤にして怒ってた様だが、例のローブの件が有るので文句は言えない。俺は素知らぬ顔で完全にシカトだ。

この野郎の顔は見たくも無いしアイツの下で働きたくもない。下手すりゃこの野郎の顔に魔法をぶち込んじまう気しか起こらない。

ウチの隊長は下を向いて声を殺して笑ってるし、副長も苦笑いしている。

すると3番隊の副長が息巻いて「隊長に対して無礼だ」などとほざいて来たので、俺はソイツに対しても堂々と言ってやった。「兵士たる者、信頼出来る隊長の元でなければ命をかけて戦えない。それが出来ぬなら潔く兵士を辞める」とキッパリ言うと、会議に出てた皆が今度は驚いたやら感心した様な顔をしていた。(3番隊のアホコンビ以外)

そして、顔見知りである1番隊のデュラン副団長(領兵団指揮官のナンバー2)が「確かに信頼関係は大事だ。せっかく隊に慣れて実績も出したんだ、無理矢理隊を変える必要性もないのでは?」と口添えしてくれた事もあり、結局この話は無しになった。

後でデュラン副団長に挨拶に行くと小声で「実は俺もアイツは気に食わん。とても愉快だったぞ。ラダルが4番隊に馴染んでる様で安心したよ」と笑いながら言ってくれた。


その後、我々王国の軍は占領された街を取り返しながら旧リンガ侯爵の城に向かっていた。

その途中、我々4番隊は特務として南方にある国境の街であるカロスを制圧に向かわされる事となる。

カロスは国境の街という事もあり、立派な城塞都市であったが、ヘルサード軍はかなり前よりこの街に兵士達を秘密裏に送り込み、宣戦布告と共に街を内部から開放させて軍を入れ込み占領していた。その数7000人。

現在は籠城を決め込んで門をガッチリ閉めている状況である。守備に徹した城塞都市を落とすのは中々難しいし時間が掛かるだろう。

さて、ウチの優秀な軍師様はどう攻略するつもりなのだろうか?そう期待をしているとウチの軍師は静かにこう言った。


「アレは簡単に落ちないから正面からの攻略は無理だね」


会議で軍師様はあっさりと言ってのけた。

何かさぁ…俺のこの期待感を返して欲しいわ…。

つか、何で俺がこの会議に呼ばれたのか…その説明が先に欲しいのだけど…。

いくら待っても何も無さそうなので、俺は半ばヤケクソで冗談を言ってみた。


「じゃあ、穴でも掘って中に入りますかね?ハッハッハ!」


「うん、その為の調査をしてる最中だよ」


「…マジっすか?」


ホントに穴掘りするつもりらしい…。すると調査していた斥候隊から連絡があり、比較的にトンネルを掘りやすい位置を見付けたとの事。

進軍する際に落とした街で詳細な街の地図まで作製しているので情報はバッチリ揃っている。

其処で門の近くまで行軍して陣取る隊と、トンネルを掘って奇襲する隊の二手に分かれて作戦実行である。

穴掘りチームは土魔法を使える人間中心に朝から晩まで穴掘りである。


「という事で穴掘り隊長、宜しくな」


と、ニッコリ笑った副長にそう言われる。

という事でじゃねぇ〜!!当然の事ながら土魔法を使える俺はコッチに入れられる…つか、その為にこの会議に呼ばれてたのだ!

クソッ!軍師にハメられた!コレなら3番隊に入った方が良かったんじゃね?


とにかく早く穴掘りを終わらせる為に俺がフル回転しなきゃならない。何せ俺の魔力量が多いからね。俺が休んでる時に他の魔法兵が順番で土魔法を使う。土魔法をまともに使えるのは4番隊の魔法兵204人中95人。94人が3人づつのローテーションを組むとして、俺はその中で皆の10倍は入れられるという超ブラックぶりである。殺す気か!


さて、何故に俺達は真っ直ぐにトンネルを掘れるかと言うと、双子石という変わった石がある。コレは対の石に反応する性質があり、その片割れを掘りたい方向に置いておけばその石に反応する方向に掘れば真っ直ぐ掘り進められるのだ。中々便利である。

うちの斥候がコッソリと城塞都市の壁に双子石の片割れを置いてあるので、それに向かって直進すればいい。


俺達穴掘りチームは人海戦術でバンバン掘り進めて行き、1週間後に2キロ先の城塞都市の真下まで何とか掘り進める事が出来た。人海戦術って言っても俺がほとんど掘ってんだけどね!!

それでもまあ流石は魔法だなぁ〜有能だわね。


そして地上部隊は散発の攻撃を繰り返しながらまるで援軍待ちのような体でいた為、敵は本格的な攻撃は無いだろうとすっかり騙されて慌てずにいた。

敵は其方の扉に注意を向ける様になり、兵士も其方に振るようになって行った。

だが、散発の攻撃をしていたのは僅か500の部隊であり、後ろの陣は幕と旗だけのハリボテである。

本隊の4400人は逆の入り口の方に隠れて陣どっていた。


俺達は夜中に縦穴を開けて地上に現れる。

地図通りの狭い路地のど真ん中である。

本当にスゲェな!天才かよ!俺達坑夫でもやった方が良くねぇか?絶対やらねぇけど。

其処からコッソリと寝静まってる街を目立たぬ様に門の方に向かって行く。

門の前は当然の事ながら結構な人数の守備兵が居る。だが、反対側へ人数を割いてる為にこちら側は約1000人と言う所である。

其処に急報が入る。


「伝令!!あちらの奇襲により正門が破られ為に至急増援を乞う!!以上です!!」


と、大慌てした兵士がそのまま向こうに走って行く。

勿論、それは俺達の軍の斥候が化けた偽物の急報である。

その迫真の演技に思わず拍手しそうになった。

その最中に正門の前に陣取った囮の500名が正門に奇襲を掛けると、向こうで騒ぎの音や声がする為に、すっかり騙されて200名を残し増援に向かってしまう。


向こうに向かったのを確認してから俺達は残りの兵士に闇討ちをかける。

俺は『千仞(せんじん)』を無詠唱で展開して底無し沼に嵌める。コレを連射で掛け続けながら『溶岩砲(マグマキャノン)』を無詠唱で撃ち続ける。他の魔法兵も攻撃魔法を一斉に撃ち込んで行く。俺達はこうして魔法兵の火力で一気に制圧し、そのまま門扉を開ける。

其処から雪崩込んだ隊長他の4400名に俺達も続き、一気に正門前に居るヘルサードの軍勢に突っ込んで行く。

正門の前で戦闘していたヘルサード軍は、後ろからいきなり襲い掛かって来た俺達に大混乱となり、あっという間に蹂躙される。

恐らくはあまり戦場慣れしていない指揮官だったのだろう…後ろから攻められると指揮系統が全く機能しておらず、混乱に拍車がかかるばかりだ。

そのうち敵将がゴンサレス隊長のデカいメイスの一撃を食らって早々に討たれてしまう。

簡単に自軍の将が討たれたヘルサード兵は更に混迷を極めて、組織的に動く俺達に簡単に倒されて行く。ちょっと此奴ら弱過ぎじゃね?

そのうち次々と投降し、あっという間に城塞都市を解放させたのである。


投降したヘルサード兵は全部で2800有余名。コイツ等は人質としてヘルサードに帰れるか、奴隷送りかのどちらかだがおそらく後者であろうと思っていた。


しかしながら、ヘルサードの兵士はかなり悪さをしていた様で、街の人達は俺達を大歓迎で迎えてくれた。

タイラー副長はその件を街の代表者から聞くと、いつもの”お宝タイム”の後で、ヘルサード兵が街の人達から巻き上げた財産の返せる物は全部返還した。それと投降した兵士の軍事裁判を直ぐに行い、特に凶悪な犯罪行為を行った者は全て斬首となった。首を斬られたのはなんと600有余名…他にも投降した兵士のほとんどが何らかの犯罪行為を行っていた。

やはり、街を占領した事が無い無能な指揮官だったのだろう、本来ならその後の統治が問題になるので、重要拠点ではその様な行為は行わせないのが普通だ。それを考えずにやりたい放題やらせたらしい。

後から来た補給部隊のトップにどやしつけられる始末だったと投降した兵士が証言していた。

その補給部隊のトップがマトモな指揮官で本当に良かったと思う。


そんな酷い目に遭わされたのだ…首斬りショータイムでの街の人間の熱狂ぶりはコチラが引く程だった。

こうして街の人間のガス抜きをしてこの拠点の防衛任務にあたる事となった。


俺達は解放軍として大人気となった。

特に首斬りショーの立役者であるタイラー副長と指揮官始め多くの敵を殴り殺した『鬼神ゴンサレス』の人気ぶりは前世のアイドル並みであった。他の兵士達も街を上げての歓待を受けていたのだ。


そんな中、俺を始めとした土魔法のトンネル職人達は首斬りショーと討たれた敵兵の後始末をやらされていた…。どんだけクソゲーだよ!!

街の外のトンネルを掘った部分を含めた場所に土魔法で大きな穴を空けた後、死体を捕虜にガンガン放り込ませる。

そして全部入れた後に火魔法でガンガン焼いた。そうしないとアンデットになる可能性もある為だ。

物凄い臭いのキャンプファイヤーを終えた後は土魔法で埋め戻していく。

ホントにトラウマになりそうな状況であった。


「あ〜やってらんね〜もう兵士辞めようかなあ〜」


「オレもそう思ったよ…」


「もう帰らしてくれええぇ!!」


こんな話をする者が出る始末である。

そんな阿鼻叫喚の中でも俺は黙々と任務を行っていたので、皆は俺が気でも触れたのではないか?などと心配する奴まで出る始末であった。

俺自身はとにかく早く終わらせたい一心で一生懸命に頑張っていただけなのだが…。

…解せぬ。


こうして酷い目に遭わされた俺は、この地獄のミッションを終えると直ぐに、今度は国境方面の見張りに着かされた。ブラック過ぎる!!

俺と見張りに着かされた槍隊のおっさんは、あーでもないこーでもないと俺に色々話しかけて来た。どうやら国に残して来た息子を思い出してたらしい。

まあ、俺はおっさんの息子じゃ無いし迷惑この上ないのだが、良い人なので文句も言えずにこやかに相手をしていた。話ほとんど聞いてないけど。

交代した際に副長に直談判しておっさんとは別の組にして貰った。いや、ほら…疲れるからさ…。


そんな疲れるだけの毎日がやっと終わったのは、それからひと月以上経った旧リンガ城に侵攻していた本隊の勝利が確定した後であった。

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