第3話 ゴリゴリマッチョ隊長と4番隊

俺達はそのまま『還らずの谷』から村に戻り、村長と父に魔法兵の話を受ける事を伝えた。

父はもう分かっていた様で、村長と副団長さんの3人で色々と話し合っていた。

話し合いの結果、俺の領兵団入隊を村長と父が認め、1週間後に送り出してくれる事となった。


副団長さん達はシーガーさんを残して領都に戻って行った。シーガーさんは村長の家に泊まって俺を連れて行く準備をするとの事。


家に帰ってから父と母に色々と話をした。

仕送りは月に2銀貨になると伝えるととても驚いていた。

仕送りの金は領兵団から直接家に届けて貰える事になっていた。同じ様な事を頼む者が多いので選任の者が届けているとの事だった。

俺は弟と妹に簡単な読み書きと計算を教えていた事を話すと、それは気付いていたと笑っていた。

村長に後の勉強をお願いしておくと言うと、それはもう村長と話が着いていると父が言ったので俺は安心した。

弟と妹に遠くに行くと言うとわんわん泣かれて本当に困った。


その後、村の人達に挨拶回りをしたり、向こうに行く準備などをする内に1週間はあっという間に過ぎた。


出発の日、村の人達も大勢やって来て俺を送り出してくれた。

父と母に挨拶をすると母は涙を流しながら抱きしめてくれた。

弟と妹は結局、家から出て来なかった。

俺は父に家族全員に作ったデッドベアーの牙の首飾りを手渡した。


領兵団の幌馬車に乗り込み、村を出てシーガーさんと一緒に3週間かけて領都バルザッドに到着した。

そしてそのまま領兵団の駐屯地に案内された。

駐屯地には騎士団の第一棟、重装歩兵の第二棟、弓兵と魔法兵の第三棟、そして遊撃隊の第四棟に分かれている。

俺は先ず副団長の居る第一棟に向かった。

中に入ると騎士団の花形である騎馬隊の人達がお揃いの鎧を着けて棟内を歩いていた。

俺がシーガーさんの後に付いて歩いていると皆から好奇の目を向けられる。視線が辛い…。

そんな事はお構い無しにシーガーさんは俺を奥の部屋に連れて行く。

”副団長室”と書かれたその部屋の扉をノックするシーガーさん。


「シーガー、只今戻りました!!」


すると部屋の扉が開いて中に居た騎士に案内されて大きなソファーに座らされた。


「シーガー、ご苦労だったな。ラダル良く来た。長旅のところ悪いが、早速お前の入る4番隊の隊長に引き会わせるとしよう」


「随分と急ぎますね…」


「あの馬鹿…いや、4番隊隊長の催促がキツくてな…早めに片付けたいのだ」


「なるほど…」


二人とも苦笑しながら話してる事に一抹の不安を抱えながらも、二人に先導されて俺は第四棟に案内された。


ボロい…。

何この第一棟との格差…他の棟だってまだこれよりマシだぞ。

何かヤバそうな予感しかしない。


副団長が入ると中に居ただらしの無い格好の兵士と思われる者達が敬礼をする。

副団長は睨みを効かせて一番奥の”隊長室”と辛うじて読める扉の殴り書きの部屋にノックをして入る。


部屋の奥には巨大なゴリゴリのマッチョが座っていた。


「これはこれは副団長殿、何か御用かな?」


そのマッチョが副団長を睨み付ける。


「ゴンサレス、やっと貴公の催促が有った魔法兵を連れて来たぞ」


するとそのマッチョは俺を一瞥すると副団長にこう言い放つ。


「副団長殿は4番隊を孤児院にでもするおつもりか?」


「うむ、貴公の心配も分からぬではないが、このラダルはかなり優秀な魔法兵だぞ。私が直々に実力を見たから間違いない。もし気に食わぬなら彼は3番隊に入れるがその方が良いかな?その場合はまた補充が遅れるだけだが」


「ほう…直々にね。こちらで断れば3番隊とか本気ですかな?」


「そうだ。間違いなく向こうには喜ばれるだろう。では失礼して…」


「分かった…そのガキを置いて行って構わん。もし使い物にならなければ3番隊にくれてやりますよ」


「それは無いと思うぞ…とにかくこれで団長との約束は果たされたな」


副団長とシーガーさんは俺を置いて行ってしまった。


「おい、ガキ。オマエ何の魔法が使える?オレに見せてみろ」


「名前はラダルです。魔法は此処で撃ちますか?俺は構いませんけど」


するとマッチョから物凄い魔力が膨れ上がって来る。コレは身体強化か?いや、レベルが違う感じだな。


「ガキ、オレに名前を言わせるなんて10年早いんだよ…構わねえから撃ってみろ」


俺はマッチョが言い終わる寸前に『溶岩弾(マグマバレット)』をマッチョの顔の真横ギリギリにぶっ放してやった。しかしマッチョには傷も付かないし火傷もしない。

マジか…無いわ…バケモノかよ!


「フハハハ!!!オレの魔力に怖じけずに無詠唱で撃って来るとはガキのクセに中々やるじゃねえか。しかも普通のバレットじゃねぇな?」


「合成魔法の『溶岩弾(マグマバレット)』です」


「ほぉ〜、合成魔法と来やがったか。しかも魔力量はかなり多いな…でも何か”いびつ”だな」


へぇ〜…このマッチョ、ただの筋肉バカじゃなさそうだな。魔力量と言い身体強化のレベルと言いとんでもない怪物だが冷静な部分も持っていて分析力もある。


「…まあ良い。そうだな…丁度良いからオレに付いて来いや。直々に実力を見てやるぜ」


「…分かりました」


マッチョは俺を引き連れて駐屯地の外に連れて行った。

マッチョに連れて行かれた場所は街から北に行った場所の森である。魔物の気配がするのでテストには丁度良いのだろうね。


「魔物を何匹か倒してみろ。オレは一切手は出さん」


「分かりました」


オレは身体強化をして一気に森の中の魔物の気配がする方向に走り出す。そして狼の魔物を見つけた瞬間に『溶岩弾(マグマバレット)』を撃ち込む。

もうニ匹は『千仞(せんじん)』を使って底無し沼に沈めて、バレットを撃ち込んで倒すとまた三匹やって来て襲い掛かって来た。

俺は『千仞(せんじん)』を解除して襲って来た狼の魔物を誘き寄せ『千仞(せんじん)』の罠にハメた。

そのまま狼の魔物が沈んで行くのを眺めながら意識を魔物の気配に集中する。

10匹ほどコチラに向かって来ている。

俺は気配のする方に『溶岩砲(マグマキャノン)』を5発連射してそちらに向かうと、狼の魔物が飛び散った溶岩の破片に襲われて燃えていた。マトモに動ける者は居なかった。

森が燃えるとマズいので『千仞(せんじん)』で燃える魔物や溶岩諸共沈めて鎮火した。


「もう良いぞ。なるほど確かに3番隊なら文句無しで引き取りそうだ。お前…ラダルとか言ったな?ウチの魔法兵として働けよ。話は通しておくからよ」


「ありがとう御座います。隊長」


「ところでお前いくつだ?」


「9歳ですが、何か?」


「まあ…そうだよな。そのナリじゃあ…な。だがオレと変わらない位の歳の雰囲気を持ってやがるな…不気味なヤツだ」


「村でも良く”爺臭い”と言われてましたけど、不気味は初めて言われました」


「よし、街に戻るぞ。魔石くらいは拾っとけよ」


俺は魔物の死体から魔石だけ抜いて全部土魔法で埋めてやった。


「ところでラダル、お前魔法を何発撃てるんだ?」


「12発は連射出来ますか…」


「連射で12だと??じゃあ休みながらだと、どれだけ撃てるんだ?」


「休みながら?う〜ん…やった事ないので…」


「今度演習場で試してみろ。戦ではその場で止まっての連射よりも、位置を変えながらどれだけ息が長く撃ち続けられるかが重要だからな」


「息が長くですか…なるほど…やってみます…」


と言う事でマッチョ…では無く隊長からは認めて貰えたようだ。

そのまま隊長に付いて行き、魔法兵の装備品を受け取りに行ったのだが、流石に子供用のサイズが無いので全部ブカブカと言う憂き目に遭った。中でも靴と兜と鎖帷子は大き過ぎてどうにもならない。すると装備品の担当者が気を利かせてくれて、女性用の装備品を持って来てくれた。それでも大きいのだが兜と靴は何とかなった。鎖帷子は胸の部分が変だがまぁ仕方ねぇな…隊長は大笑いしてやがったけどな。


続いて俺の寝泊まりするタコ部屋に案内された。部屋は4人で一部屋との事で全員魔法兵と言う事だった。

俺が隊長に紹介され挨拶をすると皆ビックリしていたが、同じ魔法兵と言う事で直ぐに打ち解けた。


まずは古参の魔法兵であるシュレンは火魔法の使い手で魔法は20発程を撃てるという。

面倒見の良い男で色々と教えてくれた。愉快でムードメーカー。酒はウワバミ。


2人目のローグは回復魔法の使い手として4番隊魔法兵の要である。彼も戦歴が長いので頼りになる存在である。物凄く真面目。


3人目のアリエスは土魔法と風魔法を使える男で動きが素早い。魔法自体は10発ほどしか撃てないが、弓兵としても優秀なので普段は弓を使って魔法は補助や切り札的に使うという。酒と女とギャンブル好き。


とにかく個性的な面子だが、4番隊は等しく皆こんな感じらしい。と言うのもこの隊は1〜3番隊と違って遊撃隊として、先方隊やゲリラ戦などを担う特殊な部隊なので、隊長を始め一芸に秀でた者が多いそうだ。

だから最初に隊長の威圧を食らうのは新人が必ず通る道らしい。此処で隊長の眼鏡に適う事が入隊の条件なのだと言われた。

皆に俺は合成魔法の使い手だと話すとかなり興味を持たれた。特にアリエスは風と土の2属性なので色々と聞かれた。


その後、隊長から演習場で休みながらどれだけ撃てるか試せと言われたと話すと、シュレンが皆で行こうと案内してくれた。

其処で俺は『溶岩砲(マグマキャノン)』を休みながら撃ち続ける。

何度か撃つとオーバーヒートにならない為には25秒位の時間を空けるのが良い様だと判った。

そのままその間隔で撃ち続ける。


それから2時間程撃ち続けたが全く魔力が尽きない。更に撃とうとすると隊長の声が聞こえた。


「ラダル、もうそれ位にしとけ…演習場を火の海にしてどうするつもりだ?」


後ろを見ると結構な人数が見学しててビックリしたが、実は見てる方がもっと驚いてたようだ。

まあ確かに俺が放った溶岩で物凄い事になってる…仕方無いので『千仞(せんじん)』で底無し沼を作って何とか溶岩を処理した。


その日から俺の事を皆は『底無しのラダル』と呼ぶ様になった。それは『千仞(せんじん)』の底無し沼と膨大な魔力量を引っ掛けての呼び名らしい。


それから二ヶ月後、俺は遂に初陣を迎える事となった。

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