27話.隠れ里にて
クラウスたち一行は、小さな船の中にいた。
ファルミナの話では、隠れ里はアシリ湖の中心部に浮かぶ小さな島にあるらしい。
「しかし湖の真ん中の島って、隠れてることになるのか?」
「たしかにのぉ、釣りに来ている人族などに見つかりそうじゃがな」
「アシリ湖の中心部には、かなり濃い霧に覆われた地区があります。
そして、その霧の中はかなり高位の魔物たちの縄張りになっていますので」
「高位の魔物が好む霧のぉ、魔力濃度が高い霧のようじゃな」
「その通りです、フェリシアさま。
その霧の中にある小島なのでゆったりと隠れ住んでおります」
「でもそんな場所じゃ危なくないか?」
「……
魔物は強き者に絶対服従だ。
私に逆らうような魔物は全て駆除済だから問題ない」
フェリシアは、ファルミナの口調が自分へのものとクラウスへのものとがあまりに違うことに苦笑した。
決闘で上下関係が明確になったとはいえ、クラウスには素直にはなれないというファルミナの心情が表れているのであった。
「では、この霧の中にあるのじゃな」
フェリシアが見つめる先には、
そして、一行はその中へと船を進めた。
しばらくして霧を抜けると、目の前に小島が現れた。
「こちらが私の治める隠れ里になります。
里の者にフェリシアさまのお言葉を
ファルミナの願いを聞き入れたフェリシアは彼女の後ろについて里の中へと歩き出した。
そして、その隣には何か言いたげな表情のクラウスがいた。
「クラウスよ、とりあえずは大人しくしておくんじゃぞ。
わらわが皆に紹介するので、くれぐれも喧嘩を売ったり買ったりせぬようにな」
「ぜ、善処はするよ」
すでに周囲にいる魔族から嫌悪の視線を向けられているクラウスは、頭を掻きながらそう言った。
嫌な予感しかしないフェリシアであったが、ファルミナに案内された大きな家の中へと入った。
「こちらが私の家となります。
今から里の皆を集会所に集めてきますので、それまでこちらで
クラウス……
おまえは絶対に家から出ないように、この家の中にいるうちは安全だ」
フェリシアに一礼をしたファルミナは、クラウスを睨みつけたのち家を出て行った。
「なぁ、フェリシア」
「なんじゃ?」
「魔族って、決闘で負けた相手に服従する種族って言ってなかったか?」
「魔族同士の場合はじゃな。
他種族の場合は敵意を向けない、ぐらいまでじゃな」
「ファルミナのあれは敵意じゃないのか?」
「あれは嫌悪じゃろうな」
「確かにそうかもな……」
当分ファルミナの態度はこのままだろうなと察してしまった二人は、顔を見合わせ苦笑しあうのであった。
そして、クラウスはフェリシアのためにもファルミナと打ち解けなければいけないと心に誓うのだった。
「フェリシアさま、お待たせしました。
里のものを集めましたので、そちらでお言葉をお願いします」
フェリシアが集会所の舞台にあがろうとしたとき、それに続こうとしたクラウスの腕をファルミナが掴んだ。
「お前はここにいろ、私もここにいるから。
舞台の上でフェリシアさまの隣にお前がいたら、里中で暴動が起きかねない」
「クラウス、そこで待っていてほしいのじゃ
話をしたら、わらわはおまえさんの隣に戻ってくる」
納得のいかないクラウスではあったが、この場は二人の言葉に従うこととした。
そして、舞台に上がったフェリシアは最初に謝罪の言葉を述べた。
人族と仲良くする道を選んだあの時の判断が間違っていたと。
突然里に現れた魔王が
しかしその後のフェリシアの話を聞くうちにその動揺は収まっていた。
「魔王様、ばんざーーい!」
「フェリシア様!!!」
フェリシアを称える声が会場を埋め尽くす中、フェリシアがクラウスを呼んだ。
今まさに手を取り合うことを否定した人族が魔王の横に立つ。
その意味を理解できずに会場は水を打ったように静まり返った。
「この者の名はクラウス。
人族ではあるが、共に人族を滅ぼさんとする わらわのパートナーであり、最愛の者じゃ!」
当然ながら、会場はざわつき始める。
そして、数多の敵意がクラウスに向けられる中、クラウスは声を大にして宣言した。
「俺の事が気にいらないやつはかかって来いよ!」
この言葉で会場は怒声に包まれた。
「あのバカが!!!」
ファルミナは舌打ちしながら舞台に駆け上がり、フェリシアと視線が合うと、互いに苦笑いを浮かべた。
「ばかものが!
あれほど黙っておれといったじゃろが、あの場面で煽るばかがおるか……」
フェリシアとファルミナが会場中に殺気を放つと会場は再び静まりかえった。
「はぁぁ、まったく……
皆の者聞きなさい。
非常に不愉快なことではあるが、私はこのクラウスと決闘して負けている。
じゃなければ、人族をこの里まで案内などしない」
舞台の上では、クラウスを正座させ説教するフェリシアと、それを横目に嫌そうな顔を浮かべながら説明するファルミナがいた。
それは里のみんなに色々なことを理解させるには十分すぎる光景であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます