2章.魔族編
22話.クラウスとフェリシア
アイオンたちがレムリアたちとともに王都に帰還を始めた頃、クラウスとフェリシアは王国と帝国の国境付近にいた。
「あそこがシトラス王国とゼノン帝国の国境となる砦か……」
クラウスの視線の先には大きめな砦があった。
それはガイア砦と呼ばれており、両国の国境上に存在していた。
「両国の兵士が大量に駐屯している、緊張感のある砦であるじゃろうな」
「もめるのがわかりきってるような砦に何故してるんだ?」
「ストレス発散のため…… じゃないかの。
実際に戦争になると面倒も多いからな、適度にここでもめて発散させろってことじゃろ。
人族のくだらない戦争ごっこじゃ、気にせんでよい」
フェリシアは心底くだらなさそうな表情を浮かべながらクラウスの疑問に答えた。
クラウスにはそれが何故ストレス発散になるのかが理解できなかったが、くだらないことなのであろうことだけは理解できた。
「これからどうするんだ?
ここに来たってことは、あの砦を占拠でもするのか?」
「おまえさんはいい男じゃが、頭のほうは良くないのぉ。
今あの砦を襲うメリットはないかの。
王国には帝国方面に行ったことがバレるし、帝国にも敵対する勢力がいることがバレる」
「悪かったな、バカで……
でもそれならどうするんだ??」
「王国には勇者もおるしな、帝国を乗っ取るためにここから侵入するのじゃ」
「帝国に侵入するなら砦以外からのほうが安全じゃないのか??」
「国境に点在しているいくつかの砦以外の場所には、侵入者探知と撃退の魔術が施されておる。
これはわらわでも無効化はできぬのじゃ。
なので、砦をこっそりと抜けるのが一番安全なのじゃよ」
「こんな兵士だらけの場所をどうやってこっそりと抜けるんだ??」
クラウスは素朴な疑問を口にした。
予想通りの反応を示すクラウスのことが愛らしくて仕方のないフェリシアは、満面の笑みを浮かべながら答えた。
「わらわにかかれば簡単なことなのじゃ!
砦にいるすべての人族が眠ってしまえば、何事もなく通過できるのじゃ」
「寝ちまえばって、さすがに全員が一斉に寝るタイミングなんてないだろ?」
フェリシアは黙ってみておれという表情を見せたのち、砦のほうに両手を突き出した。
突き出した手からは、細かい光の粒子のようなものが舞い始め、光の霧のようになったそれは、やがて砦全体を覆いつくした。
「ふぅ、あとはこのまま10分も待てばよいじゃろ」
それだけ言うとフェリシアはクラウスに甘えるような動きでコテン…と頭を預けた。
クラウスはそんなフェリシアを受け入れてそっと抱きしめるのだった。
「もう少しこのままで居たいのじゃが……
とりあえずこの砦を今日中に通過したいからの」
フェリシアは名残惜しそうにクラウスの胸に預けていた頭をあげると、ガイア砦を指さした。
「では、ゆくとしよう
せっかく眠らせたのに、通過前に起きてしまっては面倒じゃしな」
フェリシアはクラウスの腕をつかむと、砦へと急いだ。
そして砦についた二人は異様な光景を目の当たりにすることとなった。
砦内のいたるところで兵士たちが横になっているのだ。
「そういえば昔、ファウストのやつも盗賊相手に同じようなことしてたな、ここまで広くないけど。
魔術ってすごいんだな」
「ふむ、あの魔術師か。
大したことなさそうに見えたが……
警戒はしておいたほうが良いのかもしれぬな」
先ほど対峙した際には、取るに足らない程度の魔術師でしかなかったのに、まさか自分と同じ手を取ることに驚いたフェリシアだった。
「クラウス、おぬしと同じようにあやつらも潜在的な能力は高そうじゃな。
「ちゃんと敵対することを宣言したうえで、万全の準備をしたのちに立ち会う。
そうしないと俺たちの筋を通すことはできないのさ」
「……不器用なやつらじゃな」
フェリシアは苦笑しつつも、優しいまなざしで愛しい人を見つめるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます