07話.そこで見たものは……

「「!!!!!!!」」


 ファウストの静止を無視した二人は、その背後にある光景を見て絶句した。

そこには、ジンの部下たちの慰み者なぐさみものにされ身も心も壊れてしまい呻き声うめきごえを垂れ流すことしかできない女性と、その女性を抱きしめながら声にならない声を漏らし続ける中年男性の姿があった。


「お前らが捜してるやつらはこいつらだろ?

 返してやるよ、こんなのでよかったらな!!」

 あはははははっ!!」


 凄惨すぎるせいさんすぎる二人の姿にアイオンとクラウスは思わず固まってしまった。

無力感・絶望感・怒り……

いくつもの負の感情が自分の中から吹き出し、自分の感情を理解できなくなっていた。

そして、それらの負の感情はこの状況を作り上げたジンに対してのみではなく、この状況を防ぐことができなかった自分自身へも向けられ始めていた。


「アイオン! クラウス!!

 自分を責めてはダメだ!!

 ボクたちにこの状況を防ぐすべはなかった!!

 ……悪いのはコイツ、ジンだよ!!!」


「へぇ、少しは冷静な奴もいるみたいだな」


「ジン……

 一つ聞かせてほしい、何故こんなことをした」


「そんなことを聞いてどうする?

 そこに意味があるとは思えないけどな」


 怒りの表情を浮かべながらも、努めてつとめて冷静に話し合いをしようとするファウスト。

ジンにはそんなファウストの行動の意味を理解できなかったが、苦悩しているファウストの姿には満足感を覚え、簡潔に答えることにした。


「大商人オルトク・バルディ、奴の全てを俺のものとするためだ」


「全て…… だと?」


「城塞都市ラッカードと金が欲しくね。

 これからは俺が大商人オルトク・バルディとしてあの街に君臨するってことさ。

 そのためにもこの場にいるおまえらには……」


 やや興奮気味に、そして流暢にりゅうちょうに話をするジンの言葉が最後まで紡がれるつむがれることはなかった。


「ふざけたことをぬかしてるんじゃねーよ……

 ふざけんじゃねぇ!!!!」


ジンの眉間を突きで一閃したクラウスは投げ捨てるように言葉を溢したこぼした

そして、そのまま無言で部屋の片隅まで向かうと呻き声うめきごえを垂れ流す女性に自分の上着をかけて抱きかかえた。


「アイオン、こっちのおっさんは頼む……」


クラウスの頼みに無言で頷いたアイオンはオルトク・バルディに肩を貸し、そのまま街へと帰還した。

街へと戻った3人は、今回の事件の顛末てんまつをギルドの受付の女性に伝えた。

そしてその女性にバルディ親子を託すと、そのままこの街をあとにした。


「食料補給もしたかったが、この街にはもう居たくない……

 次の街に急ぐぞ」


疲労感と悲壮感が漂うアイオンの言葉に無言で頷いた2人。

次の街へと歩き始めた3人は己の無力感に苛まれてさいなまれて無言で歩いていたが、クラウスだけは別のことにも想いと巡らせていた。


人族とはこんなにも穢れているけがれている種族なのであろうかと。

そして、その穢れた種族が支配者となっている世界などむしろ崩壊するべきではないのかと……

文明崩壊の伝承の秘密を解き明かし、文明崩壊を回避するというこの旅の目的にクラウスは疑念を持ち始めていた。

そのことを2人に相談したいクラウスであったが、無力感に苛まれてさいなまれている2人に対してそのことを相談することができずに、自分だけで抱えてしまった。


「人など…… 滅んで当然なのでは……」


 クラウスが溢したこぼしたこの言葉がふたりの耳に届くことはなかった。

あの時のクラウスの言葉を聞き逃していなければ…… と、のちに後悔する二人であるが……

それはまだ先のことである。

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