第72話 私の決めたこと、です

言われて、セストは目を細め、ひるむことなくアルドをにらみ返しました。


「はぁ。それはすんません。

それにしてものんびりしたもんですな。聖女様がうちに来なければ、あんたの主人はもう数日か数週間で、呪詛に取り殺されて死ぬってのに」


え? という表情でアルドはルカを見ました。


「ほ、本当なんすか? そんな話、俺、一つも……」


たたみかけるようにセストはアルドに言いました。


「知らないとは言わせない。

うちの姉にかけられた呪いを解くことが、あんたの主人を救うって、あんたも重々承知しているはずだ。主人を思うなら、聖女様がうちに来るのを邪魔するなんて愚かの極みじゃないですかね?」


しばらく前、ルカは私に言っていました。

アルドには呪いで死にかかっていることを言わないでくれ、と。

その意に反して本当のことをばらされてしまったルカは、忌々しいという表情で黙っていました。

しかし、セストは怖気ることなくルカに向き直ります。


「ルカ様。

私の姉、エルザは、このままでは呪いによって死ぬでしょう。最近はもう起きているのもつらく、衰弱するばかりです。

一時は近しい間柄だったではありませんか、その姉を見捨てよとあなたは言うのですか?」


強い口調で言うと、今度はすがるように私の服の裾にこうべを垂れ、重々しく口を開きました。


「聖女様、どうかお言葉を覆すことなく、私と一緒に来て頂きたい。

私と一緒に来れば、姉は助力を惜しみません。あなたは国の聖女に戻ることができるでしょう。

そして、姉の呪いを解けば、姉のエルザもルカ様も助かる。

私は全員に得のある話をしてるんです。何もおかしな話なんかしておりません。

それに、来るならどうか急いでほしいのです、国をレッドドラゴンが襲っています。

結界をはれるものが戻らなければ、リディス王国が滅んでしまいます!」


「レッドドラゴン……?」


それって、魔物の中でも最強クラスの……騎士局と魔術局がまとめてかかっても勝てるかどうかと言われている、伝説の魔物、ですよね?

ここ数十年、リディスの公式な記録で、レッドドラゴンと戦ったというのはなかったはずですが……。


「ララ、本当ですか?」


「はい」とララは頷きました。


「私、私も……ルチル様に国に戻ってきて欲しいです!

ルチル様が帰ってきてくれなかったら、本当に、皆死んじゃいます!」


私の手を取って必死に訴えるララに、私はルカに目を向けました。


「ルカ、あなたは優しいから、私が国に戻ると言ったら、きっと止めるだろうと思っていました。

でも、私は行きます。行かなかったら、きっと後悔するから」


しばらくの沈黙。

そして、わかった、とルカの小さな声がしました。


「セスト、どうかエルザ妃のところまで案内してください」

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