第34話 夢渡りの来訪者◆二度目 ①
◇◇◇
伝書バトを神殿に飛ばして、私はそのまま眠ってしまったようでした。
ふと気配を感じて、私が目を開けると、夜の闇の中、私の部屋の真ん中に、誰かの気配がありました。
「あら、起きた」
「……夢……?」
寝ぼけた私の声に、気配は即座に否定しました。
「違う。お久しぶり」
「ああ……あなたはいつかの夢渡の方ですか……」
私は寝ぼけ眼をこすり、彼女を見上げました。
しばらく前に、夢渡りでやってきた、美しい女性が、また部屋の真ん中に立っていました。
彼女はまるで陽炎か何かのように、相変わらずゆらゆらと揺らめき、彼女の向こうの壁や机が透けています。実体としての彼女は、ここにいないのですから、まぁ当たり前なんですが。
不思議なものですね。眠っている間、魂だけで移動するのがこの夢渡りという方法ですが、使いこなすのはとても難しいとききます。
それを何度も使ってくるあたり、彼女は相当の魔術の使い手なのでしょう。
「ねぇ、ルカがアルドと、下でお酒を飲んでいたの。彼は夜、狼になって森にでているはずなのに。満月でもないのに、どうしてルカが人の姿に戻ってるの?
私の愛はかわってないっていうのに、どういうこと?
あなたが何かしたんじゃないかしら」
彼女はその美しい顔にすっとはいった傷を撫でながら、思案するように言いました。
「愛が何か……関係あるのですか?」
「あるわよ」
彼女は意味深に笑いました。
「あなた、本当に何者?
私のルカと、どういう関係なのかしら。説明してくださる?」
私のルカって何でしょう……。
やっぱりこの方、ルカととても近しい方なんでしょうか。
「関係も何も、私が困っているところを助けていただいただけなのです。
ただそれだけで……。それに私何も……」
「そんなわけない。そもそもこの森にただの人間は入れない。そういう魔術がしかれているんだから。そして、ルカの呪いだってひとりでには解けない。
あのアルドには魔術や呪術を何とかする心得なんてないでしょうから、あなたが何かしたんでしょう。
教えなさい。あなたは誰? そして何をしたの?」
私は口をつぐみました。
彼女にあれこれ言う必要はありませんし、聖女とばれたら危ないかもしれません。
そんな私の思惑を知ってか知らずか、彼女は真面目な顔になり、私に一歩踏み出しました。
「ねぇ、あなたはルカの呪いも私の呪いも、解くことができるの?」
私は互いに顔を見合わせてしばらく黙りました。
ん?ちょっとまってください、ルカの呪いと、私の、呪い?
「ああ……そういうこと。
ようやくわかった。私、あなたが誰かわかった」
彼女は微笑みました。
「あなた、あの聖女ね。
ルチル・マリアステラでしょう」
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