雪の上のricordanza

戀月 唯(rengetsu yu_i)

1:どこにもいない愛しい人

夢を見る。


1人の少女が花畑で俺の手を引いて微笑む夢だ。

愛おしそうに名を呼び、嬉しそうに舞い踊る。


まるで、子供が気ままに踊り遊ぶかの様に、

とても自由に舞い踊る。


俺はどうしようもなく、この少女が愛おしかった。

彼女のためならどんなことをしても構わないほどに。


そして、

薄紫や桃色の花びらが舞う美しい花畑で、

白銀の髪をなびかせ、

蒼い瞳を涙で輝かせながら彼女は言った。


––––アニス、絶対に迎えにきてね、愛しているわ。


その言葉に胸を焦がす。


「勿論だ。何があってもむかえ………


 え…………、

あ……ゆめ、か…………。」


俺は天井に向かって手を伸ばし、

盛大な寝言を言っていた。


夢が覚め、現実に引き戻される。 

伸ばした手は何も掴めず、虚しさだけを伝える。



会いたい。

焦燥感だけが心に降り積り、厚みを増す。


あちらの世界が現実なんじゃないかと思うほど、

リアルな夢を幾度となく見ている。


むしろ彼女のいる世界の方が

現実であって欲しいと願ってしまう。


それもそのはず、この世界は今、

戦火が吹き荒れる無法地帯と化している。


昔は数多くの国々が各地域を統治していたが、

ある時、世界戦争が勃発した。


幾度かの世界大戦が起きた後、

世界の大半は人類が滅びないように協定を結び、

平和な世界を作ろうとした。


が、その平和は束の間のものでしかなく、

ある日小さな種火が原因で世界戦争が始まった。


そこから平和な世界は一変し、

戦争ばかりの日々となった。


最初は色々な勢力が競い合うようにしていたが、

今では2大勢力が争い、

どちらが世界を統べるか揉めている。


そりゃ、こんな世界なんだ。

夢だって構わない。逃げたくなる。


それに、……何よりも彼女に会いたかった。



「彼女も何処かで生まれ変わっているのだろうか……」



そう、俺には前世、

いや、彼女と出会ったあの時のからの記憶がある。


記憶を引き継ぎ、ずっと何度もせいを繰り返し、

その度に彼女を探し続けている。


彼女と生きていた時は

アニス・プランタンという彼女の騎士だった。


彼女はルベル・イヴェールという

中世の高等貴族の美しい娘だった。

俺はそんな彼女に叶わない恋をしていた。


結ばれることはないと知りながらも、

彼女も俺を愛してくれていた。


いずれくる婚礼別れの日を見ないよう、

目と耳を塞ぎ、愛し合っていた。


婚礼とは別の別れが来てしまうとも知らずに。




俺は、その後も

ヴィオラ、カリーフ、ウェール、リェータ、チイユと色々な地域で色々な名前で生を送ってきた。


そして今はヴェスナー・ノワールとして生を受け生きている。


千と数百年。

人と生にしては長すぎて、

星の寿命にしては短い年月を経て、

募る想いは

解けるどころか積雪のように重く積み重なり、

一層彼女を恋しくさせた。


そんな想いの中、彼女を探す人生を続けている。



いつのせいも彼女に巡り会えるよう、

医者や薬師など人と多く出会える仕事についた。


また、もし彼女に出会えた時、

彼女を救える力になるよう、

そういう仕事を選んでいた。


今の時代、武力は破壊を生むだけだ。

騎士の頃は力が全てだと思っていた。


でも今は違う。

剣一本を完璧に扱えたとして拳銃で撃たれれば終わりだし、ミサイルを落とされたら死ぬ。


一個人の武力では確実には守れないのだ。


そのため、命を守るという違う側面から

力をつけることにした。


それが今の俺だった。



そもそも、なぜこんな状態になったかだが、

それは全てはある魔女の"呪い"が起因していた。


魔法や呪詛といったものは

今は存在していない様だが、

昔は実在していた。

その力を恐れ、魔女狩りが行われた程だ。


とはいえ、魔女狩りの大半は濡れ衣を着せられた

かわいそうな娘だった。

魔法や呪詛を扱える本物は数少なかった。


そんな一握りの本物、魔女スキア。

彼女のせいで俺とルベルは死んだのだ。


思い出しても憎く、復讐してやりたい気持ちもあるが、

そんなことよりもルベルに会いたかった。


一眼でいいからまた、会いたかった。

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