第117話:シング
「
「僕自身話に聞いたことがあるだけで目にしたのはこれが初めてです」
ルークは目の前を通っていく
「地熱、圧力、周囲の地質、一定条件が揃った場所に長い間蓄積した魔素は鉱物が結晶になるように純粋な魔素へと変換していき、最終的に生物のように自立行動が可能になることがあるそうです。魔神や妖精のような純粋な魔法生物の性質を持ちつつ生物ではないために半魔法生物と呼ばれています」
「つまりあれがそうだというわけか……」
ミランダが固唾を呑み込む。
しかしそれはどの生物にも属していない、種を残すこともないそれのみ単独の存在なのだ。
ルークはナミルの言葉を思い出していた。
1000年前、この地にやってきたイリスは1人で山に入っていき、その後で黒斑熱が収まったと言っていた。
おそらくその時発生していた
しかし時が経てば魔素は再び積もり、
それを見越して水門を作ったのだ。
「ひいいっ!こ、こっちに来るぞ!」
「な、なんでこっちに来るのよ!」
ランカーたちの情けない悲鳴が聞こえてきた。
「なんであの人たちのところに向かってるの?」
「門を破壊したのが彼らで、その存在を記憶しているのかも。あるいは門の奥に入ったことで匂いを覚えられたのかもしれない」
不思議そうな顔で見守るアルマにルークが答える。
「じょ、冗談じゃない!こんな所にいられるか!私は帰らせてもらうぞ!」
「私もです!」
「もういや!こんなところ来たくなかったのに!」
《蒼穹の鷹》の3人が踵を返して走り出す。
「待った!まずは冷静に……」
慌てて止めるルークだったがもう遅かった。
それが引き金となり、兵士たちも恐怖に駆られて逃げ出した。
「こ、こら、まずは儂を……ぶぎゃっ!!」
逃げ惑う兵士たちに弾かれ、足蹴にされるクラヴィ。
ルークは悲痛な面持ちでそれを見守るしかなかった。
「駄目なんだ……逃げても……」
「な、なんだ!?前に進めないぞ!どうなっているんだ!」
突然立ち止まったランカーが目の前を拳で叩いている。
他の面々も同じだ。
みな空中に突然現れた見えない壁に困惑していた。
「ルーク、これって……」
「そう、
ダンジョンボスクラスの魔獣でないと使うことができない
「つまり、あれを倒さない限り……」
「僕らは出られないってことになる」
何の前触れもなく
「うわああっ!」
半狂乱になったランカーが必死に剣で切りつけるが
ランカーの腕が徐々に黒く染まってゆく。
「ひいぃぃぃっ!助け……」
その触手を断ち切ったのはルークが手にしたアダマンスライムの剣だった。
「気を付けて!あいつが狙っているのはあなた方です!」
「な、なんで私たちが?」
「わかりません。しかしあなた方の身に覚えがあるのでは?
ルークはランカーの腕に巻きついている触手の残骸に抗性魔法をかけた。
しかし魔族ですら灰になる高等魔法をかけられたというのに残骸は縮みこそすれ消える様子がない。
「とんでもない魔法耐性だ。今の魔法は魔族だって耐えられないはずなのに」
ルークは舌を巻きながら剣で触手を引きはがす。
「あああっ!俺の腕、俺の腕があああっ!」
ランカーが泣きわめいている。
触手に巻き付かれたその右腕が真っ黒になっていた。
「畜生!畜生!なんでこんなことに……それもこれもお前のせいだ!」
ランカーがクラヴィを睨みつけた。
金主に向けるものとは思えない、憎しみに燃えた眼差しだった。
「お前がここを壊せと言わなければこんなことにはならなかったんだ!俺の右腕をこんなにしやがって!どう責任を取るんだ!」
「な、何を言っとるんだ!」
ランカーの暴露にクラヴィはあからさまなほどに狼狽していた。
「儂がいつ貴様らにそんなことを言った。証拠はあるのか!」
「証拠だあ!?俺様が証拠だ!こうなったら一生涯面倒を見てもらうからな!でなきゃ洗いざらい暴露してやる!そうなったら俺もお前もお終いだぞ!」
「ふ、ふざけるな!貴様のような下賤が評議委員である儂を脅そうというのか!貴様は首だ!二度と儂の前に現れるな!」
醜い争いを繰り広げる2人にアルマは呆れてため息をついた。
「……あれ、どうする?」
「放っておこう、今はこっちの方が大事だ」
ルークは肩をすくめると
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