第82話:本当の実力

 身長10メートルを超えるサイクロプスが反対側の壁まで吹き飛ばされた。


「……うわあっ!」


 背後を振り返った獣人たちが叫び声を上げる。


 そこにいたのは全身を鎧に包んだ巨人だったからだ。


「大丈夫、あれはアルマだから」


「ア……アルマさん!?」


 頭を振りながらサイクロプスが起き上がった。


 怒りに燃えた眼がこちらを睨んでいる。


 展鎧装輪てんがいそうりんで巨大化したアルマが重厚な音を立てながら前に出た。


 両の拳を打ち合わせて前に構える。


「ゴアアアッ」


 咆哮と共にサイクロプスが棍棒を振り上げて突っ込んできた。


「アルマ!ダッキングして5、7、2!」


 アルマは暴風のようなサイクロプスの攻撃をかがんでかわし、そのままがら空きになった右わき腹に拳を叩き込む。


 間髪入れずに顎に右のショートアッパーを入れ、のけぞったところで左こめかみに強烈なフックを放った。


「グフッ……」


 真っ青な血を吐きながらサイクロプスが崩れ落ちる。


「す、凄え……」


 キックが固唾を飲んで戦いを見守っている。


「あれがアルマさんの本当の力なんすか……それにしてもさっきの番号は?」


「あれは人体の急所に番号を割り振ってあるんだ。1なら右こめかみ、2なら左こめかみと言ったようにね。5、7、2は右わき腹、顎、左こめかみというコンビネーションになるんだよ」


「そんなことが可能なんすか……」


「魔獣とはいえ人型なら急所は人と変わらないからね」


「いや、お2人はよくそんな連携を取れるなという意味なんすけど……」


 キックが信じられないと言うように首を振る。


 ルークとアルマはこの急所に番号を振ってコンビネーションで攻撃する練習を以前から続けていた。


 ルークが相手を解析しアルマが攻撃するという2人のやり方に最適だったからだ。


「あのサイクロプスは右利きで棍棒に頼りすぎてる。攻撃が単調だから動きも読みやすいよ。アルマ!バックステップしてから2!」


 地面を薙ぎ払うようなサイクロプスの棍棒を後ろに下がって避けたアルマが振り下ろしの一撃をサイクロプスにお見舞いした。


 強烈な攻撃に流石のサイクロプスも地面に這いつくばった。


「やったんすか!?」


「いや、まだだね。サイクロプスは恐ろしく頑丈だし特殊な体質をしてるから簡単には倒せないんだ。でもこのままいけば……」


「ちょっと待ったあっ!」


 ルークの声が別の声に遮られる。


 それは両手を広げてアルマの前に立ちはだかったランカーだった。


「何をしている!今すぐ攻撃を止めろ!」


「そっちこそ何を言ってやがる!邪魔しないでくれ!」


 突然の邪魔に獣人たちが抗議の声を上げる。


 しかしランカーは引き下がろうとしなかった。


「駄目だ!さっきも言ったがこの討伐は《蒼穹の鷹》が受けた以来だ!獣人の護衛をしている貴様らが攻撃することは許さん!」


「ふざけんな!さっきから俺たちを囮にしてたくせに調子のいいことを言うんじゃねえ!」


「貴様らはそのための要員だろうが!大人しく餌になっていやがれ!」


 グスタフが吠える。


「ルーク、どうする?邪魔されないように先にあの4人を無力化しておく?」


「な、なんだとっ!?」


 巨体を維持したまま呟くアルマの言葉にグスタフの顔が青くなる。


「いや、それは止めておこう」


 ルークがランカーの前に出た。


「確かに僕らは護衛としてここに来ているのでサイクロプスへの攻撃は止めておきましょう。しかし獣人たちが襲われるのなら話は別です。身を守るために攻性防衛をさせてもらいますのでそのつもりでいてください」


「グヌッ……」


 ランカーの言葉が詰まる。


 しばらくルークを睨んでいたランカーだったが、やがて悔しそうに舌を鳴らすと目を逸らした。


「ふん、言ったことは守ってもらうぞ。貴様らは一切手出しをするなよ。おい、お前ら行くぞ!さっさとあのデカブツを倒すんだ!」


 《蒼穹の鷹》がサイクロプスへと向かっていく。


攻撃倍加ダブルアップ!」


十六斬!いざよい!」


 ランカーの攻撃でサイクロプスが斬り刻まれる。


「凄いな。1回の攻撃が16倍になる固有魔法なのか。しかもレスリーの付与魔法で倍になっているから32倍だ」


「か、感心してる場合じゃないっすよ!このままじゃあいつらに最終討伐権を取られちまうっすよ!」


「それは大丈夫、あのくらいの攻撃ではサイクロプスの耐久力を超えられないから」


 ルークがキックの耳に顔を寄せた。


「それよりも今のうちに用意をしておいてくれないか。《蒼穹の鷹》は間違いなくもう一度こちらに敵意付与ヘイトの魔法をかけてくるはずだ。その時がサイクロプスを倒すチャンスになる」


「本当すか!?」


「ああ、サイクロプスの攻撃のリズムと《蒼穹の鷹》の攻撃のリズムからあと3分ほどでサイクロプスに主導権が移るはずだ。そうなった時に体勢を整えるためにこちらに攻撃させるのは間違いないよ」


 ルークはアダマンスライムの義手から2振りの剣を作り出すとキックとボルズに手渡した。


「僕の合図でそれをサイクロプスに突き刺すんだ。大丈夫、きっと上手くいくよ」


「……りょ、了解っす」


 生唾を飲み込みながらキックが頷く。


「その意気だ。じゃあそろそろ始まるから準備をしておいてくれないか」


 ルークの言葉通り、《蒼穹の鷹》はじりじりと押され始めていた。


「クソ、この野郎なんて耐久力だ!しかも回復力が半端ねえ!」


「ここまでやってなんで倒れないの?」


 耐魔力が高いサイクロプスにはエセルの攻撃魔法もほとんど効いていない。



「ガアアアッ!!」


 サイクロプスの棍棒がランカーとグスタフを吹き飛ばす。


「ク……已むを得ん!レスリー、やれ!」


敵意付与ヘイト!」


 敵意付与ヘイトの効力でサイクロプスがルークたちに襲い掛かってきた。


「アルマ!左にスイッチしてワンツーからのハートブレイクショット!!」


 アルマの放ったジャブがサイクロプスの頭を左右に揺らす。


 とどめの右ストレートが胸骨に突き刺さった。


 衝撃で後ろにたたらを踏むサイクロプス。


「今だ!左右の脇腹を狙うんだ!」


 ルークの言葉を合図に背後に潜んでいたキックとボルズがサイクロプスの後ろ脇腹に剣を突き立てた。


「ギャアアアアアアアッ!!!!!」


 柔らかなバターのように剣は深々と突き刺さり、サイクロプスが絶叫を上げる。


 そして糸が切れたように地面に崩れ落ち、そのまま動かなくなった。


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