第52話:ゲイル王子再び
「貴様、フローラに何をしている!」
ゲイルが怒りも露わにルークに詰め寄る。
「ゲイル王子、私が話しかけたのです」
「フローラ、お前は黙っていろ」
フローラの仲裁にも一切耳を貸そうとしない。
「いいか、フローラは貴様のような奴が気軽に話しかけていい相手じゃないんだ。わかったらさっさと離れろ」
「失礼いたしました」
「待て、そう言えば貴様に言っておくことがあったのを思い出したぞ」
一礼してその場から離れようとしたルークをゲイルが呼び止めた。
「貴様、許可なくナレッジ領へ立ち入ったそうだな。しかも武装した衛士を引き連れいたそうではないか」
「それは……」
誤解ですと説明しようとしたがゲイルは全く聞く耳を持っていなかった。
「本来ならば侵入罪どころか不敬罪に反逆罪で磔刑になっていてもおかしくないのをランパート辺境伯の後ろ盾で生きながらえているという訳か。つくづく手回しの良いことだな」
「……ゲイル王子、そのことは誰からお聞きになりましたか」
ゲイルの挑発にルークが静かな声で尋ねる。
「おそらくグリード卿かアヴァリス卿なのではないですか?」
「だったらどうした」
「ならば意見具申させていただきます。私のことはどう思っても構いませんがあの2人は信用しすぎない方がよろしいかと」
「戯言を言うな!貴様如き平民が貴族2人をなじるつもりか!」
「そのような意図はございません」
ルークは落ち着いた声で話を続けた。
「我々がナレッジ領に赴いたのはここにおわすアルマお嬢様をお救いするためです。グリード卿はアルマお嬢様の誘拐に関わっている可能性があります。そしてアヴァリス卿はグリード卿との繋がりがあるかもしれないのです。あの誘拐事件も……」
「黙れ黙れ!」
ゲイルが剣を引き抜いた。
「それ以上貴族を貶めるつもりならこの場でたたっ切るぞ!」
2人の視線が交差する。
今回ばかりはルークも引き下がる気はなかった。
自分のことならまだしも、世話になっているバスティール家を侮辱されて黙っているわけにはいかない。
ルークは静かに答えた。
「それがお望みであるならばどうぞ。しかしその前に私の話を聞いていただけますか。それでも尚納得できないのであればお好きになさってください」
「この……いけしゃあしゃあと。ならば望み通りにしてくれるわ!俺の剣に耐えられたならその時は貴様の話を聞いてやる!」
「それ以上はいけません」
フローラがルークの前に出た。
「フローラ!何故この男を庇う!こいつは俺の目の前で貴族を侮辱したのだぞ!貴族の長たる王家の者としてこやつを処罰するのは俺の義務だ!」
「なればこそです。ゲイル王子、御身は貴族の長である前に国民の長なのです。そして今はそれを示す場であるということをお忘れなきように」
「!」
はっとしたようにゲイル王子が辺りを見渡した。
いつの間にか周りには人だかりができていて兵士たちが事の成り行きを見守っている。
「ここにいるのはみな平民の兵士ばかりです。貴方様は国民が一言二言貴族に対して物申しただけで刃の露にするような王になるおつもりなのですか?」
「クッ……」
ゲイルが言葉に詰まる。
しばしルークを睨みつけていたが、やがて剣を鞘に収めた。
「ふん、いいだろう。戯れに貴様の話に乗ってやる。だがそれもこの
ゲイルが憎々しげにルークを睨みつける。
「その時はこの国から出て行き、二度と入ってくることを許さん。これはアロガス王国第一王子としての言葉だ。二言はないと思え」
「承知しました」
ルークが一礼する。
「その代わり私が殿下以上の功績を上げた時は必ず約束を守ってください」
「ふん、俺も王子だ、一度交わした約束は必ず守る。だが今のうちに言っておいてやろう。貴様には絶対に無理だとな。むしろ命が惜しければ今のうちに出国することだ。止めはせんぞ」
ゲイルはそう吐き捨てると高笑いをしながら去っていった。
「ふう、どうもありがとうございます。おかげで助かりました」
ため息をつくとルークはフローラに微笑んだ。
「ルーク!」
そこにアルマがすがりついてきた。
「あんな約束無茶だよ!」
「大丈夫、なんとかなるよ」
「でも……」
ルークがアルマを抱きしめた。
「大丈夫、僕は絶対にアルマの側から離れない、約束するよ」
「ルーク……」
「ルーク、気をつけてくださいね。ゲイル王子は尊大なところはありますが実力は本物です」
「わかっています。油断するつもりは毛頭ありません」
心配そうに声をかけてきたフローラに向かってルークが頷く。
「でもこれでわかりやすくなりました。すべてはこの
「あの小僧め!この俺にたてつくとは!どうなるか目にもの見せてやる!」
苛立ちを隠しきれないようにゲイルが歩いている。
「殿下、どうやら首尾よく行ったようですな」
そこに現れたのはアヴァリスだった。
「ふん、貴様の望み通りに奴に国外退去を突き付けてやったぞ。これで満足か」
「ありがとうございますありがとうございます。流石は殿下様でございます。あとは殿下がいつも通りの実力をお見せするだけで充分ですとも」
「当たり前だ!俺があんな奴に負けてたまるものか!」
ゲイルが吠えた。
「さっさと始めるぞ!こんな
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