12取引先からの電話
「もしもし。太田商事です。はい、いつもの商品ですね。在庫を確認してまいりますので、少々お待ちください」
「はい、その商品はすでに生産が終了していますので、相当品でお出しすることになります。かしこまりました。メーカーに確認してお見積もりをメールいたします」
「この見積もりの確認をお願いします」
「もしもし、あの、こちらの商品の在庫はありますか?」
仕事に集中していると、一気に時間は過ぎていく。あちこちで電話が鳴り、それを事務員が受話器を取って対応していく。実乃梨も例外にもれず、かかってきた電話の対応に当たっていた。
昼休憩直前に、一本の電話がかかってきた。実乃梨は反射的に受話器を取ると、相手は取引企業の担当者だった。
「浜永商社の山田と申しますが、社長様はいらっしゃいますか?」
「申し訳ありませんが、社長は外出しております。用件を伺いますが」
「では、お願いします。社長様にはお伝えしたのですが、昨日、私共の社員が一人、亡くなりました。その件でお話ししたいことがあります。戻りましたら、お手数ですが、こちらにご連絡いただけないでしょうか」
「かしこまりました。折り返しのお電話番号は、こちらに記載されている携帯番号でよろしいでしょうか?」
昨日亡くなった社員と言えば、思い当たる人物は一人しかいない。その件で社長に話とはいったいどんな用件だろうか。
電話を終えて受話器を置いた実乃梨は、今聞いたことをメモして、社長の携帯に連絡を入れる。社長が会社にいることは珍しい。社長自ら営業に赴くため、外出していることが多く、今日もまた、外出していて事務所にはいなかった。
「もしもし」
「社長ですか?先ほど、浜永商社の山田さんからお電話がありまして。昨日亡くなった社員の件でお話があるそうです。電話番号は……」
「わかった。連絡しておく」
社長に連絡を取ると、すぐにつながり、折り返し社長から山田さんに連絡を入れてくれるそうだ。連絡がついてほっとして受話器を置くと、隣から視線を感じた。実乃梨が視線を感じる方向に顔を向けると、興味津々といった顔の榎木の姿があった。
「なんですか?」
「いや、昨日亡くなった彼女の件で、社長に連絡とか、いったいどんな用事なのかなと思いまして。なんだか怪しい匂いがするなって」
「はあ」
話しているうちに、外から正午を知らせる時報のチャイムが事務所に鳴り響く。その音を聞いた他の社員たちが次々に席を立ち、昼休憩に出かけていく。実乃梨たちの会社では時報のチャイムを目安に昼休憩に入ることになっていた。
「とりあえず、私たちも昼休憩に入ろうか。話はそこでしよう」
榎木も席を立ち、食堂に向かって歩き出す。実乃梨もその後を追いかけて食堂に向かった。
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