第39話 お礼参りに行ったよ。
「よし、じゃあ行こうかゆずる。」
「どこへ?」
「どこへ?って昨日2万円貸してくれたじいさんにお礼をしに行くんだろう。」
「えっレイ君も一緒に行ってくれるの。」
「当たり前だろう、ゆずるが世話になったんだ。俺もそのじいさんに会ってお礼をしなくちゃな。」
「ありがとう。」
「私も行くわ!」
こころも立候補してくれた。
「ダメだ、こころは店番を頼む。昨日も閉めてたんだから今日は開けておきたい。」
「え〜〜〜誰も来ないよ、こんな店に。」
「高給取りなのにその言い草!バチ当たるよ!」
僕のツッコミに渋々残る事に同意してくれたこころ。
そんなわけで僕とレイ君は2人で出かける事に。
「どうする?電車で行く?それともタクシーで行くの?」
「オレの車で行くぞ。」
「えっレイ君車持ってたの?知らなかったよっていうか幾つなの?」
「まあ、車はちょっと離れた駐車場に置いてあるし偶にしか乗らない嗜好品みたいなもんだからな。」
レイ君のイメージで車っていうと、でっかいアメ車のピックアップトラックとかジープをイメージしてた。
といいつつ裏をかいて軽自動車なんじゃないかな〜と思ったがそこにあったのは…
日●のムラーノだった。
可もなく不可もなく…日本では幅が広すぎて欧州とかでは人気があるが、日本ではいまいちらしい…もちろん僕は大好きさ。ムラーノっていうネーミングがいいよね。
「どうした、乗れよ。」
しょうもない事を考えていた僕はレイ君に急かされて、すぐに助手席に乗ってシートベルトを締める
「今からだと…上を使えば1時間ぐらいで着くな。」
そう言うと車は急加速で走りだした。
急加速、急ブレーキ、車がガックンガックンするたびに
レイ君は僕のなすがままにされる様子を見て満足していたようだ。
いや、普通に運転しろよ。
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「住所をみるとこの辺なんだけどな、ゆずるも一応みてな。」
「うん、あのおじいさんのことだから、今にも倒壊しそうな2階建てモルタルアパートかな。」
「ひどい決めつけだな、恩人に向かって。」
「あっあの一戸建てじゃないかな、おじいさんの自転車ぽいのが止まってる。」
僕たちは近くの駐車場に車を止め、歩いておじいさんの家へと向かった。
築40年ぐらいの2階建ての1戸建だ。
たぶんこの辺は同じ時期に建てられた分譲住宅の1つなのだろう。
同じような家の形が多いからだ。
昔ながらのピンポンダッシュ用のチャイムを鳴らすと、
昨日のおじいさんが出てきてくれた。
「おう、自転車泥棒じゃないか。もう返しに来たのか、まあ上がっていけお友だちもな。」
「転車泥棒じゃないですよ、未遂ですからセーフです。じゃあ失礼します。」
僕たちは靴を脱いで玄関に上がる。
廊下を渡って奥の応接間に通された。
レイ君とソファーに座っておじいさんを待つ。
「ほれ、何もないが茶でも飲め。」
「ありがとうございます。昨日は見ず知らずの僕にお金を貸してくださって改めてお礼申し上げます。」
「堅苦しい事はいいわ、ちゃんと帰れたのならよかった。んで隣は?」
「ゆずるはオレの家族みたいなもんだ。昨日世話になったという事なんでついでに俺もお礼をと思ってな。」
そう言ってお金と菓子折りを渡した。
「気を使わせたみたいですまんな。ありがたくもらっておくよ。」
「いえ、失礼ですがおひとりですか?奥さんは…」
僕がそう言うとおじいさんはギロリと僕を睨んだ。
「誰もが必然と結婚してると思うなよ!一生独身の奴も世の中にはいるんじゃぞ!中にはもてなくて、もてなくて結婚したくて色々な結婚相談所に通ったり、マッチングアプリに登録しても出来ない男達が世の中にはおるんじゃぞ!その一言がどんだけわしらを傷つけることか……うううう。嫁は5年前に亡くなったんじゃ。」
……ボケてんのかクソじじい。
その言いようだったら結婚できなかった風だったじゃねえかよ。
僕はイラっとした。
「まあ、そこに写真が飾ってあるから知ってはいましたけどね。」
レイ君は知ってたアピールをして僕を突き放した。
「ぼ、僕も気づいてたよ。だから聞いたんだよ!」
「婆さんとの出会いはわしが20歳のときだった。あの時の…」
多分みんなおじいさんのなれそめなんかに興味はないと思うので割愛させてもらうぜ。
だけど俺とレイ君はしっかりおじいさんの昔話を聞いたぜ。
もちろん表では聞いてるふりで、裏では念波で会話してたんだけどね。
ひどっ。
「なれそめの件はわかったからもういいよ。んで、じいさん何か困った事はあるかい?オレで出来る事なら手伝うぞ。」
「そうじゃのう、立ち退きの奴らが毎日うっとおしいからなんとかして欲しいくらいかの。」
「見ず知らずの僕達に頼むにしては、いきなりハードな問題!」
「その立ち退きする奴らを叩きのめして来ないようにして欲しいのか?」
「いや、すぐに立ち退きたいからちまちま交渉しずにズバッと最高値を提示して買い取って欲しいのじゃ。」
「あっそうなんだ、この家に思い入れがあるから出て行きたくないとかじゃないんだ。」
「ふん、思い出にすがっても何にもならん。結局老いて動けなくなってしまえばそんな思い出の家も管理できなくなって朽ち果てていくんだからな。それならばまだ元気なうちに処置したほうがお互いWinWinじゃろう。」
ふ〜んそんなものなのかな。
僕にはパッとしなかった。
「その交渉相手はどこだ?名刺か何かあるか?」
「…冗談じゃったんだが、名刺ならここに。」
レイ君はおじいさんから名刺を受け取るとうなずいた。
「ここならオレの知り合いがいるから後から連絡を入れさせるよ。」
「マジで?嘘じゃないよね?嘘じゃったら化けて出るよ婆さんが?」
婆さんに憑かさせようとするなよな!
自分で憑けよ!罰当たりか!
「本当さ、何なら転居先も用意させよう。じいさんばあさんの憩いの場所をな。」
老人ホームじゃね?
それ老人ホーム「憩い」って施設の名前でしょ?
「冗談で言ったつもりじゃったんだが、その提案ありがたく受けさせてもらうよ。ありがとうこんな偏屈なジジイの為にありがとう。」
そういっておじいさんは僕とレイ君に握手をしてきた。
レイ君とおじいさんが握手をした時、
一瞬腰が光った気がした。おじいさんは気づいていないようだったが。
それからしばらくおじいさんと話してお暇した。
帰りの車内でレイ君に聞いてみた。
「おじいさんの腰光ってたけど何かしたの?」
「ああ、見えてたのか。腰が悪そうだったから矯正したぐらいだよ。まあ治すまではしていないがこれでだいぶ楽にはなるだろう。」
「今日のレイ君はなんか大盤振る舞いだったね。」
「何言ってるんだ当たり前だろう、ゆずるの恩人じゃないか。こんな平凡な顔の見ず知らずの奴に自転車を盗られそうになったのに相手の境遇を聞いてお金、それも2万円も貸してくれるようなお人好しが報われなくてどうするんだっていう話だよ。」
「確かにおじいさんには感謝しかないね。それとレイ君もありがとう、僕の為に尽力してくれて。」
僕は素直にレイ君にお礼を言った。
(よ、よせいやい!たまたまなんだからね!)
なぜ念波でツンデレ?
そんないい事をした感じになった今日この頃だが…
よく考えた僕は何もしてね〜〜付いてきただけじゃん。
全部レイ君がやってくれてるやん。
お礼に急加速、急ブレーキ、車がガックンガックンするたびに
レイ君が喜んでくれるように僕はなすがままにされた。
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