第20話 人物観察日

「レイ君もっとくれよ〜あのペネロスっていう食べ物。ね〜〜」

あの家畜のエサを与えてからゆずるがクレクレうるさい。


あれは異世界で確かに家畜のエサなのだが、

正確には完璧調味料と言ったほうが分かりやすいか。

異世界では料理はもちろん色々研究されて発達しているのだが、

今世紀最大の発見と言われたのがペネロス成分だ。


日本のうまみ調味料みたいな感じだが、

このペネロスのすごいところは

100人いたら100人味の好みが違うと思うのだが、

その個人の嗜好に合わせるという点だ。


舌にある味蕾に反応するらしい。

まあ、あんまり興味がなかったから詳しくは調べなかったのだが

とにかく、自分の好みの味に適応してくれるという事だ。


だからこの間ゆずるには家畜のエサ用の固形を渡したが

おやつ向けに例えばグミのような素材にペネロスをまぶせば

自分専用味のおやつに早変わり。


あの後家畜のエサを食べさせたお詫びに色々な素材にペネロスをまぶしたのをゆずるに食べさせたら熱狂的熱量で歓喜、発狂して求めだしたのだ。


地球人には麻薬的なやばい成分が作用しているんじゃないかと

動物実験をしてまで確かめたほどだ。

異常はなかった。

ゆずるが異常だ…


ゆずるには内緒で脳内スキャンもしてみたが異常は見られなかった。

逆に異常が無いのにあの麻薬的な執着心。

ヤベー奴だなゆずる。


しょうがないので、ペネロスのことだけ忘れさす事にした。

記憶を操作したのだ。


だから今ゆずるはベッドで寝ている。

寝ているのにペネペネ言ってる。

おかしいなちゃんと消したはずなのに。


とりあえず今日はゆずるを寝かしてオレは外に出かける事にした。


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オレの趣味は人間観察だ。

町中を歩きながらいろいろな人の顔を見る。


人の顔はその人の性格が出ると思っている。

年輪と一緒だな。


顔の美醜は生まれつきだからしょうがないという人がいるかもしれない。

確かに根本的な顔つきというのはそうそう変わることはないだろうが、

オレにはそのような美醜の良し悪しはどうでもいい。


その人の長年醸し出てきたの内面の部分に興味がある。

別に長年と言っても年寄りばかりでもない、

若い奴でも同じだ。2〜5年で顔つきも変わる。


だからオレの基準での良い顔と悪い顔というのがあるんだ。


そんな事を考えながらショッピングモールのフードコートである老人が1人で座っていた。人当たりの良さそうな笑顔が張り付いたじいさんが。


しばらくすると奥さんであろうおばあさんがそのじいさんの分のうどんも一緒に運んできた。が、じいさんの目の前に置いた時少しうどんのツユがおじいさんに跳ねた。


おばあさんが慌ててハンカチでおじいさんに跳ねたツユを拭き取ったが

じいさんは笑顔のままで何事もなかったかのようにうどんを食べだした。

おばあさんにありがとうも言わずに先に食べだした。


ツユがこぼれた時じいさんは一瞬ばあさんを睨んでた。

たぶん家ではばあさんを自分の支配下に置いて、

言いなりになるようにコントロールしているんだろう。

長年そういう力関係でいたのであろう。


他の人にはあのじいさんはニコニコして人当たりの良い風貌に見えるかもしれないが

オレには醜悪なじじの顔にしか見えない。初めっからな。


もちろんオレは観察してただけで、これといってばあさんを助けるだとか

じいさんを改心させるだとかする事もない。

ただの趣味で人間観察をしているだけなのだから。


例えオレの目の前で殺人があったとしても

オレが動く理由がない。


ふと隣を見ると小学生くらいの女の子5人がテーブルで駄弁っていた。

観察していると1人だけうつむいて何もしゃべっていない。

他の4人はその子をいないかのように扱って、おしゃべりを楽しんでいるようだ。


すると4人のうちの1人がその女の子に話しかけた。


「どどどどどんわわわ…」

それを見て4人は笑い、また無視して話し出す。

その子はまた、暗い顔でうつむいて座りっぱなしだ。


吃音か…。

あの子もそれを気にしてあまりしゃべらないようにして、

しゃべる機会があっても緊張してうまくしゃべれなくなる悪循環だな。


しばらくすると4人の女の子はその子を席に置いてご飯を買いに出かけた。

程のいい席とりだな。

他の4人とどういう関係なのかはわからないが、決していい関係ではないだろう。


オレは興味を持って彼女に話しかけた。


「こんにちは!僕妖精だよ!」

オレはミッ●ーマウスのような声高に恥ずかしげもなく声をかけた。


最低な声のかけ方だな。

だけどこんな少女にナンパだと思われたら嫌だし。


「だだだだだれ、でですか?」

彼女はびっくりした顔でオレを見上げた。


「大丈夫、君以外には見えていないから。妖精だけに。

だから落ち着いて話してくれる?妖精だけに(笑)」

オレの優しい笑みに彼女は驚きながらも話してくれた。


あの4人のは小学校の同級生で同じグループらしい。

一緒に遊びにきたそうだ。


同じグループとはいえ仲は良くないらしい。

そんなグループなんか抜ければいいのにとも思うが

女子にはいろいろあるんだろう。


でも今日は勇気を振り絞ってみんなと仲良くなりたと頑張ろうとしたけど、やっぱりだめだった。緊張してうまくしゃべれない。結局変えられないと後ろ向きになってしまっていた。

そう彼女は妖精のオレに話してくれた。


「吃音を治したいかい?」

「……うん。」

それ以上に自分に自信を持ちたいという

気持ちが伝わった。


別にこの子に構う必要はない。

この子を助けてもオレには何もメリットはない。

だけど治してあげたくなった。


オレは気まぐれなんだ。

そしてひどく傲慢だ。


「それじゃあ妖精から魔法の言葉を教えてあげるね。」

彼女はすがるような目でオレを見る。


「いいかい?困った時にはこう唱えるんだ」


“大丈夫大丈夫”(笑)


オレは少し笑ってしまった。

「絶対にネットで“大丈夫大丈夫 タ○ホーム”と検索しちゃだめだよ。」

「うん、わかった!ありがとう妖精さん」

それじゃあとオレはその席を離れた。


あの子が素直な子で良かった。

普通なら何言ってるんだコイツという侮蔑の目で見られてもおかしくない。

あの子が純粋過ぎて心配になるぐらいだ…大丈夫か?


もちろん魔法の言葉と共に治療はしておいたよ。


これで吃音の件は大丈夫だろう。

後はあの子の気持ち次第だ。


オレは認識阻害をかけていたので、

周辺に見えにくい状態だった。

警察案件にはならなかった事にホッとしている。

今はすぐに通報されるからな。

嫌な世の中になった。


今度は同じショッピングモールのコーヒーショップのソファーにくつろいで、グランデのカフェオレを飲んでいたら、オレの後ろのソファーに男が座った気配がした。


「相変わらずお優しい方ですね。少女には。」

オレの後ろから声が聞こえるが振り向かない。


「オレに少女好きな趣味は無いよ。」

「えっ女装趣味あるんですか?見てみたいですな」


「あいにく男の娘趣味はもっとない。」

「残念です、レイさんはBL業界で期待の新人と目されている方ですから。」


「誰も目してね〜よ!」

「密かなブームですよ。ふふ」


「密かなって絶対ブームじゃないぞ。むしろブームの反対語だぞ!」

「それでは本題ですが…」


「自分でさんざん振っておいて、本題って…まあいいけど何だ大嶋さん。」

「小嶋です。」


「ああ、そうだった大村さん。」

「なぜ大の方を残すんですか!○嶋いじりにしてください!」

そんないつものやり取りが一通り済む。


「これいつものです。お納めください。」

「ありがとう、ジジイにも伝えてくれ。早くくたばれよってな。」


「くくくそんな事が言えるのはあなただけですよ。私が言ったら首を切られます。物理的な方でね。」

小嶋さんはそう言うと席を立ち上がって去っていった。


気配を消していた妖精状態のオレに話しかけるとは。

やるな小嶋。と思いながら今日も有意義な1日を終え帰宅した。


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