朱雀門
少年が一人、座り込んでいる。
脱色したような薄い色の髪の下、明るい茶色の目はぼんやり虚空を見つめていた。擦り切れた砂色のジャケットには、泥を被ったような黒い染みが出来ていた。――血の染みだ。
ベルトに挟んであった曲刀を引き抜く。刃の先がぼろぼろに欠けていた。やっぱり買い換えないといけないと思い、少年――ハオランは、うんざりして目を閉じる。
「チオンジ―。……窮奇。きゅ、う、き」
こつこつ、地面を指で叩いた。唸り声が返ってきただけだった。阿呆らしくなって、ハオランは拳で地面を殴りつける。
「優しくせんからじゃ。ハオランお前、こんなに死体出してどうする」
呆れたようにそう言ったのは
「優しくってどうするんだよ。ペットじゃないんだ」
「飼い主に似るんじゃろ。しかしずいぶん、機嫌が悪かったんじゃな」
朱雀翁が言って、ハオランの背後を眺めた。少なくとも二十人は死んでいた。
「門前で争うのはルール違反じゃ。これ以上やったら通さんぞ」
「俺のせいじゃない。不味い玉喰って臍曲げたんだ。事故みたいなもんだろ」
「お前さんだって斬っとったじゃろ。可哀想に」
「不可抗力、正当防衛だよ。可哀想だって言うなら、海にでも放りこんどいてあげて。俺これからやることあるし」
「そりゃただの死体遺棄じゃ」
「そういう埋葬方法あるって聞いたけど」
「骨になってから撒くんじゃ。骨にならんうちに放り込んだら事件じゃろうが」
じゃあ骨になるまで放置しとくか、とハオランは言った。相変わらずじゃな、と朱雀翁は顔をしかめる。にっと笑顔を返し、ハオランは身軽に起き上がって曲刀を放り捨てた。
「門前で争うなって言うんなら、玄武門の中国女に言えよ。あいつの方が色々だめだろ」
「お前さんだって似たようなもんじゃ」
「俺の国籍は日本だし、あんなに狂ってない」
そう言ったハオランを疑わしそうに見つめ、やがて朱雀翁はため息をついた。
「……で? 何で今日は来たんじゃ。売る
「知らないの? 今日取引あるんだよ、
「――青龍?」
驚いたように目を見開き、それから朱雀翁は爆笑した。
「
「いやいや、今回は
司天社は大手の貿易会社だ。朱雀翁は笑いを収め、眉をひそめた。
「本当かそりゃ。前あったじゃろ、
羅羅は虎の妖怪の中ではさして珍しくもなく、価値は高くない。あの時は騙された、とハオランは苦い顔で言う。
「お前さん、妙に四神に拘るの。そんなに儲けたいか?」
「違うよ。俺には俺の、深淵で真っ当で切実な理由があるんです」
古代中国では、青龍、白虎、朱雀、玄武が東西南北を護る四神と称されていた。妖怪たちから最も恐れられる神獣であり、価値は高い――というか、捕まえること自体、ほとんど不可能なはずだった。
なおも疑わしそうに見てくる朱雀翁に対し、へらっとハオランは笑う。
「まあ、嘘でもいいけどさ。可能性があるんなら行ってみないとね」
「わしは知らんぞ。とりあえず、お前さんが原型留めて帰ってくることを祈っとるわ」
「不吉なこと言うなよ」
屈伸運動をしながら、ハオランはぼやく。朱雀翁は笑って、それから空を指差した。
「日暮れじゃ。――準備はええか?」
燃えるような赤に染まった空の端、滲むように、濃紺の闇が忍び寄っている。
日没が『
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