第13話
「はあっ……はあっ……」
玄関に飛び込んで、足がもつれて床に倒れ込む。すぐ後ろから、嫌な気配が迫ってきた。
『ツカマエタ……』
黒い影が私に覆いかぶさるように伸びてきて、あたしはぎゅっと目をつぶった。
ヒュンッ
空気を切る音がした。
あたしを捕まえようとしていた黒い影に、ナイフやフォークが襲いかかった。
もちろん、霊にはそんなもの刺さらないが、黒い影はひるんだように後ろに下がった。
あたしと黒い影の間に、小さな男の子の霊が現れる。
「マコトくん……」
マコトくんからは光るオーラのようなものが発されていた。おそらく、すごく怒っている。
黒い影はマコトくんの怒りのオーラにおされて、呻き声を上げて遠ざかっていった。
バタンッ
黒い影を外に追い出して、玄関の扉がひとりでに閉まった。
あたしはほーっと息を吐いて全身の力を抜いた。
「ありがとう、マコトくん……」
マコトくんはちょっと振り返ると、Vサインをしてからふっと消えた。
薄暗い洋館の中で、あたしは床に座って膝を抱えた。まだ外にはあの黒い影と女の人がいるかもしれない。まだ、しばらくはここにいた方がいいだろう。
ここに悠斗がいれば、携帯を持っているから助けを呼べるのに。
「うちでは「携帯は中等部に進学してから」だもんね。涼も初等部を卒業したら買ってもらうって言っていたし」
自分を元気づけるために、わざと大きく声に出した。
「あーあ。今頃、サボったって思われてるかなぁ……涼のこと「サボり魔」って呼べなくなっちゃうよ」
涼と悠斗はどうしているかな。あたしが登校しないから、不思議に思っているかもしれない。
(ああ、あたし、涼に謝るつもりだったのに……)
抱えた膝に顔をうめて、あたしは涼か悠斗が探しに来てくれることを祈った。
そうするうちに、洋館の中が薄暗いせいか、必死に走って疲れ切ったせいか、だんだん頭がぼんやりしてきて、そのまま眠ってしまった。
『大丈夫だよ。あの霊にさわってごらん』
男の人に肩を押されて、五歳のあたしはこわごわと前に進んだ。
部屋の真ん中には、優しそうな笑顔を浮かべた青年の霊が立っていた。
『彼は我々に協力してくれる良い霊なんだ。だから、君の能力測定も手伝ってくれるんだ。だから、怖がることはないよ』
そうだ。これは、霊が見えるとうったえて泣くあたしを、おかあさんが能力測定に連れていった日の記憶だ。
あたしはすごく怖かったけれど、今まで見てきた霊とは違って優しい笑顔を浮かべる青年を見て「だいじょうぶなのかな?」と思った。
だから、勇気を出して言われた通りにした。
まず左手で霊にさわった。少しヒヤリとしたけれど、普通の人をさわるのと変わらない感触だった。
『きみは、見えるだけではなくて、さわることもできるんだね。霊能系は数が少ないし、見えるだけでさわれない人も多いんだ。きみの能力は将来役に奴よ』
男の人がそう言ってくれたので、あたしはうれしくなった。
そして、調子に乗ったあたしは、左手で握った霊の手に、右手まで重ねたのだ。
次の瞬間、青年の手がぼろぼろと崩れだした。
あたしが触れたところから、青年の体が崩れて消えていく。青年が驚いた表情であたしを見た。
あたしは何が起きたかわからず、目を丸くしてただ青年が跡形もなく消えていくのを見ていた。
目の前にいた青年が消えて、あたしはへたりとその場に座り込んだ。
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