第28話

 俺は急いだ。

 最初は東龍のいる北を目指した。


 竜宮城の城下町は、至る所から槍を持った魚人たちの姿が目に止まった。様々な魚介類を乗せた盆を持ち。心配顔のミンリンが見える薄屋の前を通り、蛻の殻の薄暗いリンエインの家を通り過ぎた。


 魚人の将の武家屋敷が見える大通りを幾つも通過すると、やっと砂浜にでた。

 目前には、東龍が銀の龍の姿になって、水淼の山岩龍と応戦していた。だけど、俺には東龍にはこの戦いは荷が重いように思えた。

 重量。大きさ。牙による破壊的なダメージ。

 それら全てが山岩龍の方が遥かに上回っているのがわかっているからだ。

 西の西龍と南の南龍が気になるけど、今はここでの戦いが戦況の勝機を左右するはずだと思った。


 雨の村雲の剣を抜こうとしたら、俺は嬉しくて涙が出そうになった。

 目前の山岩龍の身体に突然、綺麗に大穴が空いたからだ。


 多分、幻の剣。

 

 一点当突だ。


 舞うように山岩龍と戦っているのは、他でもない蓮姫さんだった。


 ここは蓮姫さんと東龍に任せていれば大丈夫だろう。

 俺は西の西龍がいる場所へと更に走った。


 城下町を走っている間に、俺はタケルになった。それほど西龍を危惧して急いでいたんだけど。すぐに誤算に気が付いたからだ。その誤算とは、東龍の場所だけじゃなかったことだ。ここ竜宮城の城下町のどこからでも、勝機を左右するほどの危機的な戦いが始まってしまっていたんだ。嫌な予感がするんだ……。東西南北と山岩龍以外にも、その遥か後方から異常なほど多くの龍が迫ってきているはずだ。


 俺はモリを手にした魚人たちで、ごった返す城下町の道を走りながら、西の砂浜へと向かった。今度は山岩龍の頭上に轟雷が降り注いでいた。


 西龍と共に戦っていたのは、地姫さんだ。


「さあ、タケル様! ここは大丈夫ですから! 急いでください! 元来た場所へと戻ればいいのです! 北は南龍と光姫さんが戦っています! じきに数多の龍が更に押し迫ってくるでしょう!」


 地姫さんの声が俺のところまで幾度もの轟雷の音と共に届いた。


「わかりました! すぐに行きます!」


 俺は四海竜王の中で最強の北龍と存在しないはずの神社では最強の巫女の鬼姫さんがいる。元来た場所の東へと更にスピードを上げて走り出した。


 未だに、城下町全体を埋め尽くす。誰の頭上にも見えるほどの。不気味な多くの龍の腹は、その巨体が徐々に地面へと降りだしていた。ふと、俺は思った。龍はこのまま城下町ごと押しつぶす気なのだろうかと……。 


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