第108話 旅 ⑤


   王都アリシア  王城――――



 ポール男爵とその取り巻きたちはここ、王都に来ていた。ある事情があり、王城に居る宮廷魔術師に会う為である。


王城の城門へ馬車を横づけして、ポール男爵たちは降り立ち、伸びをしながら口々に言う。


「やっと着きましたね、男爵様。」


「ああ、ようやく一歩を踏み出すのだ。」


「………男爵様、やはりお考え直し下さい。無謀ですよ、ダークガードと戦うなんて。」


 ポール男爵はクラッチの町の冒険者ギルドで、闇の崇拝者やダークガードに対抗する組織を旗揚げした。


 その名も、「カウンターズ」。シャイニングナイツの支援組織として発足したこの組織は、今はまだ人も物も全てにおいて足りない事だらけであった。


その第一歩として、まずは戦力を増強しようという事になり、戦闘奴隷を買おうという話になった。


 そして、その戦闘奴隷が最も強いのは、やはり常にモンスターとの戦いがあるオーダイン王国の奴隷である。あそこの北側に位置する魔の森近くの町ならば、期待以上の戦闘奴隷が居るだろうとの事で、オーダインまで奴隷を買い付けに行くのだった。


 しかし、悠長に構えてもいられないので、素早く事を運ぶ為、まずはアリシアの王城へと足を運んだ。


「確かに、宮廷魔術師ならば、転移魔法の「テレポート」を使えますが、いきなりお邪魔して大丈夫なんですか? もっとこう、色々根回しが必要なんじゃありませんかね。」


「おいガイア、慎重なのは結構だが、話が前に進む為にも、ここは宮廷魔術師殿を訪ねる場面だぞ。みんなもいいな、粗相のない様に行動しろよ。」


「「「 へい、解ってまさぁ。 」」」


 こうして、ポール男爵たちは王城へと上がった。男爵という身分は、こういう時は便利である。


貴族身分なので、城門の門衛に特に怪しまれないので、すんなりと通された。


 城の玄関前に控えている衛兵に目礼し、「宮廷魔術師殿に会いたい。」とだけ伝える。


 衛兵は直ぐに動き、ポール男爵たちはしばし待たされるが、直ぐに「お通り下さい」との返事。


そのまま城に上がり、宮廷魔術師の居る部屋まで案内される。


 部屋の前までやって来て、コンコンと扉をノックし、相手の返事を待つ。


「どうぞ。」と部屋の中へと迎えられる返事が返って来て、ポール男爵たちは部屋の扉を開ける。


「失礼します、宮廷魔術師殿、私は男爵家のポールと言う者だが、早速だが、頼みたい事があるのだ。」


ポール男爵はいきなり本題に入る。


老練な風貌をしたこの老紳士は、髭をしごきながら、「ふーむ」と客人達を見据えていた。


「いきなりやって来て、頼み事を迫られても、何の事やらさっぱりですな、ポール殿、まずは経緯をお話下さいませぬか?」


「おお、そうであったな、すまぬ、事を急いてしまった様だ。」


ポール男爵たちはこれまでの経緯を話し、「カウンターズ」を結成した事を伝えた。


「………と、いう訳で、我々は「カウンターズ」を結成し、旗揚げした次第なのだ。」


 この話を聞き、宮廷魔術師は「うむ」と一つ頷き、傍から見れば嬉しそうにした表情をしていた。  


「うむ、志は立派ですな、ダークガードに対抗しようという若者が現れた事も、実に頼もしい限りですわい。解りました、この老骨に出来る事ならば、喜んでお手伝いいたしましょうぞ。」


「おお! それは有難い、では、早速オーダイン王国まで転移魔法を我等に使って頂きたい。」


「解りました、この私めにお任せあれ。」


ポール男爵は、こうしてオーダイン王国までの移動手段を確保したのであった。


「しかし、一度オーダイン王国まで転移魔法を使えば、戻って来る時はどうされるおつもりですかな?」


「なーに、その時は向こうで馬車なり馬なりを見つけてアリシアに戻って来るだけだ。頼む、宮廷魔術師殿、テレポートの魔法を我等に使って下され。事を急ぎたいのだ!」


 宮廷魔術師はしばし考え、そして杖をコツン、と床に突き、魔法を発動させようと試みる。


「よろしい、覚悟は出来ておられるようですな、では、参りますぞ。」


 ポール男爵の目的は一つ、オーダイン王国まで行って、腕の立つ戦闘奴隷を買う事。まずはそこからである。


宮廷魔術師が魔力を練り上げ、部屋の床に魔法陣が浮かび上がる。


「ゲートよ、開け! 《テレポート》」


 魔法陣から、眩い光が放たれ、ポール男爵たちは光に包まれ、そして一瞬のうちにその姿をかき消した。


………そして、ポール男爵たちは降り立った。


オーダイン王国へと。


今正に、激戦となろうとしている王都の外に。


「………何だか物々しいですね? 男爵様。」


「そうだな? 一体何事であろうか?」


「これは、どうしたってんでしょう? まるで戦じゃないですか?」


 城壁の上には、弓兵がすらりと待機していて、門のところも、異様なまでに兵士たちが警戒していた。


「オルテガの言う通りかもしれんな、ここはもう、既に戦場なのかもしれん。」


こうして、ポール男爵たちはオーダイン王国の王都前に転移したのだった。



   オーダイン王国  国境付近――――



  やっとオーダイン王国の入り口まで着いた。後は国境警備隊に事情を話して、俺の自由な行動を許可して貰えばいいのだが。


「止まれ止まれ~~!! そこの馬車! 止まれ~~!」


何だ? こっちの乗合馬車を制止したぞ。あれはオーダインの兵士かな?


俺の他にも、お客さんがいるのだが、それでも構わず、オーダイン王国の兵士が馬車の前に躍り出た。


御者が何事かと、馬車を止めて、様子を聞こうと兵士に尋ねる。


「一体何事ですか? 我等はこれからオーダインの王都まで行こうとしておったのですが。」


「駄目だ、王都へは行くな。今は不味い。」


(何だって? 王都へは行くなだと? という事は、事前情報通り、ドニの言うところの、今まさに王都はモンスター共に襲われている状況、という事だな。転移装置で送り込まれた結果か。)


御者が詳しい事情を兵士から聞いた後、これからどうするかを客と相談するらしい。


「………という訳で、モンスター被害に遭っている状況らしいのです。このまま王都まで行くのは、私としては反対なのです。お客様の命が大事ですので、このまま引き返す事も致し方なしと考えますが、皆さん。それでよろしいでしょうか?」


この意見に、殆どの人は諦め、アリシアまで引き返そうという判断になった。


だが、俺は更に先へと向かいたいので、他の客とはここで別行動をとる事になった。


「お客さん、くれぐれもお気を付けて下さいね。危ないと思ったら直ぐに引き返してくださいよ、いいですね。」


「はい、解っています。ここまで連れて来て貰って、どうもありがとう。」


こうして、俺はオーダイン王国へと入った。待っていてくれフィラ、必ず見つける。


見つけ出してアリシアへと帰るぞ。フィラ。


しかし、ここにフィラが居るとも限らない訳だし、まずは情報集めからした方がいいよな。


街道沿いを北東方面へと向かい、俺は進み出した。


さてと、ここからは本当に一人だ。慎重に行動しよう。


 足元を掬われない様にしなくては、慢心は良くない。いくら自分がエーススキルを手にしたからといってもだ。


目指すはオーダイン王国の王都、そこへ行けば、何かしらの情報を入手できるだろう。


水筒の水で喉を潤しながら、俺は街道を道なり駆け続けた。










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