第88話 男爵との勝負 ①


 俺達は女神教会での転職の儀からそのまま、町の中を歩き、冒険者ギルドへと足を運んだ。


「さあ! 祝杯よジャズ! 今日は飲むわよ! なんたって一党パーティーの中からクラスアップしたメンバーが出たんだからね、お祝いよお祝い!」


「それはいいけどさ、ガーネット、あまり飲み過ぎない様にしようね。明日もあるんだから。」


「ご主人様、私もご一緒してよろしいでしょうか?」


「ああ、勿論だよ、フィラも飲もう。」


こうして、冒険者ギルドへと到着し、併設している酒場へと向かい、席に着く。


ガーネットが女給のおねえさんに大声で注文した。


「すいませーん! 蜂蜜酒ミード3つ下さーい!」


「はーい、ただいま~。」


 流石にこの時間帯は混む様だ、続々と仕事の依頼から帰って来た冒険者達が、受付カウンターへ殺到している。


 ウエイトレスのおねえさんも忙しそうにしていて、こちらの注文を聞く手間で、他の冒険者の注文も聞いていた。


 しかし、忙しさに慣れているのか、ウエイトレスの人はテキパキと仕事をこなしていた。


 女給も四人くらいで酒場を回しているみたいで、厨房ではおそらく戦場になっている事だろう。


早速、俺達が注文したミードが運ばれて来た。


「銅貨3枚になります。」


俺が懐から財布を取り出そうとしたが、ガーネットが手の平を向けて制止した。


「待ってジャズ、ここは私が払うわよ。」


そう言いながら、ガーネットが鞄の中から財布を取り出し、銅貨3枚を女給に渡した。


「まいどあり。」


銅貨を受け取ったウエイトレスは、そのまま次のお客さんの所へと向かっていった。


「いいのかい? 奢ってくれるのは嬉しいけど、ガーネットもそんなに稼いでいる訳でもないんだろ?」


聞くと、ガーネットはハニカミながらこう言った。


「だって、クラスアップよクラスアップ。私初めて見たわ、あんな感じに転職の儀って行われるのね、まだ興奮してるわ。ドキドキしてる。あー、私も早くクラスアップしたい!」


ここで更にフィラも会話に加わる。


「流石ご主人様です。私をお買いになって直ぐにクラスアップとは、中々出来る事ではありません。改めて、クラスアップおめでとうございます、ご主人様。」


「ああ、ありがとう。ガーネット、ゴチになります。」


「ガーネット様、ありがとうございます。ご馳走になります。」


「いいっていいって。」


 何だかこそばゆい、しかし、女神様に認められたという事で、クラスアップ出来た訳なんだよな。


よかったよかった。


それに、あの男爵との勝負事もこれで何とかなるな。


 まあ、向こうは向こうで何かしらの方法でクラスアップしてくるだろうけど、その場合、両者引き分けという事になるかもしれんな。


まあ、その時になってからだ。


 さて、酒を飲もう。ガーネットとフィラもコップを持ち、乾杯を待っている。俺もミードを持ち、乾杯に備える。


「それじゃあいくわよ! クラスアップあめでとう! カンパーイ!」


「「 カンパーイ! 」」


三人でテーブルを囲み、酒の入ったコップを打ち鳴らし、乾杯をして一口飲む。


うん、いい酒だ。やっぱ酒ってのはいい酒を飲まないとだな。祝い事の酒はまた格別だ。


 酒の席なので、あまり細かい事は言いたくないが、そもそも男爵との事は、フィラが勝手に男爵の売り言葉に買い言葉な感じで対応しちゃったから、こんな勝負事になったんだよな。


後でそれとなくフィラを叱っておくか。やんわりとだけど。


兎に角、今は祝杯だ。飲もう。


こうして、三人で酒と夕食を楽しみ、楽しい時間は過ぎて行った。



 翌朝、いよいよ男爵との勝負の期日だ。フィラと共に冒険者ギルドへと向かう。


「ご主人様、私はご主人様を信じています。きっと男爵に勝てます。」


「ああ、そうだといいが、どうせ向こうも何らかの方法でクラスアップしてる事だろう、多分、引き分けになると思うけどね。」


 冒険者ギルドへと着いて、先ずはお茶を二つ注文する。俺とフィラの分だ。


 ついでに朝飯のサンドイッチを注文し、朝食を済ませる。約束の時間は今日の昼だ、それまでここで待機だな。


サンドイッチはパンに葉野菜やチーズ、ベーコンなどを挟んだシンプルなものだ。


だがこれが中々美味かったりする、胡椒が効いていてピリッとした味がなんとも堪らない。


あっと言う間に平らげる。


 お茶を啜り、まったりと時間を過ごす。フィラも目を瞑り、大人しく待機している、落ち着いている様子だ。


只、時間まで待っているのも退屈なので、フィラと会話をしながら時間を潰す。


そこへ、ガーネットもやって来て、会話に加わる。


「いよいよね、あの男爵との勝負も、ねえジャズ、勝てるわよね?」


「さあ? どうだろうね、おそらく男爵も何らかの手を使って、クラスアップしていると思うし、まさかあんな啖呵を切ったんだから、用意していない、何てことは無いと思うが、さてな、どうなるやらだ。」


「他人事みたいに言ってるけど、ジャズ、貴方一応クラスアップしたんだから、男爵との勝負事にも対処出来ていると思うわよ。後は男爵次第ってところね。」


 そうして、暫くの間待っていると、件の男爵が現れた、取り巻き連中も一緒だ。


「ふっふっふ、逃げずにちゃんと待っているとは、中々骨があるじゃないか、なあ、お前等!」


「「「 はっはっは、どうせ男爵様に手も足も出ずに尻尾を巻いて逃げ出す算段でも考えていたのでしょう。 」」」


この騒ぎを聞きつけ、周りの冒険者達がこちらに注目しだした。


「何だ何だ? 揉め事か?」


「あれは確か、ガーネットの一党パーティーの奴じゃなかったか?」


「何? あの評判の悪い男爵と揉めてんの?」


「面白そうだ! ちょっと行ってみようぜ!」


何だか知らないうちにこちらにも野次馬が集まり始めた。何だか大事になってきたな。


ここで男爵から、こう提案があった。


「さて、勝負の方法だが、俺の配下に「鑑定」のスキル持ちが居る。そいつに鑑定させて貰えば一発で解る。いいな、勝った方が奴隷を自分のモノに出来る。約束は覚えているな。」


なるほど、鑑定のスキル持ちか、それなら不正が出来ないな。


「ああ、解っている、どちらがクラスアップしているかの勝負だったな。」


「フン、随分と余裕だな、まさかとは思うが、お前もクラスアップした、なんて言うつもりじゃないだろうな?」


(はい、実はクラスアップしました。)


 男爵は余裕 綽綽しゃくしゃくで俺の前に立ち、ついでにフィラをいやらしい目つきで見ている。フィラはやらんぞ。


「それでは早速、鑑定を始めます、男爵様、そこの男、準備は宜しいか?」


鑑定スキルを持っている奴は、いかにもなローブに身を纏い、杖を持っている。


 ぱっと見、魔法使いっぽい感じだな。おっさんって感じだ、まあ、俺もおっさんなんだが。


「………………。」


 鑑定のおっさんは無言になり、こちらと男爵を見ている。今正に鑑定しているところなのかもしれないな。


そして、鑑定士が声を発した。


「むっ! 出ました、鑑定の結果が出ました。」


「おお! そうか、で、俺様はどうなっている?」


「はい、男爵様は間違いなくクラスアップしております、しかも上級クラスのバトルマスターへとクラスアップしております。」


「何!? そうか! でかした! はっはっは、どうだネモ、俺はお前さえも凌駕してしまったんだぞ! はっはっはっは。」


そんなアホな、一日で初級クラスから一気に上級クラスへクラスアップ出来るわけねえだろうが。何か裏があるな、さてはこいつ等、グルか?


「して、鑑定士! この矮小な小者のクラスはどうなっておる!」


お、今度は俺の番か、さて、どうなって来る事やらだな。


「………出ました、結果が出ました。そこの男はまったくの雑魚ですね、職業は平民でクラスは戦士です。とてもクラスアップしたなどとは思いません。この勝負、男爵様の勝ちでございます。」


………………はい? 


何言ってんの? この人。


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