第48話 シスターサナリー救出任務 ⑦



 突然の出来事に、皆は少し戸惑っている様だ。


山賊の頭目がいきなり黒い炎に巻かれ、そのまま焼失した。


こいつはダークブレイズの魔法だ、しかも暗黒魔法の分類だ、使い手は限られている。


おそらくマグマ辺りだろう。


このままこうしていても始まらん、隊長に指示を仰ぐ。


「隊長! 指示を!」


「………。」


「隊長! しっかりして! 指示を!」


駄目だ、サキ少尉は完全に思考が停止してしまっている。ナナ少尉も同様の様だ。


仕方ない、俺が指示を出してみる。


「総員! 円陣形! 全周囲警戒! 急げ!」


俺の指示に皆が対応した。サキ少尉もナナ少尉も俺の指示に従って行動し始めた。


しばらくの間様子を見ていたが、特に何も起こらなかった。近くに敵はいないという事だろうか?


(ふむ、特に何も無いな。敵の気配もしない、もうここには居ないのかな。)


と、ここでサキ少尉が復活した。


「ジャズ上等兵、先程は助かった。………よーし! 索敵! どうなっている?」


「こちらニール! 敵影無し!」


「リップ! 敵の姿は見当たりません!」


「ジャズ! 敵影無し! 静かなものです。」


「サキ、何だかおかしくってよ? 敵の姿が見えない様でしてよ。」


「………メリー伍長、私達以外の何かの臭いはするか?」


「………いえ、しないです。私達以外の臭いはしませんです。」


臭いがしない? メリー伍長の臭いの嗅ぎ分けでも悟らせない何者かなのか? 


それとも既にここには居ないかもしれんな。いや、もしかしたら………。


しばらく様子を窺っていたが、特に何も無かった。


これはしてやられたな。敵はここにはもう居ない。


「隊長、これは俺の私見ですが。」


「何だ? ジャズ上等兵、何か気付いたのなら言ってくれ。」


「はい、おそらくですけど、これは闇の崇拝者のマグマの仕業ではないかと思われます。」


俺の意見に、皆がこちらを注目する、サキ隊長が俺の話の先を促す。


「根拠は?」


「はい、マーテル殿が必死の思いで退けた相手ですからね、このまま何もせずにテレポートリングで離脱したなどと考えにくいですね、何かの置き土産でも仕掛けた可能性があると思います。例えば、時限式の魔法、とか………。」


「うーむ、そうかもしれんな。ナナ、どう思う?」


サキ少尉はナナ少尉にも意見を求めた。


「うーん、そうですわねえ、ジャズ上等兵の考えも一理あると思いますわ。そう言えば士官学校の時、講師から敵があっさりと降伏した場合、まず遅延魔法の類を警戒せよ。と、仰っていましたわね。」


「ああ、そういやあそんな事もあったな。確かに、ジャズ上等兵の言う様に、時限式の魔法が仕掛けられた可能性はあるな。」


うーむ、だとしたら、やはり闇の崇拝者のマグマという奴は侮れんな。


高位の魔法使いにして、その性格は残忍にして非情。


平気で人を使い捨ての捨て駒にするとか、恐ろしい相手ではあるな。


それにしても、暗黒魔法を使うなんて、正気の沙汰じゃないな。


暗黒魔法というのは使用した者とされた者の両者に影響を及ぼす。


所謂「使ってはいけない魔法」として、ゲーム「ラングサーガ」でも登場した。


使い勝手の悪い魔法だった筈だ。


今回、それを使用したという事は、マグマの奴、相当追い詰められていた可能性があったな。


流石はシャイニングナイツのマーテルさんといったところか。


ここで、ニールからこんな質問をされた。


「なあジャズ、俺前々から思っていた事なんだがな、お前ってさ、時々スゲーって思う事があるんだよな。なあジャズ、お前ってさ、一体何者なんだよ? 俺達戦友だろ。正直に答えてくれよ。なあ。」


何だよ、ニールの奴、こんな時に。


「あ、それ私も聞きたいと思ってた。ジャズってさ、偶に凄く強い時があるわよね。あれって一体何?」


おいおい、リップまで、一体どうした?


「私も聞きたいな、ジャズ上等兵、正直に答えてくれ、貴様は一体何者なのだ?」


え? サキ少尉まで、おいおい、どうなってんの?


「そういえばこの前、ジャズさんがゴブリンと戦っていた時があったです。その時のゴブリンは尋常じゃなかった強さがあったです。それをジャズさんは倒していたです。あれは一体?」


ええ? メリー伍長まで? どうしよう、もしかして俺、疑われているっぽい?


「聞かせなさいな、ジャズ上等兵、わたくし達に何かやましい事が無いと証明してごらんなさい。」


ま、まさかナナ少尉まで俺を疑うのか? 


いや、ナナ少尉は初めから男を信用していない感じだったけど。


え? ここへ来て俺が疑われているの? ちょっと待ってくれ。


俺はただ、自分がするべきだと思った事をやってるだけなんだ。


「なあジャズ、聞かせろよ。お前一体何者なんだよ? 俺にも言えない事なのか?」


「い、いや、俺は………。」


どうしよう、いきなり何者だって言われてもな、どう答えるべきか。


俺は只の兵士だよ。今更何を言えってんだよ。


「ジャズ上等兵、我々にも答えられないのか? これまで共にやってきた仲ではないか。正直に答えてもらうぞ。」


どうしよう、参ったな。間違いなく俺は今、疑われている。さて、どうしたものか。


「ジャズさん、貴方はどういった方なのですか? 疑いたくはありませんが、もし貴方が敵だった場合、私は貴方と戦わねばなりません。ですからどうか、正直に答えて下さい。」


「マーテル殿、………。」


うーむ、まさか日本から転生してきました。などと言ったところで解る筈ないよな。


信用して貰えないだろうし、ええーい。ここは一つ、素性を明かすか。


本当はこのまま黙っていようと思っていたんだが、そうも言ってられなくなってきた感じだ。



「………。」


俺は黙って右手の人差し指に嵌まっている指輪を、ゆっくりと皆に見せた。


「何だそれ? 指輪? おいジャズ、何だよそれ。」


「私にくれた指輪でもないわね、その指輪がどうかしたの?」


「………こ、これは!? まさか!?」


この中でこの指輪の事を知っている人は、やはりシャイニングナイツのマーテルさんだけだった。


「マーテル殿、これが何か知っているのですか?」


サキ少尉がマーテルさんに聞いた。


マーテルさんはちょっと信じられない、と言った表情をして、恐る恐る俺の指輪を見て、そして確信した様子だった。


「………ジャズさん、貴方のその指に嵌まっている指輪は、ブレイブリングですね。」


「「「「 ブレイブリング? 」」」」


皆が一斉に疑問に思い、揃った声でマーテルさんに質問した。


「ブレイブリング、それは、義勇軍の証。ジャズさん、貴方は義勇軍のメンバーだったのですか?」


「………はい、仰る通り、俺は義勇軍のメンバーです。皆には黙っていて申し訳ないと思っていたけど、別に隠すつもりもなかったし、言いふらすものでもなかったし。このまま黙っていようと思っていてね。黙ってて悪かったな。」


「い、いや、いいんだジャズ。………はは、そうか、お前義勇軍だったのか。道理で強い訳だよ、ホント、お前って奴は。」


「おいニール、だからって遠慮する事はないぞ。いつも通りの接し方で構わんからな。」


「何だよ偉そうに、義勇軍っていってもあれだろ、ここの所、別に特段活躍している訳でもないんだろ。調子に乗るなよジャズ。」


「何だと!? 義勇軍ってそんなに有名でもないって事かよ。皆びっくりしてたじゃないか、何だよ。」


「そりゃびっくりはしたわよ、けど目の前にシャイニングナイツの本物が居るし、取りたてて騒ぐほどの事でもないなって、ちょっと思っただけだし。」


そ、そうか、義勇軍ってそんな有名でもないんだな。


まあ別に、チヤホヤされたかった訳じゃないけどさ。


もっとこう、うわっすっげーかっこいい。


みたいな感じをちょっとぐらいは期待してたけど、まあいいや。別に。


「さて、ジャズ上等兵の疑いも晴れた事だし、マーテル殿、早速修道院へ赴き、王女サナリー様をお迎えしに参りましょうか。」


「ええ、そうですね、行きましょう。」


こうして、俺の疑いは無事晴れた。


折角義勇軍だって事を話したのに、何だか思ってたのとちょっと違った。


まあいいや。さて、俺も行こう。





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