第46話 シスターサナリー救出任務 ⑤



 サキ小隊とナナ小隊の皆は、今まさに動けない状態だ。


唯一上空に飛んでいたペガサスナイトのマーテルさんだけが、マグマの放った魔法「アースクエイク」の影響を受けずに済んでいた。


地震大国日本で育った俺でも、やはり地震は怖いし恐ろしいものだ。


地面が揺れるのは、それは恐ろしいものなのだ。


「皆無事か!?」


サキ隊長が気丈にも皆を気遣って、声を掛け合う。


自分も怖い筈なのに、勇気があるな、隊長。


「自分は大丈夫であります!」


俺は元気に声を上げたが、皆はそれどころでは無い感じだ、この場で立っているのは俺だけだった。


サキ隊長も皆と同様に、屈み込んだ体制を維持して中々立ち上がれない状態らしい。


俺だってまだ地面が揺れている感覚が抜けていない。


「皆さん、私が闇の崇拝者に対峙します! 皆さんは下がっていて下さい!」


マーテルさんはマジックアイテムのサンダーソードを構えながら、俺達に声を掛ける。


気持ちは有難いが、相手の魔法使いはかなり手強いと考えた方がいいだろう。


ここは俺も戦いに参加した方が、勝率は少しぐらいは上がるかもしれない。


しかしながら、俺も足が震えている、情けない。


こんな時の為にスキルを色々習得してきたってのに、体が言う事を聞かない。


ここは黙ってマーテルさんに任せた方がいいのかもしれない。


山賊達はマグマの放った炎魔法「ファイアーストーム」の餌食になり、ほぼ全滅した。


生き残っているのは山賊の頭目だけだった。こいつもしぶといな。


まあ、ロープで縛りあげているから身動き出来ないだろう、こいつはこのままほかっておこう。


それにしてもマグマの奴、この山賊達は仲間じゃなかったのか? 


山賊ごと俺達を範囲魔法で攻撃してきた所を鑑みるに、初めから捨て駒にするつもりだったと見るべきか。


闇の崇拝者ってのは、恐ろしい考えの者なんだな。油断ならん。


 さて、マーテルさん以外、戦力にならないが、先程からマーテルさんもマグマも睨み合って様子を窺っている。


マーテルさんはペガサスに跨って、空から距離を測っている感じだ。


一方の闇の崇拝者のマグマは、何やら杖を構え、待機している。動きは無い。


先に動いたのはマーテルさんだ、サンダーソードを天高く掲げた。


「唸れ! サンダーソード!」


マーテルさんの言葉と同じタイミングで、サンダーソードの切っ先から稲妻がバチバチと帯電した。


スパークを放ち、一瞬の間に光の速度で、サンダーソードの切っ先から稲妻が勢いよく放電された。


マグマ目掛けて放たれた。サンダーソードの遠距離攻撃だ。


雷属性の魔法攻撃と同様の威力がある、強力な攻撃手段の一つだ。


そのタイミングと同じ様に合わせる感じで、マグマは杖をマーテルさんの方へ向け、無詠唱で魔法を放った。


(無詠唱のスキルまであるのか! 間違いなく強敵だ。)


「風よ! 刃となれ! 《ウインドカッター》」


先に攻撃が当たったのはマグマの方だ。


サンダーソードの切っ先からの稲妻攻撃がマグマに当たり、マグマは「ぐっ!?」と言う声を漏らした。


しかし、マグマの放った風魔法のウインドカッターもマーテルさんにヒットした。


「うぐっ!? やりますね、確かに飛兵の私に風属性魔法は効果的な攻撃手段でしょう、しかし、私はシャイニングナイツ。風属性に対する備えぐらいはあります。」


そう言って、マーテルさんは腕輪を見せる様に左腕を向けた。


「なるほど、風の護符か。確かにそれでは我が魔法も威力が思いの他、届かない訳ではあるな。」


確かに、風属性の攻撃に対して耐性効果がある「風の護符」を身に着けていれば、風属性攻撃をある程度防げるのだが………。


「だが、我の魔法耐性も侮ってもらっては困るな、我は魔法使いだ。魔法に対して色々と耐性が備わっているのだよ。つまり、貴様の攻撃も殆ど効果を表さないのだよ。」


マグマの言う通りだ、魔法使いってのは防御力が低い分、魔法耐性が高い。


対して飛兵であるマーテルさんは、風属性攻撃は弱点ではある。


いくら風の護符があるとしても、ダメージは高い筈だ。


ぱっと見、お互い互角の様に見えるが、このまま遠距離戦を続けては、いずれマーテルさんの方が押される。


「遠距離戦闘はほぼ互角の戦いの様ですね、このままではお互い決定打に欠けます。いいでしょう、地面に降りて勝負です!」


マーテルさんはそう言いながら、ペガサスから飛び降り、地面に着地した。


ここからは陸戦になると踏んだ訳か。


いや、違うな。


マーテルさんはこのままではいずれ疲弊して、こっちが先に倒れると読んだ訳か。


マーテルさんは戦いの一手二手先を読んで行動している。俺も見習わなくては。


 戦いは地上戦にもつれ込んだ。


先に動いたのはマグマだ、杖をマーテルさんの方へ向け、これまた無詠唱で魔法を放つ。


「氷の礫よ! 撃て! 《アイスバレット》」


マグマの杖から氷の塊が幾つも現れて、勢いよくマーテルさんの方へ飛来していった。


マーテルさんはその魔法攻撃を避けながらも少し当たり、それでも尚マグマに肉迫した。


サンダーソードを水平に構えて接近し、マグマに水平切りを叩き込む。


「うぐっ!? おのれ! やりおったな!」


よし、かなりのダメージを与えた様だぞ。


マーテルさんもダメージを負ったが、それ以上にマグマにダメージを与えた。


それにしても二人共まだ倒れない。


マーテルさんも強いが、マグマの奴も相当強いんじゃないのか? 油断ならんな。


地上戦ではマーテルさんの方に分がある。


しかし、マグマも杖を振りかぶって、マーテルさん目掛けてスイングした。


マグマの攻撃は当たり、マーテルさんが少し後ろへと下がった。


「はあ、はあ、まさか、魔法使いなのに接近戦もできるなんて思いませんでした。中々やりますね。」


なんだと!? マグマの奴、肉体強化の魔法を事前に自分に掛けておいたのか。


侮れんな。


息を切らしながらも、マーテルさんは剣を構えて様子を窺っている。


対してマグマの方は幾分か余裕のある態度だ。こいつ、何かあるのか?


「このままではこちらが不利ですね、いいでしょう、切り札を切りましょう。」


そう言って、マーテルさんは剣に手を添えて、何やら呪文を唱えている、何をする気なんだ。


「聖なる光よ! 我が剣に宿れ! 《ディバインソード》」


な、なんと! ここへ来てそんな隠し玉があるとは。


ディバインソードとは剣芯に光属性の刃を発生させて、攻撃範囲を広くする聖属性付与魔法だ。


剣の刀身が延長されて、中距離からの攻撃が可能になる。


おまけに聖属性の為、闇の崇拝者には効果抜群の筈だ。


「ほう、ディバインソードか。確かにそれでは我が身も危うい。いいだろう、相手になってやる。」


マグマは身構え、マーテルさんはディバインソードを水平切りの構えで距離を測っている。


マーテルさんは接近し、しかし視線はマグマから目を離さない。


勝負は一瞬で決まる。気を抜けない戦いだ。これが強者同士の戦い。


俺にはついていけない、次元が違う。もうお互いにヒットポイントは残り僅かな筈だ。


これで勝負は決する。


先に動いたのはマグマの方だ、杖の先から炎の矢が放たれ、それが連続して飛んでいく。


マーテルさんはそれを気にもしていない様子で、ディバインソードを横薙ぎに振るい、光の刃がマグマに当たる距離で攻撃した。


ディバインソードの光の刃は、マグマの放った炎の矢を切り払い、そのままの勢いで振り抜き、マグマに直撃した。


よし! 決まった。マーテルさんの勝ちだ。


しかし、その瞬間マグマの体からパリンと何かが割れる音が聞こえ、マグマは平然とその場に立っていた。


マジか!? あの攻撃をまともに喰らって、ダメージ無しとはどういう事だ!?


「ふむ、身代わりの護符が砕けたか。まあいい、この勝負は貴様の勝ちでいいだろう。精々先の無い国王に褒めて貰え。ではさらばだ。」


そう言いながら、マグマは指に嵌まっている指輪を空高く掲げた。


あ! あれはテレポートリングか! マグマの奴、この場を逃げるつもりか。


俺はまだ体が動かない状態だ。歯がゆい、何も出来なかった。


マグマはテレポートリングを使い、忽然と姿を消し、辺りは静けさだけが支配していた。


(逃げられた、というより、見逃してもらった、という方が正しいな。こりゃあ。)


恐ろしい相手だった。俺達は何も出来なかった。


マーテルさんがいなければ、間違いなく小隊は全滅していた。


今回はマーテルさんのお陰で助かった様なものだ。


こっちの戦果としては、マグマを退かせ、山賊の頭目を捕らえた、といったところか。


やれやれ、どうにかなったか。取り敢えず皆が無事でなによりだな。


さてと、王女サナリー様をお迎えする為に、修道院まで行きますか。


おっと、その前に少々休憩しなくては。身が持たん。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る