第34話 始動、サキ小隊 ①



 突然だが、衛兵と兵士は違う。


衛兵とは、その辺り一帯を治める領主の私兵、領軍ともよばれる。


ぶっちゃけ、警察みたいなものだ。


その仕事は多枝に渡り、その町や都市の内側を守り、町中の治安を維持したり悪人を捕まえたり、取り締まったりする。


また、外から王侯貴族のお客さんがやって来る場合もある為、その家の家紋や名前、顔などを覚える必要がある為、誰でも務まると言う訳でもない。


はっきり言って、エリートである。


また、戦闘センスも持ち合わせていないと門衛などの仕事も務まらない。


そんな訳で、衛兵とはエリートなのである。


対して、兵士とはその国の兵士である。


国の外からの攻撃に備え、国内に置いても町や都市の外側を守る仕事が主な任務である。


例えば街道を警備する為、モンスターや賊などの排除をしたりなど。


国内における危険地帯の偵察だったり、ぶっちゃけその国の兵士とは、引いては国王陛下の兵という事になる。


つまり、アリシア王国軍というのは、国内の治安維持や危険の排除など。


戦争などが始まった場合の戦力としての仕事など、その仕事は体力さえあれば誰でも務める事が出来る。


だが、今のアリシア王国はどことも戦争をしていない。


兵士の仕事は衛兵の仕事に似たような事をしていたりする。


ぶっちゃけ、やる事があまり無い。


精々街道警備任務とか、モンスター退治と称して実戦訓練とか、まあ、平和である。


 クラッチ駐屯地の兵舎で目を覚ました俺は、顔を洗い、兵舎の壁に掛けてある各部隊の予定表に書かれた内容を確認する。


「ふう、今日のブラボー中隊は待機任務か。ん? いや、サキ小隊には別任務があるみたいだな、何だろうか?」


俺は同じ兵舎で寝ている、サキ小隊員のニールを起こしに向かう。


ニールのベッドに着いて、体をゆさゆさと揺すりながら声を掛ける。


「おーい、ニール、起きろー、朝だぞー。」


「………ううーん、あと五分………。」


「あ! 裸のねーちゃんが!」


「何!? どこだ!」


ニールは起きた。フッ、ちょろいな。


「ニール、起きたか? 今日はサキ小隊に任務があるみたいだぞ。食堂へ行って朝飯を食ったらブリーフィングルームに集合だ、急げよ。」


「なあ、裸の女は?」


(いる訳ねーだろ! んなもん。居たら俺が真っ先に見に行くよ!)


「アホな事言ってないでさっさと行くぞ。」


 食堂へ来て、朝食を受け取り、テーブルへ移動して席に着く。


今日の朝ご飯はパンに野菜スープ、サラダにベーコンだ。


健全な肉体は健全な精神から、そして健全な肉体は食生活のバランスから。


という事で、野菜料理がメインになっている。


俺は野菜は嫌いではないので、もしゃもしゃと食べる。


うん、新鮮な野菜だ。きっと農家の人が一生懸命育てた野菜に違いない。


おいしく頂こう。


「なあジャズ、サキ小隊だけに任務だなんて、一体何事かな?」


「さあな、話を聞けば解るんじゃないのか。取り合えず飯を食っちゃおうぜ。」


うむ、今日の朝ご飯も美味しかった。両手を合せてご馳走様をする。


ニールも丁度食べ終わったみたいだ。


「ふう~、食った食った、ご馳走さん。ジャズ、お茶を飲んでから行こうぜ。」


「ああ、そうだな。」


食後のお茶を啜り、しばらくまったりと過ごす。


しかし、早くブリーフィングルームに行かないとならないので、きりのいい所で食堂を後にする。


 クラッチ駐屯地内にある一番大きな建物の中に、ブリーフィングルームがある。


俺とニールは、兎に角そこへ向け移動した。


 部屋に到着すると、既にサキ少尉が待っていた。


「遅いぞ! 何してた?」


「すいません隊長、朝食を取っていました。」


「直ぐに席に着け。これから任務内容を説明する。」


そう言って、サキ少尉は黒板の前に移動し、俺達の方に向いて説明しだした。


俺達はすぐさま席に着く。


「いいか、サキ小隊の初任務だ。気合入れろよ! いいか!」


「「 は! 」」


(サキ隊長は気合が入っているなあ、この町へ赴任してきてまだ間もないっていうのに。何をそんなに頑張っているんだろうか?)


サキ少尉は黒板に書き出した。そこには「クズル男爵」と書かれていた。


「よーし野郎共、早速任務だ。この町に住んでいるクズル男爵という男が、何やら怪しい動きをしているらしい。男爵の屋敷の部屋に、夜な夜な妙な明かりが漏れ出していて、更におかしな猫なで声まで聞こえてくるそうだ。近所の貴族が眠れないそうだから、ちょっと調べに行くぞ。わかったな。」


ふーむ、貴族の家へ赴いて、家宅捜索か。それって軍の仕事なのかな?


「隊長、質問があります。」


俺は挙手をする。


「何だ? ジャズ上等兵。」


「その任務というのは町の中の事ですよね、そういうのは衛兵の仕事の領分なのではないのですか?」


俺の質問に、サキ少尉は腕を組み、片眉を下げて答えた。


「私もそうコジマ司令に進言したのだが、どうやら政治絡みらしい。クズル男爵のバックには、この辺り一帯を治めている領主、サスライガー伯爵との太いパイプがあるらしいんだ。これがどういう意味かわかるな。」


(なるほど、領主とパイプがあるという事は、この町の衛兵は動かせない。もしくは迂闊に動けないのかもな。この町にも少なからず影響があるという事か。)


「え? え? どういう事でありますか?」


「ニール、つまりな、衛兵ってのは領主の私兵だろ、その領主の伯爵と太いパイプがある男爵には、手が出せないという事だよ。」


「な、なるほど。」


「ほ~う、ジャズ、貴様いい勘をしているな。つまりはそういう事だ。なので衛兵は動かせない。よって我等、軍の出番という訳だ。軍は言ってみれば国王陛下の兵士、誰も王様には逆らえんと言う訳だ。」


「それで隊長、我々はどのように動きますか?」


「うむ、まず男爵の屋敷に乗り込む。そこで色々と調べて何か証拠となるような物を捜し出して、男爵を問い詰める。問題があるようならしょっ引く。衛兵は男爵を捕まえられないが、我々は動ける。わかったな。」


「「 はい! 」」


さて、早速任務を貰った訳だが、貴族相手のごたごたした案件というのがどうにも落ち着かない。


夜な夜な男爵が何かやっているという事らしいが、さて、何が起きるやら。


「よーし! 早速準備して行動開始だ。装備課へ行って武器を受け取ってこい。その後はグラウンドに集合。以上。各自行動に移れ。」


こうして、俺達サキ小隊の初任務が始まった。まずは装備課へ行こう。


「なあジャズ、町の中での任務なのに、武器なんて必要なのかな?」


「必要無いかもな、だけど不測の事態ってのはいつ起きるか解ったもんじゃないからな。備えるだけだよ。大した事にはならんさ。」


「ふーん、そうか。ならいいな、それじゃあ早速装備課へ行こうぜ。」


 こうして装備課へ到着した俺達は、そこで装備課のおやっさんに武器を申請した。


「おやっさん、ショートソードを頼めますか。」


「あ、俺バスタードソードね。」


「ああ、ちょっと待ってな。ジャズはショートソードにニールはバスタードソードな。なんだお前等、任務でもあるのか?」


「ああ、ちょっとね、必要無いかもしれないけど、一応ね。」


「そうか………、ほらよ、ジャズ、ショートソードだ。受け取れ。ニールもバスタードソードだな、お前相変わらず高威力で扱いの難しい武器を好むよな。ちゃんと扱えるのか?」


「大丈夫だよ。使っている内に何とかなるって。」


「ニール、お前なぁ、只でさえ命中率が低いのに、そんな大物持ち出してちゃんと出来るのか?」


「なんだよジャズ、俺はちゃんと扱えているだろ。命中率が悪いのは武器の精度の問題だって。」


(あ! ばか! おやっさんの前でなんて事言うんだコイツ。)


「ほ~~う、ニール、貴様自分の腕の悪さを武器のせいにしているのか? だったら次からは先輩達が使い込んできた武器を渡してやるからな。良かったなニール。信頼性のある武器を見繕ってやるからな。」


おやっさんの顔は引きつっていた。怖い怖い、ニールめ、余計な事を。


こうして装備課から武器を受け取り、急ぎグラウンドへと集合する俺達。


そこには既に、サキ隊長が待っていた。


サキ少尉は腕を組み、指をトントンとリズムを取りながら、しかし顔は怒りモードだった。


やれやれ、また怒られるなこりゃあ。


「おそーーい!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る