第32話 二人の女性士官



 休暇も終わり、今日からは通常任務の仕事が待っている。


朝飯を食堂で頂き、食後の休憩中、後輩訓練兵から敬礼をされた。


あ、そうか、俺もう上等兵なんだよな。俺も敬礼で返して後輩が離れていく。何だか慣れないなぁ。


ちなみにこのアリシア王国での軍の階級は、一番下から順番に二等兵、上等兵、伍長、軍曹、曹長、少尉、中尉、大尉、という順番に偉くなる。


一般兵から入隊すると大尉までしか昇進できないのだが。


士官学校を出るといきなり少尉待遇から始まる。


そこから昇進していき、大尉の上は少佐、中佐、大佐、となり、その上が少将、中将、大将、となる。


ここまでくると、将軍と呼ばれる任に就く事ができるという事だな。


そういやあ、今日王都から赴任してくるっていう女性仕官は、二人共士官学校を出た少尉さんらしい。


キエラ中尉が仰っていた。優秀な方達らしい、失礼の無い様にしなくては。


 しばらくして、第三会議室へと向かった俺は、そこで休暇明けのニール達と合流した。


三人共よく休めたみたいで、顔が明るかった。


俺達四人は軍服に着替えているので、傍から見たらもう一端の軍人さんだ。


これから兵士としてやっていく事になる。


「ようジャズ、元気だったか?」


「ニールこそ、故郷ではどうだったんだ?」


「うふふ、聞いてよジャズ、ニールったら親に「嫁さんはいつ連れてくるんだい」って言われ続けてたらしいわよ。」


「そう言うリップだって、村長の息子とお見合いしてたじゃねえかよ。」


「あたしの場合、見合いしたってだけで、別に結婚は考えて無いわよ。まだまだ一人の方が落ち着くしね。だから村長の息子にはちゃんと断ったわよ。」


「あ~あ、息子可哀想、あの村じゃもう若い女って、もうリップしかいないんだよな。何で断ったんだ?」


「あのねえ、誰が好き好んで油ギッシュな男と結婚したがると思ってんの? 嫌よあたしは。」


何だか賑やかになってきたな。こいつ等はいつもこんな感じなんだよな。


もしかして二人共、仲がいいのかな?


「ルキノさんはどうでしたか? この町に家族が居るって言っていましたけど?」


「ああ、久しぶりに親子水入らずを満喫出来ましたよ。と、言いたい所ですが、一番上の子が十五歳で成人して、王都にある王立魔法学校に入学したいと言い出しましてね。いや~、参りましたよ、もう親元を離れようとしていますからねえ。こちらとしては寂しいばかりですよ。」


「そうでしたか、子供の成長って早いですものね、本人がやる気なら応援してあげるのも一つではありますけどね。」


「ははは、ジャズ君も親の立場になれば解りますよ。本当に、苦労が堪えませんから。」


うーむ、結婚して自分が親になるか。そんな事想像した事も無いよ。


今はまだこのままでいいからね、俺は。


そうこう話しながら同期の顔を見て、何だか安心する。


俺も上等兵に昇進した事を皆に報告したら、「ジャズてめー抜け駆けしやがって」とニールに言われた。


別に、ただ俺は生き延びる為に戦っただけだからな。


第三会議室で待っていると、三人の人物が入室してきた。


キエラ中尉と他にも女性が二人、士官服を着ているという事は、この二人が王都からやって来た女性士官という事かな。


キエラ中尉が挨拶をする。


「みなさん、おはよう。」


「「「「 おはようございます! 」」」」


「さて、早速ですが、ルキノ上等兵。直ちに魔法兵隊の宿舎へと赴いて下さい。君はもう立派な魔法兵ですからね。そこで先輩達から色々と学んできて下さい。以上です。」


「は! 直ちに向かいます。」


そう言って、ルキノさんは部屋を駆け足で退室していった。


残った俺達は、その場で待機だ。


「さて、君達ブラボー中隊は今後、新たに新設される小隊に編成される事になります。まずは自己紹介から。」


キエラ中尉が女性士官二人の方を向いて、先を促した。


「私の名はサキ、階級は少尉、ブラボー中隊では小隊長を務める事になる。よろしく。」


サキ少尉は見た目が十七歳ぐらいの若い女性だ。


赤毛でショートヘアーな出で立ちは、どこか活発な女性を思わせる。


この若さで少尉とは、士官学校を出たという事だな。


「わたくしの名前はナナ、ナナ・フローラと申します。階級は少尉。サキ少尉と同じく、ブラボー中隊では小隊長を務める事になります。どうぞよろしく。」


今度はナナ少尉だ、こちらも見た目は十七歳ぐらいだな。


銀髪のストレートヘアーが特徴の、お嬢様然とした雰囲気の女性だ。


何だか優しそうだな。おっとりした感じだ。


俺達は、サキ少尉とナナ少尉の挨拶が終わると同時に敬礼した。


「「「 よろしくお願い致します。 」」」


二人共若い女性だ。この二人の内、どちらかの小隊に配属されるという訳だな。


ここでキエラ中尉が「二人の紹介も済みましたね」と言って、俺達に向き直り、言葉を掛けてきた。


「それでは三人共、しっかりとお二人のサポートをして下さいね。さて、それではサキ少尉、ナナ少尉。後の事はお願いします。」


「「 はい! 」」


ここでキエラ中尉は部屋を退室していった。残ったのは五人だ。


俺達は今後の事を聞く為、サキ少尉に質問した。


「サキ少尉殿、これから自分達はどうしましょう?」


「その前にまず、お前達には私達の小隊に相応しいかどうかテストさせて貰う。自分の最も得意とする武器を装備課から受け取り、グラウンドへ集合せよ。以上だ。」


そう言うと、サキ少尉とナナ少尉はさっさとこの部屋を出て行った。


何だか俺達、試されている感じだな。


もしかして、王都から赴任してきたから、プライドが高いのかな。


「おいジャズ、リップ、取り敢えず装備課へ行こうぜ。」


「ああ、そうだな、行こうリップ。」


「ええ、そうね。」


こうして俺達は第三会議室を後にして、一旦外に出る。


装備課がある建物を目指して、移動する。


「テストだってよ、何するつもりかな?」


「うーん、自分の得意とする武器を持って来いって事だから、きっと実力が見たいんだよ、俺達の。」


「実力って、あたし達試されるって事? その結果でどの小隊に配属されるか見極めるって事かな?」


「そういう事かもな、なあジャズ、お前どっちの方がいい?」


「は? 何が?」


ニールはニヤニヤしながら聞いて来た。


これを見ていたリップは「いやらしいわねえ」と突っ込んでいた。


「だから、サキ少尉かナナ少尉のどっちがいいかって聞いてんだよ。お前どっちが好みだ?」


ああ、そういう事か、ニールの奴、そういう事ばかり考えていると、何時かボロが出るぞ。


まあ、強いて言うならサキ少尉かな。活発な女性というのは見ていて元気が湧いてくる。


「どっちでもいいだろ、そんな事。」


俺の返事に、ニールは「連れないなあ」と漏らしていた。知らんよそんな事どうでも。


これから上司になるかもしれないってのに、そんな事考える余裕は無い。


 装備課へ着いて、おやっさんに武器を見繕って貰った。


俺は使い慣れたショートソードだが、ニールは相変わらず両手持ちの大剣だった。


威力はあるだろうが、こいつの命中率は低いんだよな。


リップはダガーを一本受け取っていた。やはりリップはコマンド兵が板に着いている感じだな。


 こうして、武器を受け取った俺達は、すぐさまグラウンドへ集合した。


そこには既に、サキ少尉とナナ少尉が待っていた。


何やら木材で出来たターゲットマークを設置している様子だ。


「来たかお前達、早速で悪いが、この魔道具のターゲットマークを自分の得意武器で攻撃してくれ。その結果を見て、お前達が我等の小隊に必要かどうかを判断する。」


あ、これ覚えてる。確か入隊試験の時にやった、実技試験の時の魔道具じゃないか。


あの時は俺、壊しちゃったんだよな。今度は気を付けてやらないと。


こうして始まった小隊員編制テスト。俺達は一体どの小隊に配属されるのだろうか? 


前回の時の様に、壊さないようにしなくては。





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