第26話 休日の過ごし方は人それぞれ ⑤



 翌日、クラッチ駐屯地の兵舎で目覚めたので、顔を洗い、朝飯を食って今日はどうするかを考えていた。


「そういえば、コジマ司令が何時でもいいから女神教会に行って、話を聞いて来いって言っていたな。」


確か闇の崇拝者とダークガードについて、だったか。


ゲーム「ラングサーガ」に登場したのは、闇の崇拝者だけだったな。


ダークガードは知らないな。700年も経っていると色々とややこしくなるのかもな。


 まず、冒険者ギルドへと足を運んだ。


朝のギルド内は慌ただしく、冒険者達が今日の依頼内容を確認しているようだ。


ガーネットは来ているだろうか? 


あ! 居た。何やらクエストボードとにらめっこしている、まずは朝の挨拶から。


「おはようガーネット、今日は昨日とは違う格好だね。」


「あら、おはようジャズ、何言ってんのよ、これが私のいつもの装備よ。革の胸当てにショートボウ、石の矢10本と鉄の矢10本。これでいつでもいけるわ。」


「へ~、気合入ってるね、今日はモンスター討伐にでも行くのかい?」


「えーっと、ジャズは今日はどうしたい?」


ふーむ、特にやる事も無いし、今日あたり女神教会に赴いて話を聞きに行こうかな。


「うーん、実は今日、女神教会にちょっと話を聞きに行こうかなと思っていたんだ。軍のお偉いさんからの命令でね、だから今日は俺一人で行ってこようかなと。」


「ふーん、女神教会ね。いいわ、私も付き合うわよ。別にいいでしょ?」


ふーむ、特にこれといって困る事は無いよな。


折角ガーネットと知り合いになってパーティーを組んでいるから、別に構わないと思うな。


「わかった、じゃあガーネットも一緒に行こうか。」


「オッケー、決まりね。早速行きましょうか。」


 こうしてガーネットと二人でクラッチの町中を一緒に歩き、女神教会がある場所へ向かう。


この町の事を詳しく知らないので、また今日も先頭はガーネットだ。


 暫く歩いていると、何だか人だかりが見えてきた。何だろうか? 


教会っぽい小さな建物の周りに人が疎らにいて、みな拍手やお祝いの言葉を言っている。


「ガーネット、あれは何かな? 人が集まっているみたいだけど。」


「ああ、あれは転職の儀ね、私の時もこんな感じだったわ。」


「転職? クラスチェンジって訳か。そうか、教会で転職をするものなのか。」


「ジャズはさ、今の職業に転職した時、ここの女神教会で転職の儀をやってもらったの?」


「えーと、どうなんだろう。」


(俺の場合メニューコマンドでちょちょいとやってしまったからな。)


そうこうしていると、女神教会に来ていた人達はいつの間にか帰っていったみたいだ。


丁度いい、教会の人に話を聞いてこよう。


「ガーネット、女神教会に入るけどいいかい?」


「ええ、構わないわよ、私も女神様にお祈りを捧げようと思っていたから。」


「それじゃあ、行こうか。」


二人でクラッチの町の小さな女神教会の中に入った。


先程の転職の儀の後片づけをしている様だ。近くにいるシスターさんに声を掛けてみよう。


「すみません、冒険者なのですが。」


「まあまあ、いらっしゃい、もう転職の儀は終わりましたよ。」


「あ、いえ、そうではなく、ちょっとお話を聞きたいと思いまして。」


「まあまあ、そうなの、どんなお話なのかしら?」


「はい、実は………ダークガード………というのをご存知でしょうか?」


「はあ、ダークガード、ですか。もっとこう、女神様についてとか、そういうお話を期待しておりましたが、冒険者の方というのは、恐ろしいお話が聞きたいようですね。」


「あ、いえ、そのう、俺は王国軍の兵士でして、上からの命令で、そちら方面の話を聞いて来いと言われていまして。」


「あらあら、そうなの? それでは司祭様を呼んで参りますわ。少々お待ちを。」


そう言って、シスターさんは奥の部屋へとゆったりとした足取りで向かった。


何だか町の小さな教会って感じだ、素朴な感じでほのぼのするなぁ。


暫くして、司祭様とシスターさんがやって来た。


「どうもお待たせしました、私に御用がおありとか、何ですかな?」


「はい、実は先日、クラッチ駐屯地にて大型モンスターが暴れる事件がありまして、その時に物陰から怪しい人物が居たので調べに行ったところ、その人物が自らの事をダークガードと名乗ったのです。司祭様、ダークガードというものについて、何かご存知ありませんか?」


司祭様に尋ねると、司祭様は眉根を下げ、ちょっと困った様な表情をしていた。


「私共の小さな女神教会では、とても知り得ぬ情報でございます。申し訳ございませんが、私には解りかねます。」


(おっと、どうやら俺は信用されていない様だぞ、コジマ司令が知っていて、それっぽい女神教会関係者の人が知らないというのも何だかなあ。)


「そうですか、困りましたね。」


「ご覧の通り、この女神教会には私とシスターマリーネの二人しかおりませんので。」


そうだよな、田舎の教会にそんな物騒な話を持ち込まれても困るよな。普通。


「ふーむ、司祭様、他にダークガードについて詳しい方をご存知ですか?」


「そうですな、………王都にある女神神殿ならば、何か知っている方がいると思います、あそこには聖騎士も詰めていますからね。」


「王都アリシアですか、解りました、機会があればそちらの方を訪ねてみます、ありがとうございました。」


「いえ、お役に立てず申し訳ありません。」


「そんな事はありませんとも、ご相談に乗って頂きありがとうございます。」


ふーむ、コジマ司令には、話は聞けませんでしたと報告するしかないな。


王都まで聞きに行く必要が出てきた可能性があるな。


まあ、折角女神教会に来たんだ、お祈りしていこう。


何かご利益があるかもしれないからな。


「それでは司祭様、三柱の女神様にお祈りをしてから帰ります。」


「ええ、是非ともそうなさっていって下さい、あなた方に女神様の祝福がありますように。」


「ありがとうございます、それじゃあガーネット、折角付き合って貰ったのに悪いね。お祈りでもして行こうか。」


「別に気にしてないわ、女神像はこっちよ。」


ガーネットに連れられて女神像の前に来た、三体あるな、


ゲーム「ラングサーガ」と同じかな。ちょっとシスターさんに聞いてみよう。


「すみません、シスターマリーネ、この三柱の女神様と言うのはどの様な?」


「おや、女神様の事をご存じ無いのですか? 世界中で信仰されていますのに。」


そうなのか、ラングサーガの知識でしか知らないからなあ。


ここは田舎から出て来たという事にしておくか。


「すみません、相当な田舎から出てきたもので。もし宜しければお教え下さいませんか?」


「ええ! いいですとも! コホン、ではご説明しましょう。」


「よろしくお願いします。」


やっぱりシスターさんともなると、こういう話の方がいいんだろうな。


活き活きしていて目が爛々としている。


「まず、真ん中にあるのが戦いと成長、そして美を司っている女神アルナ様です、冒険者の皆さんや兵隊さん、騎士の方々によく信仰されています。」


ここでガーネットも話に加わってきた。


「私も冒険者だから、女神アルナ様の前でお祈りをしているのよ、ジャズもアルナ様の前でお祈りをするといいと思うわ。」


「そうだね、そうするよ。」


「そして、向かって左側にあるのが魔法と知識、そして豊穣を司っている女神ジュナ様です、農業を営んでいる人達が多く信仰しているんですよ。」


「なるほど。」


ここまでは一応「ラングサーガ」と同じだな。


「最後に、向かって右側にいるのが光と闇、そして愛を司っている女神エキナ様です、信者数が一番多いんですよ。」


「なるほど、アルナ様にジュナ様、エキナ様ですか。」


一緒だ、ゲーム、「ラングサーガ」とまったく同じだ。


やっぱりこの世界は「ラングサーガ」の世界なんだな。


だけどこれはゲームじゃない、その辺は気を付けないといけない。


「シスターマリーネ、色々と説明して下さりありがとうございます。」


「いえいえ、こちらこそ、女神様の事を分かって頂けるのは良い事ですので。」


「それでは、女神アルナ様に祈りを捧げます。」


「あ、私も。」


女神アルナ様の像の前で、両手を合わせて、日本式お祈りスタイルでお祈りをする。


(日本から転生して来ました、山田太郎と言います。今はジャズとしてやっています。この世界でお世話になります。よろしくお願いします。)


{こちらこそ}


「え?」


今何か聞こえた様な? 気のせいかな?


「どうしたの? ジャズ。」


「いや、何でも無い。」


何かおかしな感じだが、まあ目的の話が聞けなかったという事だな。今日はこのまま帰るか。


こうして二人で「これで失礼します」と司祭様とシスターマリーネに言い、女神教会を後にした。





「司祭様。」


「解っています、今はまだコジマさんとこの町の領主様にしか話してはいません。彼等のような若者には、この話は荷が重い事です。」


「そうですわね、守りきれるでしょうか? この町を、いえ、この国を。」


「守らねばなりません。大丈夫、女神教会の最大戦力、シャイニングナイツがいます。彼女達に期待しましょう。」


「そうでしたわね、の戦乙女達に頼るしかないですものね。」













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