第13話 軍靴の足音 ②



 王国軍クラッチ駐屯地の敷地内の一番大きな建物の中へと入り、玄関ロビーへと来て受付の前まで来た。


受付には女性職員が居て、やって来た人に対応してくれるみたいだ。


早速女性職員に挨拶をする。


「どうも、こんにちは。」


女性職員は一礼して、にこりと笑顔を見せて対応してくれた。


「ようこそクラッチ駐屯軍へ、何かご用ですか?」


「はい、実は俺、軍に入隊しようと思いまして、ここで手続きしてもらえると聞いたもので。」


「入隊志願者の方ですか、一応筆記試験と実技試験がありますが、簡単なものですので、基本入隊志願者は大歓迎ですよ。今日この後すぐ試験が始まりますが、受けられますか?」


「あ、はい、宜しくお願いします。」


試験があるのか、簡単だって言っていたし、大丈夫だろうとは思うが。


受付の女性職員が何やら書類のような物を取り出し、受付カウンターの上に置いた。


「早速ですが、この書類に必要事項を記入していただきます。文字は書けますか? 宜しければ代筆いたしますが。」


ふーむ、文字か。


一応この書類に書かれている文字は、まるで日本語のように読めるが。


書けるとなるとジャズはどうなんだろうか?


「一応自分で書いてみます。」


そう言いながらペンを取り、書類に記入してみる。


名前、年齢、性別、職業の四項目だ。一応書いてみる事にした。


名前を書く所にジャズ、と書いてみる。うん、どうやら字が書けるようだ。


年齢は十九歳、性別は男、職業は俺は戦士だから戦士と書いておこう。


よし、こんなもんか。


記入した書類を女性職員に渡す。


女性職員は書類を眺め、「へ~、あなた戦士なのね。いいですね」と言い、書類を仕舞った。


「ジャズさん、これから筆記試験をまず先に受けていただきます。この受付ロビーから左に向かって進み、第3会議室と書かれた部屋へ入って下さい。試験開始までそこでしばらく待機していただきます。よろしいですか?」


「第3会議室ですね、わかりました。」


 受付を後にして、ロビーを左に向かい、第3会議室の前まで来て扉を開ける。


部屋の中には長椅子と机、それと他に試験を受けるであろう三人の男女が椅子に座っていた。


部屋の中へと入リ、空いている席に座る。


しばらく待っていると三人の入隊志願者のうちの一人の男から声を掛けられた。


「あんたも軍に入るのかい?」


「ああ、一応ね。と言っても、まだ試験をクリアしないと駄目みたいだけど、君もかい?」


「ああそうだ、お互い頑張ろうぜ。」


「そうだな。」


男は一通り話し終えると、前を向き、無言で待機した。


こっちも無言になり、椅子に腰掛けたまま待機する。


しばらくして、部屋の中に一人の軍服みたいな服を着た男が入室してきた。


手には幾つかの書類を持っている。試験官かな? その人がこちらに向かって挨拶をする。


「みなさん、まずは王国軍への入隊を志願してくれて感謝します。自分はキエラ中尉、君達の試験を監督する事になりました。よろしく。」


「「「「 よろしくお願い致します。 」」」」


キエラ中尉の挨拶のあと、こっちも返事をする。更に中尉が話を続ける。


「アリシア王国軍では随時入隊志願者を募集していますが、試験をパスしなければ入隊は叶いません。よって、今からみなさんには筆記試験を受けていただきます。ああ、大丈夫、文字が書けなくてもマルバツで答えても問題ありません。ただ、問いの下の方に自分なりの考えを書く欄があります、余裕のある方はそちらに書く事を推奨します。以上、自分からはここまでです。」


キエラ中尉は説明し終えると、書類とペンをこちらの机の前に置いた。


そして部屋に置いてある砂時計をこちらに持って来て、机の上に置いた。


「制限時間はこの砂時計が落ちきるまでです。みなさん、準備はよろしいですか?」


各自はペンを持ち、書類を見て備える。キエラ中尉が砂時計をひっくり返した。


「それでは、始めて下さい。」


皆は一斉に書類に名前を書き出し、問いを読み、答えを書き始める。


(何々、どんな問題なんだろう。)


まず、問い一を読む。


そこには「あなたはゴブリン討伐任務を受けました。洞窟の中に巣食っているようです。任務を遂行しますか?」という事が書かれていた。


(ふーむ、洞窟内でのゴブリン討伐任務か、真っ先に思いつくのは火攻め、水攻め、燻り出し、・・・は! いかんいかん! 中に人質が居る可能性も考慮しなければ、ここはマルと書いておこう。)


答えを書く欄にマルと書き、下の備考欄のところに、「まず、四人から六人の少数精鋭からなる特殊部隊を侵入させ、人質の有無を確認後、速やかにゴブリンに対処していく。」と、書き込んだ。


(ふむ、問い一はこんなもんか。次は問い二だな。)


問い二にはこう書いてあった。


「町の中で女の子が泣いているのを見かけました。あなたのポケットにはクッキーがあります。クッキーを女の子に与えて泣き止ませますか?」と書いてあった。


(ふーむ、普通に考えれば答えはマルだよな、いや、待てよ、もしその少女が敵国の間者だったらどうする。いかんいかん! この問いは引っ掛けか!? ここは一つ。)


問い二の答えにマルと書き、備考欄に「少女が敵国のスパイの可能性を考慮し、クッキーを与えた後、隠れて様子を窺い、少女の後を付け、自宅の位置を特定し、観察する。」と書いた。


(よしよし、問い二も書いたぞ。まあ、これはいわゆるストーカー行為に見えなくはないけど、最後に問い三か、最後まできっちり書こう。)


問い三にはこう書いてあった。「最弱といえばスライムですか?」と。


(最弱? スライムって最弱だったっけ? いや、他にも弱いモンスターは居る筈だ。スライムだけが弱いなんて事はないよな。うーむ、わからん。よし!ここは一つ、バツと答えに書いて、備考欄に自分なりの考えを書くか。)


問い三の答えにバツと書き、備考欄に「最弱はわかりません」と書いておいた。


まさかとは思うが洞窟探検ゲームの主人公じゃないよな。………まさかな。


(よーし、取り敢ず全ての問いの答えを書いて空欄を埋めたな。これでいい筈だと思うけど。)


ペンを置き、静かに座っている。


他の三人も既に答えを書き終えていた様で、自分が最後だった。


砂時計が落ちきる前に、何とか全員書き終えたみたいだ。


そして、砂時計が下まで落ちきった時、キエラ中尉が「そこまで」と筆記試験終了を宣言する。


そして各自の答案用紙を回収し、ペンも合わせて回収していった。


「みなさん、よく書けましたね。この後すぐ、実技試験を行います。外にあるグラウンドに集合して下さい。筆記試験お疲れ様でした。」


キエラ中尉はそう言って、部屋を退室していった。動きに無駄が無い、流石軍人さん。


 さてと、お次は外へ出て実技試験か。


四人は席を立ち、そのまま部屋を出て受付ロビーから外へと出る。


目の前に広がるグラウンドには、既に兵士の何人かは走り込んでいた。


邪魔にならないところに移動して、その場で待機する。


しばらくして、キエラ中尉がやって来た。


何やら木で出来た的(まと)の様な物を持っている。何をするのかな?


「さて、次は実技試験をみなさんに受けてもらいます。この木の板で出来たターゲットマークを、自分の最も得意とする攻撃方法で当てていただきます。準備しますのでもう少しお待ち下さい。」


そう言って、キエラ中尉は少し離れた場所にターゲットマークを置いた。


そして、こちらの近くには他の兵士達が何か武器を持ち込みに来て、その場に置いた。


なるほど、この色々な武器は使わせて貰える訳か。


ふーむ、自分に合った武器か、自分には何が合うのかな? 


一応戦士だから剣などのソード系武器がいいかな。


いや、もしかしたら斧やメイスなどの武器が自分に合っているのかもしれんな。


う~む、どうしよう。


実技試験は、こうして始まった。












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