第8話 ザコキャラ転生 ⑦



 山賊のアジトへ向け、森から出て広場を歩く。ここまでモンスターとの遭遇は無かった。


ポエム砦の周りに山賊の遺体が地面に転がっている。冒険者の仕業だ。


日本人気質なのか、遺体の前で両手を合わせ合掌する。


冒険者の姿は既に無い、仲間の一人が怪我を負ったらしく、この場を離脱していった。


(さて、もうこんな所に居たくない、早いとこポエムに山賊団を抜けて足を洗う事を伝えよう。)


その前に、ある保険を掛けておいた。これで万が一、いや、想定できる事柄に対処出来ている筈だ。


 そのまま砦内に入りポエムを探す、砦内には至る所に血の痕が付いていた。


この場でも戦闘があった事を物語っている。


ポエムは何処だろうか、一応ポエムの部屋を確認する。居た。ポエムだ。


ポエムは鉄の剣を片手に持って、フーフーと息を乱し、こちらを警戒している様子だった。


もう終わりだな、ポエム山賊団も。


ここが冒険者に知られてしまった以上、もう未練も義理も無い。


ポエムに足を洗う事を伝える。


「おかしら、話があるのですが。」


「後にしろ! 今は仲間がやられてそれどころじゃねえ! ジャズ! オメーも武器を見つけて襲撃に備えろ!」


ポエムはついさっきの冒険者達の襲撃にイラついている様子だ。


まあ、山賊団がどうなろうと知ったこっちゃ無いよ。勝手に話を続ける。


「お頭、実は俺はこのポエム山賊団を抜けようと思いまして、足を洗って出直そうと考えています。一応お頭に伝えて筋を通そうと思いましてね。」


この言葉を聞き、ポエムの表情は怒り心頭といった鬼のような表情をした。


まあ、そうなるわな。


「ジャズ、テメェ、今がどんな状況かわかってやがるのか? もう俺とお前等の三人しか居ネェんだぞ。それでもここを抜けるってのか? ああ!!」


「はい、俺はここを抜けて足を洗うつもりでした。もう自分で決めた事なので。」


ピシャリと返事をすると、ポエムは無言になり、しばらく沈黙が流れた。


そして………。


「わかった………わかったよジャズ………、ここを抜けるんだな、仕方ねえ、来る者拒まず去る者追わずだ。だがなジャズ、最後に一個だけ、どうしてもやって貰いてぇ仕事があるんだよ。そいつをこなしてから好きにすりゃあいいさ。な、頼むよ。」


ポエムは実に平坦な口調で話し始めた。最後に一つだけ……か……。


「何ですか? 最後にもう一仕事というのは?」


「なーに、簡単な事さ、ジャズ、オメェちょっと後ろを向いてくれねえか。直ぐ済むからよ。」


ほらキタ! 自分は無言で後ろに体を向く。


その刹那。背中の上から下へ斜めに激痛が走り、熱を感じて血が噴き出るのを感じた。


「うぐわあ!!」


わざとらしく断末魔を上げ、そのまま前のめりに倒れ込んだ。


ピクリとも動かないフリをして、死んだように見せかけた。


(やはりな、思った通りだ。その行動は読めていたよポエム。)


砦に入る前に、精神コマンドの「不屈」を使っていた。


どんな攻撃を喰らってもダメージ1で済む効果がある、自分の切り札の一つだ。


見た目的には血がドバッと出ている様に見えるが、実際のダメージは1で済んでいる。


残りヒットポイントは5だ。


「言ったろ、簡単な仕事だって、この鉄の剣の切れ味を確かめたかったんだよ。ジャズ、テメーが悪いんだぜ。山賊を抜けてえなんて言うから。」


目を瞑っているので状況はわからないが、ポエムはこっちを殺して始末したと勘違いしてくれている様だ。


よし! いいぞ! 第一段階クリア。


「おーーーい! 誰か居ねえか?」


ポエムは大声で仲間を呼んだ。


「どうしやしたか? かしら? んん! こいつはジャズじゃねえですか、何があったんですかい?」


「ああ、この馬鹿がここを抜けてえなんて言い出すもんだから、口封じの為に殺っておいた。オメーちょっとこいつの死体を森まで捨ててこい。ここにあるんじゃ目障りだ。」


「へい、わかりやした。」


山賊の仲間はこちらの腕を掴み、そのままズルズルと引きって部屋を出て行った。


(よしよし、うまくいった。第二関門通過。このまま外へ連れ出してくれればこっちのものだ。)


「おめーも何だってまたこんな時に、山賊を抜けてえなんて言うのかねえ。」


(こんな時だからだよ。)


そして、ポエム砦の出入り口まで運ばれてきた時だった。


途中の通路で山賊が立ち止まる。何だ? 何してんの? 早いとこ外へ運んでくれよ。


目を瞑っているので状況はわからないが、どうやらまたトラブルらしい。


こちらの腕を掴んでいた山賊は手を離し、何やらジャキリと武器の様な物を構える音が聞こえた。


「テメー等! 冒険者か!? また来やがったのかよめんどくせー! たかが三人で何しに来やがった!!」


「あら? 私達を見て逃げないの? あらあら、もうそんな戦う判断しか出来ないのかしら。」


女性の声だ。随分余裕のある物言いだな。


「姐御、こいつ等ですよ。俺達の受けた護衛依頼の時に邪魔をした山賊ってのは。」


今度は男? いや、少年の声だ。待てよ、この声どこかで? 


ああ、そうか。荷馬車襲撃の時のあの護衛の少年か。


「私達はいつまでも駆け出しの新米冒険者じゃないってところを見せてあげるわ! 覚悟なさい!」


今のはあの荷馬車護衛の時の少女の声だ。


なるほど、姐御とかいう手練てだれの冒険者を仲間にして、ポエム山賊団を壊滅させようと乗り込んできた訳か。


若いのに勇敢だな。


「貴方達は下がっていなさい、こいつの強さはおそらく貴方達では手に負えないわ。私が一人で相手するから。よーく戦い方を観察するように。」


「「 はい! 姐御! 」」


どうやらここで戦いが始まるみたいだ。姐御と呼ばれた女性と山賊のシミター使いの男との一騎打ちらしい。


「それでは、いきますよ!」


片目を少しだけ開き、状況を確認する。ところが………。


「うぐっ!? て、てめぇ、よく……も…やって………く………れ………。」


なんと、山賊の男は女性に一太刀を浴びせられ、後ろへと倒れ、ピクリとも動かなかった。


マジか。一撃か、凄いな姐御。


「さあ、先を急ぎましょう。情報によれば人質が居るのよね?」


「ちょ、ちょっと待って下さい姐御、この山賊には見覚えがあります、仲間に引き摺られていたところを鑑みるに、おそらく仲間割れをしたものと思います。この男は山賊を抜けたがっていた節があります。それにまだ息があります。」


(おや? どうやら俺の事らしい。しまった、呼吸をしているのを見破られたか。)


「………一応、回復薬ならあるけど、どうする? ガーネット。」


「ラット、お願い。その回復薬を一つこっちに。」


「はいはい、ガーネットは一度こうと決めたら頑として聞かないからなあ。はいよ、回復薬。」


少年が少女に薬瓶の様な何かを渡して、その蓋を空けて中の液体をこちらの口元につけた。


口の中に液体を流し込んできた感触がして、次の瞬間、自分の体がポワンと光だした。


痛みが和らいでいくのが感じられた。HPも6まで回復したみたいだ。


そうか、これが回復薬ってやつか。


本当は意識が既にあったのだが、目を覚ましたフリをした。


「う、う~ん、ここは? 俺は確か、ポエムにやられて………。」


「どうやら気が付いたみたいね、もう大丈夫、私達が助けに来たわよ。あなた、山賊の頭目にやられたのよね。」


「あ、ああ、足を洗う事を伝えたら。やられちまったよ。参ったよホント。」


「やっぱりあなた、山賊には向いてないわね。これからどうするの?」


「そうだな、取り敢えずここを出るよ。」


「そう、私達はこれからポエムのところまで出向いて、引導を渡すつもりよ。人質も救出しないとね。」


なるほど、それでここまでやって来たという事か。


「気を付けるんだよ、山賊の頭目のポエムは極悪人だからね、どんな手段を使ってくるかわかったもんじゃないよ。」


こちらの言葉を聞き、少女はハニカミながら答えた。


「わかったわ、やっぱりあなた、山賊は辞めるべきね。もう悪さしちゃ駄目よ。」


そう言いながら、三人の冒険者達はこの場を後にし、ポエムの居る部屋へと走って向かった。


どうやら心配してもらったみたいだな。


しかし、幾ら手練てだれの仲間が助っ人に一人増えても、ポエムの強さはレベル5程度の実力はあると思う。


このまま行かせてしまってよかったのだろうか?


(まあいい、俺はポエムにとって死んだ事になっている。今更ここに用は無い、早いとこここから抜け出して外に出て、それから………。)


それから、どうする? 


外へと繋がる扉のドアノブに手を掛け、冒険者の少女のハニカんだ笑顔を思い出したその時。


その場で動けなかった。いや、動かなかった。


(ここから一歩外に出れば、俺は自由だ。なのに………。)


本当にこのままでいいのか? ポエムは強い。三人掛かりでもうまくいかないかもしれない。


(ちくしょう! ほっとけねえじゃねえか! 今更へたれの俺が行ったところで………。)


怖くて足が震えている。情けない。


でも、だけどさ。


ドアノブから手を離し、振り返る。


「まあ、あれだ。回復薬一つ分の借りぐらい、返しとくのも悪くは無いよな」




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