第1話 ホットスタート



 みなさんは、ファンタジーシミュレーションRPGというジャンルのゲームをプレイした事があるだろうか。


普通のRPGとは違い、戦略シミュレーション要素がある。


ちょっと考えて戦略を練って、プレイヤーユニットを動かし、敵ユニットと戦闘をしてマップにいる全ての敵キャラを倒すか、クリア目的を達成するとシナリオクリアできる。


剣と魔法のファンタジーな世界観のシミュレーションゲームです。


某有名タイトルのFEだとか。


SFみたいなのとか。


ファンタジーではないけどSRWだとか。


ビックタイトルを挙げれば色々ありますが、そんな中で、「ラングサーガ」というマイナーな人気を博したSRPGがありました。



 自分の名は山田やまだ 太郎たろう。独身、彼女いない暦イコール年齢のどこにでも居る様な只の冴えないおっさんだ。


自分はこの「ラングサーガ」というタイトルのゲームが好きで、若い頃、仕事そっちのけでしこたまやり込んできた。


世界観も好きだったし音楽も好みだった、自分に合っているゲームにめぐり会えたのは幸運だ。


ゲームクリアのおまけ要素である所持金やスキルポイントを引き継いだり、二周目以降の周回プレイではサクサクとストーリーが進むし、隠し要素やイベントなど、「ラングサーガ」を隅々まで遊んだ。


何度エンディングを観た事か。


 しかし、いつまでもゲーム………という訳にもいかず、歳を重ねる毎にプレイをしなくなり、何時しかゲームとは無縁の生活になっていった。


もうそういう歳でもないと、自分に区切りをつけ、歳とともに色んな事を諦めてきた。


別にゲーム自体は嫌いではない、ただ、他にやる事が増えてきてそれどころではない感じになっていったのだ。


 今夜もお気に入りのゲームミュージックのサントラを聴きながら、寛いでいた。


部屋に掛けてある時計を見ると、夜中の12時を回っていた。


「もうこんな時間か、早いとこ寝るか」


CDプレイヤーの電源を切り、部屋の照明を消して布団に入り、身体を横にして就寝に就く。


最近なんだかやたらと疲れる、もう歳かな、そう思いながら目を閉じ、睡眠する。


ああ~~、ホント身体がだるい、このまま寝たらもう起きないんじゃないだろうな。


などと考えていたから悪かったのか、そのまま目を覚まさなかった。永遠に………。



 気が付くと、まっ白な空間の中に居た。


上も下もわからない、辺りを見渡すと一人の女性が目に映った。


それ以外何も無い空間だ、その中を漂っている感じだな。


明らかに今まで寝ていた部屋ではない、これは夢かな? と思っていたら目の前の女性から優しく声を掛けられた。


「山田太郎さん、今までの人生、お疲れ様でした」


「………え? 今までの、人生?………あのう、貴方はどちら様でしょうか?」


問いかけに、目の前の女性は優しく微笑み、しばしの間無言だったが、微笑んだまま口を開いた。


「山田さん、貴方は布団の中で息を引き取りました、長い様で短い人生でしたね、よく頑張ってきました」


………マジか!? マジなのか! いや、冗談を言っている雰囲気ではない。


息を引き取ったという事は、つまり、自分は、死んだという事か? まあ、布団の中で死ねたんだ、悪くない死に方だったよな。 


「あのう、貴方は女神様ですか? 俺を、いや、俺の魂に安らかな眠りを与えるって事でしょうか?」


問いかけに、目の前の女性は優しく微笑みながら答えてくれた。


「私は女神(見習い)、この世界において死者の魂を天国へ送るか、地獄へ落とすか、見極める役割を担っています」


マジか、マジもんの女神様か、しかもなんか地獄の閻魔様えんまさまみたいな役割を担っているらしい。


………そうか、親よりも先に死んだのか、とんだ親不孝者だな、ごめんよお袋、それにしても天国へ行けるのかな? それとも地獄行きかな? どっちだろう。


「女神様、俺は天国へいけますか? それとも地獄ですか?」


思い切って女神様に聞いてみた、すると女神様は少し困った表情をして語り掛けた。


「残念ですが、山田さんは天国へはいけません、天国へいくには徳を積む必要があり、貴方は徳が足りません」


な、なんと、天国へはいけないのか。愕然とした、という事は地獄行きか。


そう思っていたら女神様が話の続きを話した。


「かと言って、地獄に落ちる程の目立つ悪行はしていません」


「ほ、本当ですか、やった、いや、喜んでいる場合じゃないよな、では俺はどうなりますか?」


問いに、女神様はにこりっ、として話の続きをしだした。


それにしても中々のべっぴんさんだな、女神様というのはみんなこうなのかな? 


美人と話しているとこっちが緊張してしまうよ。小心者だから。


「そこで山田さんにお尋ねしたいのですが、貴方は異世界転生にご興味がありますか?」


「え? 異世界転生? それって、小説とか漫画とかアニメとかでよく見かける話ですよね」


自分だってライトノベルぐらい読んだ事あるよ、て、異世界転生かぁ、自分みたいなおっさんでいいのかな? 


そういうのはもっと若いモンがやるやつじゃないのかな。


「山田さん、実はですね、今異世界転生するともれなくユニークスキルが二つも付いてくるのですよ、普通、異世界転生するとスキルは一人一つまでしか貰えず、そのように規定で決まっていますが、今はキャンペーン期間中という事で、特別に二つ貰えるのですよ、如何ですか? 異世界転生してみませんか?」


な、なんだなんだ? 急に活き活きと語りだしたぞ、女神様ってのはみんなこうなのか?


「う~ん、そうですねえ………」


考え込んでいると、更に女神様が畳み掛ける様に説明しだした。


「勿論、山田さんの望みの異世界でもどこでも転生させてあげますよ、ですからどうですか? ユニークスキルもいい物ばかりですよ」


「………危険は、………無いのですか?」


「………………」


女神様は黙り込んでしまった、嘘は付けないみたいだ。


「ま、まあ、剣と魔法のファンタジーな世界ですので、当然、モンスター等が蔓延っていますが、で、でもほら、ユニークスキルで強くて俺つえーできますし、無双して美女や美少女に囲まれて活躍したり、あと、サクセスストーリーなんかもあったり、色々な異世界がありますよ」


………なんか、胡散臭い。けど、自分の望む世界か、だったら。


「女神様、俺は剣と魔法のファンタジーな世界でもいいのですが、どうせならゲームみたいな異世界ってありますか? 俺、ラングサーガってゲームが好きで、そのゲームに登場するキャラクターでしたら転生してもいいのですが、その世界でなら転生してみたいと思いますけど」


答えに女神様は、ぱあっ、とした明るい表情になった。


もしかして女神様も異世界転生ときたら導くのは女神、みたいなノリで考えていたりするのかな? 


そんな事を思っていたら女神様から俺に質問してきた。


「ゲームのラングサーガでそのキャラクター………ですね、はい、勿論ありますよ、その異世界に転生して貰っていいですか?」


「え? ラングサーガの異世界があるのですか、それなら是非」


「わかりました、それではいきますよ! 異世界の門よ! 開け! ゴマ!」


女神様がなにやら呪文のようなものを唱えると、目の前にドアが突然現れた。


そしてガチャリ、と扉が開き、扉の奥が異空間っぽい所へと繋がっている。


おお! これが異世界転生の第一歩か、なんだかわくわくしてきたぞ。


「さあ、山田太郎さん、この扉を潜ればそこはもう、異世界ラングサーガです、さあ、進みなさい、これからの貴方に、幸あらんことを」


え? もう行くの? 何だか急いでいる、というか急かされている気分なんだが? まあいいか。


目の前のドアに向かい、扉を潜り、ふと、疑問に思った事を口に出した。


「そういえば女神様、ユニークスキルって何がありますか?」


後ろを振り向いたら、そこにはもう扉は無く、何時の間にやら外に出た感覚がして、地面に足が着き、重力を感じて、爽やかな心地いい風が頬を撫でた。


日の光が照らしているが少々薄暗い。


ここは森の中かな? 自然の空気が旨い。


(そうか、ここはもうあの空間じゃないのか、と、いう事は俺は今、異世界転生したという事なのかな? 一体何のキャラクターに転生したのかな。)


「はあ? ユニークなんとかが何だって? おいジャズ、おめー何言ってんだ?」


「!?」


びっくりした。心臓が口から飛び出るかと思った。後ろから前に振り戻ると、そこには見知らぬ男の人が佇んでいた。


「どうした? ジャズ?」


目の前に居るその男は、見るからに汚れきった山賊スタイルだった。



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