迷い猫のネコ
1
「葬儀会社の人が来るのよね?」
「そう。お通夜の準備とか全部やってくれるって」
「手配はあらかたお任せできるとして、問題は”こいつ”だな」
「おばあちゃん、よくも悪くも財産らしい財産がなくて揉めなくて済むのは幸いだったけど、ねえ」
「先に言っとくけどうちは賃貸だからダメよ」
「そりゃ俺んとこもだ」
「うちも同じく。あんたのとこ持ち家でしょ」
「無理。娘がアレルギーあるの」
「おまえん家は? 何匹も飼ってるんだしもう一匹ぐらい」
「勘弁してよ。こないだやっと里親決まって減らしたばかりなのよ」
「脱走したときに孕んだって言ってたやつか」
「そう。室内飼いだし年中おとなしい子だから油断してた。生まれた子、みんな飼うって息子はごねるし、大変だったんだから」
「で、誰か引き取り先のあてはないのか」
「今いるここでいないならたぶん無理なんじゃない?」
「ネットで里親探しするかあ」
「経験者として言わせてもらうと、正直、難しいよ」
「もらい手、そんなに見つからないもんか?」
「なかなかね。運よく決まっても、先住と相性悪くて断念することになったり。生後2カ月でそれだから、年取ってるともっと厳しいんじゃない?」
「何歳なんだろ。かれこれ10年は飼ってたよな」
「12年。たしかうちの子が2歳のときよ。縁の下に住み着いてたノラが、産んだあと1匹だけ忘れてったんだって」
「さてどうしたもんかね」
「『拾ってください』って段ボール箱に書いて捨てるような大きさ、でもないよな……」
「今、放し飼いとか動物の遺棄ってやかましいんでしょ?」
「ご近所の人から聞くかぎり、おばあちゃんの家の子ってこと、集落じゅうが知ってるみたいよ」
「田舎の情報網はなあ」
「親戚縁者、なんらかのつながりがある土地だしな。悪い噂がたつのはなあ……」
「しかたない、保健所に連れていくしか」
「ええー、かわいそうよ」
「誰も飼えないんじゃしょうがないだろう。無責任なことはできない」
「よその庭先で粗相をしてまわって俺らにとばっちりがきちゃかなわん」
「市も譲渡会をひらいてるみたいだし、必ずしも殺処分になるとは限らない」
「生々しい言いかたしないでよ。罪悪感が湧くじゃない」
「まあ、実際のところ、ほとんど見つからなくて安楽死になるらしいがな」
「だからやめてってば」
「ともかく、通夜や葬式の段取りであわただしくなる。なにか箱にでも入れておこう」
「あれ? いないぞ。どこ行ったんだ」
「さっきまでそこにいたでしょ」
「あなたが殺処分だのどうの言うから逃げたんじゃないの」
「まさか」
「荷物にいたずらされても困る。探そう」
「忙しいときにまったく」
「おーい、どこ行ったー」
「どこにいるのー」
「出てらっしゃーい」
「おーい」
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