それ行け! 僕らの閃撃戦隊ジャスティンガー!

 悪の怪人は、気づけばジャスティンガーに包囲されていた。

「ヒ、ヒーローの癖に卑怯だジョ! 1人の怪人に対して99人がかりだなんて! プライドという物はないのか! 恥を知れ!」

 辺り一帯、360度を埋め尽くすヒーローの大群に、怪人は慌てふためきながら悪態をつく。

 それに対して、ヒーローこと閃撃戦隊ジャスティンガーのメンバーはそろって異口同音に──といけば格好良かったのだが実際は

「無数の命があふれるこの世界に喧嘩を吹っかけておきながら、99人如きで文句を言うな!」「俺たちは99の力を1つにして戦っている! だからこれは1対1だ!」「卑怯なら卑怯と呼ぶが良い! それで正義が貫けるなら安いもの!」「そんなことに文句を言うならなぜひとりで来た! 俺たちはひとりで来いなんて言ってないぞ!」「そもそもおまえたちだって戦闘員を連れてきたじゃないか! 最初はおまえらの方が多かっただろう!」「勝てば官軍! 敗者に口なし!」

 と思い思いの返答を叫ぶ。とても異口同音とは言い難い有様だ。来そうなクレームの筆頭格なのだから、せめて事前に意見の統一くらいしていただきたいものである。

『悪徳財団! その悪事もここまでだ! アルティメットジャスティス砲!』

 リーダーであるジャスティンガー1号のかけ声に合わせて99人のヒーローが一斉に怪人へレーザーショットを発射!

 全方向から正義の光線を浴びせられた爆毛怪人アフロ・ダ・ジョーは

「ぎょぐれあんちょんばんびゃらぼげええぇェェェ~っ!」

 みたいな感じで、それを文字に起こす書き手の苦労などつゆ知らず、表記しがたい断末魔の声をあげながら爆散した。まったく。



 § § §



 説明しよう。

 時は西暦二千■■■年。地球は新たなる時代を迎えていた。

 起因は外宇宙からやってきたという高等文明の訪れ。それまで「地球外生命」を血眼になって探していた地球人にとって、自分らより優れた技術を持つ存在の到来はさぞショックだったに違いない。

幸いなことに、恒星間航行中に遭難したという彼らは、宇宙船用のエネルギー提供の見返りに友好的な同盟を締結してくれた。以後、地球には外宇宙製の優れた文明が一挙に押し寄せ、エネルギー問題や食料問題など長年にわたって地球人を悩ませてきた諸所の課題はたちどころに解決されたのだった。

これを機に地球各国は国連を前身とする「地球連邦」として形式的に統一され、各星が属する『大銀河議会』へ加入。これをひとつの区切りとし、それ以後の時代を「新時代」と称することが世間で定着した。

 ほかにも目覚ましい発展した分野のひとつに医療が挙げられる。病気やケガの治療というのは勿論だが、健康体にメスを入れて人間が元来持つ力を飛躍的に向上させる身体改造技術の本格的台頭はこの時代から始まったものである。

 さて、そうして力を持った個の人間が目指したことは、大きく2つに分類される。「秩序の維持」と「秩序への挑戦」だ。そしてこのスタンスの違いこそが「ヒーロー」と「怪人」を生んだのである。

 現在の秩序に不満を持つ「怪人」たちは、手に入れた力を武器に、次々と現行秩序を破壊しようとした。地球外からの「怪人」の来訪も目立つようになっていた。それらを阻止してきたのが「ヒーロー」たちだ。地球連邦は『大銀河議会』の直轄機関である『大銀河ヒーロー理事会』にも加盟し、いかなるタイミングで「怪人」が出現しても対抗できるよう「地球出身者によるヒーロー戦隊」を育成した。そして「ヒーロー」の活躍を誇示することで、地球内外の「怪人」が自分たちを狙うことを抑止するようになった。

こうして「ヒーロー」と「怪人」たちの終わりなき戦いが横行する時代となったのだ。大銀河ヒーロー理事会日本支部がたちあげたヒーロー戦隊【ジャスティンガー】は、当初は5人だったものの、なんやかんやで増えていき、今や99人の大御所隊。

現在は、最近台頭してきている悪の組織【悪徳財団】から市民を守るべく奮戦している。その勇敢さにより市民からの支持も厚く、技術的・金銭的な協力が絶えない状態にある。



 § § §



「閃撃戦隊ジャスティンガー、ただいま帰還いたしました!」

「うむ、よくやった! 君たちのおかげで市民の平和は守られた!」

 基地に帰還したジャスティンガーを出迎えたのは、司令官の慰労の言葉であった。

 ジャスティンガーの隊長格、「ジャスティンガー1号」こと佐藤沢四季人がそれに敬礼を返す。

「爆毛怪人アフロ・ダ・ジョー撃破作戦、完了したことを報告します。確認できた限り人的被害は軽微であると考えられ、物的被害については後続隊が確認中です」

「君たちの活躍はここからしかと見届けた。ひとまず、細部の報告は後として、今は我々に任せて各自休め」

「はっ」

 四季人は隊を代表して承知の返事をすると、司令官室を後にした。

 彼らの任務はここで終わりだ。しかし司令官はまだまだやることがある。怪人の出現による被害状況の確認やリカバリー作戦の指揮もとらなければいけないのだから。

 一方、司令官室を出たジャスティンガーの各隊員を、中央本部勤務の職員らが称賛の声で出迎えた。

 その中でも女性職員の視線は自然と、隊長である四季人に集まる。栄誉あるジャスティンジャー1号というポジションにつく佐藤沢四季人だが、彼のセールスポイントはそれだけではない。

 地球随一の宇宙工学技術を持つ巨大企業グループ『TOE(Tomorrow of the Earth)グループ』の経営一族出身の御曹司であり、数々の英才教育をしこまれてきた彼。学生時代から常に成績優秀で周囲からの人望も厚く、それに加えて体格の良い二枚目ともなれば、そりゃあ魅力的にも見えるだろう。浮いた話が一向に聞こえてこないことを踏まえればなおさらだ。

 そんな超絶超人の四季人ではあるが、彼にはひとりの妹がいることは、この職場では有名な話である。

「お疲れ様でした、佐藤沢さん。そう言えば、今日は妹さんが来てくださっているみたいですよ」

「春羽が?」

 同僚のひとりからそう聞かされ、思わず聞き返してしまった四季人であったが、その返事の前に

「兄さん!」

 と、可憐な声。何を隠そう、四季人の実妹である佐藤沢春羽の姿がそこにあった。

 150センチメートルにも満たない小さな背丈ではあるが、愛らしい顔つきと異性の目を惹きがちな体つきのおかげで一定の存在感はある女性。どうしても男女比が偏ってしまうこの大銀河ヒーロー理事会日本支部舎の中では、密かに「抜け駆け禁止」を前提としたオアシス扱いをされている。

 ちなみに職場や人前では「兄さん」呼びだが、家族しかいないようなプライベートの場などでは「お兄ちゃん」呼びなのは、あまり知られていない事実だ。

「お疲れ様。兄さんたちの活躍、ここで特別に見させてもらったわ」

「春羽、どうしてここに?」

「私たちもお仕事。HAL社エンジニアとして、システムメンテナンスのね」

 気さくに尋ねた四季人に対して、春羽はにっこり微笑みながら答えた。

 実は、春羽はTOEグループとは独立した小さなベンチャー企業「HAL社」を営んでいる。ほとんどの商品は大銀河ヒーロー協会の所属組織にしか販売しないという文字通りの「正義の味方」で、その高い技術力は多くの戦隊から認められている。このジャスティンガーなど、これがダウンしたら基地が止まるという中枢システムまで製作依頼したほどだ。

「ところで、スーツや装備などの調子はどう? 何か不具合があったらきちんと報告してね。我が社が全力で対処するから」

「ありがとう。今のところ、何も問題はないよ。ただ、最近は何かと物騒だから、ハルも用心するんだよ」

 そう言って四季人は、ふたりの間では昔からよくするスキンシップとして、ポンポンと春羽の頭に手をやった。

 四季人がここまで心配するのは、単なる兄バカというだけではない。悪の組織がよく行う定番の悪事のひとつに『科学者や技術者の誘拐』というのがある。これは力ずくで従わせたり洗脳したりで有能な人材を無理やり味方に引き入れるのが目的であり、実際にそういう痛ましい事件がこれまで何件も起きている。春羽は正義に味方する天才的科学者なので、この条件をバッチリ満たしてしまうのだ。

 すると

「四季人さん。そのうち、シスコンって言われますよ」

 とやや呆れ気味の声がする。

 発言者は春羽の隣にいた女性、高野橋秋紗だった。

肩書上はHAL社の社長秘書だが、社長である春羽の専属も兼任している。護衛を主業としているだけはあり、動きやすそうなショートカットの髪、ジャケットの袖元から見えるレザーの黒手袋、凛々しさすら感じられる顔立ち、どんなところでも緩まない警戒心など、常人とは明らかに異なる雰囲気の持ち主だ。しかも男装がよく似合う容姿なので、何も知らないジャスティンガー隊員の中には彼女を男性と勘違いする者すらいたという。

「いや、大げさな話をしているんじゃないんだ。実際──」

「分かっています。でも、そういうときのために私がいるんです」

 ヒーローとしての経験を解こうとする四季人に、秋紗は少し苦笑の混じった絶妙な顔を作ってみせる。普段は鋭利で冷徹な態度を貫く秋紗が、人間らしい表情を作ることは珍しい。

 現在でこそ「社長とその秘書」という間柄である春羽と秋紗だが、実は小学生時代の幼馴染だったという縁がある。なので秋紗は春羽の兄である四季人とも面識があるのだ。なんなら、昔からスポーティーだった秋紗は四季人らのサッカークラブに入っていたこともある。10歳のときに双方の事情でお別れになったが、数奇の偶然が重なって今こうして顔を合わせているのだ。

「秋紗が鍛えているのは分かる。でも、武装したプロの戦闘員の集団が襲ってきたら、流石に敵うものじゃない。そういうときは無茶をせず僕らを真っ先に呼んでほしい。大切な人を守ることが僕たちの使命なんだから」

「お心遣いどうも。いざとなったら、そうさせてもらいます」

 と秋紗が言ったその瞬間。

 ──ふいに、基地内の空気が一変する事態が起きた。

「メッセージファイルの受信を確認! 発信者、悪徳財団本部!」

 基地内に緊迫したアナウンスが響く。

 500インチをも上回る大型モニタに『Warning』の赤文字が映り、その前でオペレータのひとりが声をあげたことで、その場にいた者の顔が強張る。

 すぐに大銀河ヒーロー理事会日本支部の支部長でもある小伊藤総司令が司令室より出てきて指示を出した。

「サイバーウィルスのスキャンを実行し、内部ファイルを解凍せよ!」

「はっ!」

 オペレータが真剣な返事をした。


 ──説明しよう。

悪徳財団とは、ここ最近、日本列島を主な活躍の場として台頭しつつある「悪の組織」である。

 野望は「チリも積もれば世界征服」で、各地に怪人や戦闘員を派遣しては「悪徳財団グッズの無人販売所を無許可で設営する」「未開封の缶ジュースからプルタブだけ盗む」「無知な子供たちに誤ったアシカとアザラシの見分け方を教える」「コンビニで客が購入したアイスをレンジでチンする」「道路に偽の規制線を設置し通行人を無意味に遠回りさせる」「リア充を冷やかす」など筆舌しがたい極悪非道の限りを尽くしている。

 ちなみに今日、街で暴れていた爆毛怪人アフロ・ダ・ジョーが行った悪事は『理髪店で散髪した客をつかまえてアフロのカツラを被らせ、一緒にアフロダンスを踊ることを強要する』というものであった。実際、被害者のひとりとなった近所の禿爺は「青春を思い出したわい」などと言いながら捜査員の前で男泣きをしたという。

 これほどまでに非道な真似を繰り返しているため、大銀河ヒーロー理事会では悪徳財団をFランク(近所の迷惑集団)に分類している。ちなみに最上位はSランク(銀河レベルを制圧・破壊しうる超巨大危険組織)であり、Fランクより下はない。


「スキャン完了! 送信されてきたのは映像ファイルと判明!」

 とオペレータが報告する。

「再生せよ!」

 総司令が命令を出すと、すぐさまモニタにひとつの映像が写しだされた。

 ……黒を基調にした不気味な装飾が施された部屋。そこに置かれた長机に座している、禍々しい鉄仮面をつけた4人のヴィラン(悪人)。



 説明しよう!

 彼らこそ、戦闘員コアクトーや下級怪人とは別格の存在、ジャスティンガーを敗北させたこともある本物の実力者! 正体は分かっていないがとりあえず何か悪いことをたくらんでいる巨悪の権化【最悪大帝キングちょべりば】に雇われた悪の大幹部、その名は【悪徳四天王】!


 ──倫理ガン無視、幼児マジ泣き! 狂気の研究を遂行する悪の科学者、【邪悪博士・Dr.スプリング】!

 彼が率いる【スプリング軍団】は金がかかっていそうなハイテク武器を操り、破壊工作を得意とする!


 ──人の形をした支配欲! 暴政と弾圧こそが生き甲斐の無慈悲な暴君、【極悪宰相・Lord. サマー】!

 彼が率いる【サマー親衛隊】はマシンガンやライフルなどの射撃武器を操り、一斉攻撃をしかける姿はもはや戦争と呼ぶにふさわしい!


 ──俺様参上夜露死苦ゥ! 破壊大好き、喧嘩はもっと好きな戦闘狂、【凶悪番長・Cpt. オータム】!

 彼が率いる【オータムファミリー】は喧嘩のプロフェッショナルで、飛び道具は使わず、強いヒーローとのガチンコ決闘を渇望している!


 ──自称末席! 自称最弱! それでも強いからタチが悪い! 四天王の一番槍、【チョイ悪アイドル・ feat. ウィンター】!

 彼女が率いる【ウィンターファンクラブ】は小学生にも負けてしまうほど本当に弱いが、得意のダンスバトルで悲願の初勝利を狙う!


 4人そろって、悪徳四天王! 紹介おわり!



『オーホッホッホッホッ! ごきげんよう、正義を名乗る皆様。今週もお見事な勝利、と言いたいところですが、悪徳財団の中でも最弱と目される我がウィンターファンクラブにあのような大苦戦とはジャスティンガーも程度が知れますわ! オォーホッホッホッホッッ!』

 最初に口火を切ったのは四天王の末席、feat.ウィンターだ。ショッキングピンクと深い黒を基調としたアイドル風ドレスと、ハート型のデバイスマスク。いかにもダークヒロインというデザインで、肌の露出こそないがどことなく色っぽい。だが油断大敵、これでもジャスティンガーを何度か破った大幹部である。そんなのが「四天王の中でも最弱」を名乗っているのだから恐ろしい。

『まったくだぜ。あんな三下怪人に随分手こずったみてえじゃねえか。いつもチンタラしやがって、そんなザマで世界を守れるだなんて本気で思ってんのかよ。どうせおまえらには何ひとつ守れやしねえんだ、ヒーローなんてやめちまえ!』

 続いてオータムが挑発じみた言葉をかける。トカゲとサソリを足して割ったような、鋭い槍状の尾をもつブラックメタルボディに、袖を通さず羽織っただけの長ラン。いかにも直情的で粗暴な言動こそ目立つが、彼も相当な実力者だ。尾も含めた己の肉体以外の何にも頼らないステゴロを得意とし、その正拳突きは戦車の装甲にも易々と風穴を開ける。

『下賤な反逆分子諸君。どうやら、まだ我らの軍門に下るつもりはないようですね。この薄汚い欲望に満ちた低俗な文明を破壊しつくすことで救済しようという陛下の高潔な意志が理解きないのでしょうか。無知も無礼もここまでくるといっそ哀れにすら思えてしまいます』

 落ち着いた低い声で、冷淡な言葉をかけるLoad.サマー。血の気の多いウィンターやオータムとは異なり、いかにも組織の重鎮という威厳がある。法服に似せたマントに身を包み、一見すれば非戦闘要員というイメージすらある冷静沈着な大幹部だが、戦闘になればマントを脱ぎ棄て軍服姿に早変わり。二挺拳銃を巧みに使いこなす激烈な弾幕を張るガンマンへと変貌する。

『まあいいわい。キングちょべりば様は次の策をもう考えておられる。無駄の足掻きをしていられるのも時間の問題じゃ! ジャスティンガー、首を洗って待っておれ!』

 Dr.スプリングがノイズ交じりのしゃがれ声で喋る。2mをゆうに超える鈍重そうな肥満ボディに汚れきった白衣という、いまひとつ強そうに見えない姿。鉄仮面で素顔こそ見えないが、言動などから相当な老齢であることが推察される。戦闘力は未知数だが、悪徳財団のロボット戦闘員コアクトーは彼の制作物だという噂だ。

 ──そこで悪徳四天王はそろって右手を前に突き出し、

「世界一の天才は誰なのか」

「世界を統治するにふさわしいのは誰なのか」

「世界一強ぇ奴は誰なのか」

「世界で一番美しいのは誰なのか」

『──分からぬ奴には分かるまで分からせる!』

 そして暗転する画面。そこに『つづく!』という大きな文字が表示され、映像は終端となった……。

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