第4話
人のベッドの上でくつろぐ彼女を無視して、制服から私服へと着替える。
彼女も気にするつもりはないようで、こちらに振り向く様子もなく漫画を読み続けていた。
「それでどうしたんだ?」
着替え終わると勉強机の椅子に座り、人目を気にせずくつろぐ彼女に訊ねる。
「んー、漫画を読みに来たのは、ついでだったんだけど、夏祭りに誘おうとしてた」
「……目的がすり替わったのかよ」
今年もわざわざ俺を誘いに彼女はやって来たようだ。
この辺りで夏祭りというと駅近くにある
駅近くでは一番大きなお祭りで、神社の広場にたくさんの屋台が並んで、子供にも大人にも人気だ。
「まあ、誘ってくれてありがとう。残念ながら予定があるから行けないんだ。楽しんできてくれ」
「それ、口癖なの? いつも予定なんてないじゃん」
すらすらと断る言葉を使うと彼女はこちらを見て睨む。しかし、端正に整った幼さの残る顔では怖くもない。
「予定はある。家でyoutubeの更新をチェックするって予定だ」
「それは予定じゃない」
彼女は漫画を置くと身体を起こして、ベッドの上にあぐらをかく。
スカートから伸びる白い脚に思わず目がいって逸らす。
どこか見ては行けないものを見たような気がして目を逸らしたが、ふと彼女の表情を見ると、俺の視線に気がついていたのかニヤニヤとしている。
「見たよね?」
「何を? だいたい、いつまで人のベッドを占領してんだよ」
彼女の表情が少し鬱陶しくて、自分でも眉間にシワが寄るのがわかった。
「制服姿の生意気な幼馴染に仕返しで悪戯でもする?」
「生意気って自覚があるなら、もう少し真っ当な行動してくれ」
どこかの広告のような台詞に、ため息混じりに言葉を返す。
「そんな悪戯が過激になっていって……的なこと考えてる? エロ同人みたいに? エロ同人みたいに?」
「しねーよ! 重要そうに二回も聞くな。それに、よく気軽に下ネタ言えるな!」
幼い頃から一緒に遊ぶことが多かった彼女は俺にとっては姉や妹のような存在だ。
だから、彼女が俺に下ネタを言うのは、家族に下ネタを言っているようなもの。彼女に下ネタを言われるのは、妙な気恥ずかしさがある。
「私はナツキと違って、幼馴染にそんな感情がないからなー」
彼女が得意げに笑うので、思わず否定したくなる。おそらく彼女の言っている感情とやらは、俺が考えていることとは違うだろう。
「俺だってカスミにそんな感情は……」
言い返そうとして、言葉を詰まらせた。それを彼女は満足そうに笑う。
俺が彼女をそう見てないのなら、どういった感情で見ていたのか。それを考えてしまって、思わず言葉が出なかったのだ。
「……まだ、私のこと好き?」
「……それはないよ」
即答すると彼女は笑みを深める。
「そっかー。可愛くないなー」
「可愛いなんて言われても嬉しくねぇ」
「昔はハグすると喜んでたのに、可愛げがなくなった」
「そんな記憶はない。適当な事言うな」
俺がそういうと彼女は少し黙る。彼女の表情は変わらず満足そうで、何を考えているのかわからない。
「本当の話だよ。ナツキにハグした後は、決まって妹が怒ってたんだから」
「そんなこと、ほとんど覚えてないよ」
本当かどうかはもうわからない。今から五年以上も前のことだ。
昔の記憶は忘れていくもの。だから、忘れてしまうのは仕方ない。
都合の悪いことは忘れて、都合の良いことは覚えているものだ。そうであっても、忘れられないことはある。
誰にだって、忘れたくても忘れられない出来事はある。
それは、目の前にいる彼女、
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