二話③


 どうしたのだろう。街は以前と比べて閑散としていた。そんな異様な空気に心がざわつく。


「この前のことがあってからずっと街はこんなんよ。失ったものがでかすぎるからな」


 この前とはきっとあの日のことだろう。あの日、私たちのように。


「っ」


 悲しみと一緒に吐き気が込み上げてくる。


「大丈夫か!」


 胸を押さえてうずくまる私に彼は緑色の光を見せた。


「ヒール……?」


「すまんな。傷は癒せても心は癒せんのにな」


 申し訳なさそうに肩を落とすガットに私も緑色の光を見せる。それを見た彼はにっこり笑って、そして悲しげに俯いた。


「俺たちも失くしてるんだ」


「え?」


「ここに来てまだ日が浅い時に。マスターを」


「そ、そんな」


「俺たちはこの世界を甘く見ていたんだ。どこまでも行けるって誰よりも先に行って、そして見つけたんだ」


「な、何を……何を、見つけたの」


 そこまで話してガットは口を継ぐだ。


「こんな話して悪いな。さ、今日はこんな話をするためにお前を連れ出したんじゃない、行くぞ」


「え、ええー! き、気になるじゃないですか!」


「また今度話してやんよ!」


 この時、私はこの世界をもっと知りたいと思った。そして恐怖の先にある世界を見てみたいと思った。

 先を進むガットを呼び止める。


「あの!」


 そして今日から私の新しい毎日が始まるんだ。


「私に戦い方とかこの世界のこととかえっと……その……たくさん! たくさん教えてください! 先生!」


 先生と呼ばれたガットは一瞬驚いたように目を見開いて、そして恥ずかしそうに笑った。


「ん、まぁ、少しずつな」


 勇気を出して言ったのに、温度差がまるで違う。だけどそれもいい。


「先生、今日はどこに行くんですか」


「着いてからのお楽しみや」


「はーい」



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