一話3
この日は酷く静かだった。
いつも街の外には猪や兎がちらほら生息していたのだが今日は街から少し離れた森付近へ来ても何もいない。
「もうそろそろ帰ろうぜ」
「そうだね。今日はもう帰ろうか」
空が夕焼けに染まる。
「ね、ねぇ。これ夕焼け、だよね?」
異様なまでに朱く染まった空に心がざわめきだした。
「み! 皆さん、急いで戻りまじょっ」
今日も最高に滑舌の悪いカシパンが我先にと全力で疾走する。それを追うように私たちも走り出しす。
「うわぁあああ」
途中、何人かの悲鳴に立ち止まった。迫り来る大きな影。狼だ。
「た、助けに行こう」
「もう助からない!」
「そ、そうです、自分たちじゃ勝ち目がありません!」
「じゃあ見殺しにしろって言うんですか!」
普段穏やかなまるが声を荒げる。そんな三人に声を止めようとしたその時。
「いっ!」
突然視界が転がり土の上。揺れる視界に全身鎧のようなもので覆われた大きな狼が見えた。
「ったくイヌのくせに俺たちよりいい装備してんじゃねーか」
大剣を構え、飛びかかるカイト。
「アミさん、大丈夫ですか! しっかりしてください」
駆け寄ってきたカシパンに返事を返すこともできない。
「カシパン、あみを頼む」
盾を構えるまるの姿がいつになくかっこよく見えた。途切れそうな意識の中後悔が駆け巡る。悲鳴を無視してそのまま走れば良かったのか、いいや違う。私たちは違和感に気づいていた筈だ。いつもと違う雰囲気を感じながらここまで来てしまったのだ。
「僕のせいだ。僕が今日は奥に行ってみようって言ったから。カイトの言葉も聞かないでここまでみんなを連れてきた、僕が悪いんだ。僕が!」
私を庇うようにまるが立っている。しかし木製の剣と盾では到底敵うわけない。
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