坂東殺人事件

鷹山トシキ

第1話

 駒田は坂東市にやって来た。

 坂東市は、茨城県西部、利根川北岸に位置する。首都圏内で消費するレタス・ネギ(生産量全国トップクラス)、白菜等の農業(近郊農業)が盛んである一方、工業団地も設置されている。


 洪積台地(猿島台地)であることから田畑の間に林野が多く残され、ゴルフ場などとして利用されているほか、開墾以来の面影をそのまま残す地域も存在する(庄右衛門新田、河原新田など)。またその地の利を生かしてさしま茶も生産されている。


 平将門の本拠地があったという伝説が残っているが定かではない。


 坂東にある老人ホーム『うでたまご』で過ごす杖をついた老人、安達ケ原勘蔵あだちはらかんぞうはマフィアのヒットマンだった。


 1960年代、安達ケ原は坂東にておもちゃ屋として生計を立てていた。

 

 1月19日 - 日米新安全保障条約が結ばれる

 安達ケ原は地元マフィアに積荷の横流しを行う。すぐに発覚し、会社から訴えられてしまうが卸し先や共犯者の名は決して明かさず、組合の弁護士・讃岐民生さぬきたみおの手腕で無罪の上に地位保全まで勝ち取る。裁判後に安達ケ原は、讃岐から居酒屋を経営する鍋島肇なべしまはじめを紹介されるが、それは少し前に安達ケ原の自転車の不調を直してくれた通りがかりの人物でもあった。人当たりの良い紳士に見える鍋島の正体は茨城全域のマフィアの大物であった。鍋島に気に入られた安達ケ原はみかじめ料の集金など彼の下で働き始める。ある一件から安達ケ原は組織のヒットマンとしても活動し始め、鍋島に命じられるままに組織の邪魔者を葬っていく。


 一方、プライベートにおいて安達ケ原は妻の蒔絵まきえと離婚し、鍋島の紹介で知り合った若い安代やすよと再婚する。2人の娘に恵まれ、鍋島とも家族ぐるみの付き合いをする安達ケ原であったが、娘であるらんは何故か鍋島に懐かず、父安達ケ原に対しても何でも過剰な暴力で解決しようとすることから恐れを抱き、心を閉ざすようになっていた。


 ある日、安達ケ原は鍋島から当時誰も知らぬ者はおらず、総理大臣の側近・和島一茶わじまいっさを紹介される。ライバル組合の対処などに苦慮していた和島は、手際よく問題を解決する安達ケ原を気に入り、安達ケ原は彼のボディガードとして重用される。さらに安達ケ原と和島は家族ぐるみの付き合いを始め、蘭は和島にかなり懐く。


 2月23日 - 今上天皇が生まれたり、大相撲で横綱の栃錦清隆が現役引退する。


 歴史が狂い、ホームレスの吉良進次郎きらしんじろうが総理大臣となる。和島は予てより池田勇人いけだはやとを支持していたことで、吉良政権から睨まれてしまう。一方、鍋島らマフィア達は新日米安全保障条約で失った同地の利権を回復するため、吉良を応援していた。和島は連日、官房長官の千葉任太郎ちばにんたろうから巨額年金の行方や吉良との繋がりについて激しい追及を受ける。吉良が暗殺されても追及の手は緩むことはなく、最終的に5月15日に刑務所に収監されてしまう。しかし、和島は前もって側近の日向坂充ひなたざかみつるを次期委員長に仕立て権力維持を狙っていた。


 凡庸な日向坂はマフィアの言いなりになり、彼らに無利子の融資を始めるなどかなりの額の年金を使い込み始める。しかし、それゆえにマフィア達から気に入られ、和島の影響力が減退していく。また、恐喝罪で同じく収監されてきた組合の政敵・池田龍作いけだりゅうさくの頼みを無碍に断ったことで2人の関係は完全に破綻する。

 

 6月15日 - 安保闘争中に樺美智子が死亡する。


 1971年、池田政権の恩赦で出所した和島は、組合の委員長に復帰しようとするが、心変わりし、マフィア達の支持も得ていた日向坂に拒否される。池田龍作の支持も得ようとしたがプライドが邪魔をし、会談は決裂する。委員長に復帰するためなりふり構わない和島は、日向坂とマフィアの癒着を持ち出して彼を批判し始め、東都ファミリーの伊集院いじゅういんファミリーのボスである伊集院海蔵いじゅういんうみぞうから危惧され始める。日向坂は旧友の和島を守るため伊集院を宥め、和島を諭そうするが失敗に終わり、安達ケ原もまた親友である和島を守るため、説得しようとするがすべて無駄に終わる。むしろ、和島は搦め手を使ってマフィアへの融資を強制的に停止させた上に、 裏社会との癒着の証拠やマフィアの事業への融資の強制回収などをほのめかし、マフィアらを逆に脅迫し始める。


 9月 - カラーテレビの本放送開始

 讃岐の娘の結婚式に出るため、鍋島と安達ケ原はそれぞれの妻を連れ車で数日かけて長距離を移動している。結婚式が和島とマフィアらの最後の交渉の場であったが、移動中の安達ケ原に対し、東京にいる和島は出席しない旨を伝える。鍋島は焦る安達ケ原に、和島の粛清と、その実行犯に安達ケ原が決まったことを伝える。絶望する安達ケ原はヘリコプターで東京に向かい、ギャングの九条くじょうや和島の養子の純生すみおと合流して、池田龍作と会う予定であった和島に会う。和島は安達ケ原がいれば大丈夫だと安心し、2人は会談場所として指定された家の中に入る。安達ケ原は和島の後頭部に2発銃弾を撃ち込み、すぐにヘリで戻る。そして鍋島と予定通り結婚式に出席する。安達ケ原は、和島の遺体は火葬され、隠滅されたと聞いたと回想する。


 その後、行方不明となった和島を巡って安達ケ原も関係者として事情聴取を受けるが黙秘を通す。しかし、蘭には勘付かれており、以降、彼女は安達ケ原を拒絶し、一口も言葉をかわさなくなる。やがて安達ケ原や鍋島、また伊集院は、それぞれ別件の容疑で逮捕され同じ刑務所に収監される。晩年の鍋島は寺で先祖に祈るようになっており、それを疑問に思った安達ケ原に対し、鍋島はそのうちわかると答え、間もなく心臓発作で亡くなる。


 出所した安達ケ原はすぐに妻に先立たれ、娘たちは寄り付かず孤独な生活を送る。特に安達ケ原は蘭に対し、どうにかして会話して謝罪したいと願うがまったくできなかった。老人ホームに入った安達ケ原は、駒田と交流し始め、最後に自室で罪を告解した。

「和島、許してくれぇ!」 

 安達ケ原は認知症で駒田を和島と誤認していた。

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