魔法使いの家系なのにスキルが「ダッシュ斬り」なので追放されました〜でもなんか剣に魔法っぽいの纏ってるし、意外といけるんじゃないか?〜意外とどころか最強になったことを彼だけが知らない
コータ
第1話 スキルを授かってみた
「エクス様。お迎えに上がりました」
窓から陽光が差している。メイド数人に着替えをさせてもらったけれど、どうにも落ち着かず鏡で服装を確かめていた。お迎え係のメイドが扉を開けると、俺はとにかく緊張を悟られまいとにこやかに振る舞った
今日はきっと人生が変わる日になるはずだ。いや、変えてみせる。
この時、誰の目からもやる気に満ちた顔に映っていたことだろう。
メイドに導かれるままに部屋を出て階段を降り、長い迷路のような屋敷の廊下を静かに進む。魔導貴族として名を馳せるキール家。所有している土地や財産は、小さな俺の想像を遥かに超えているのだろう。
廊下を歩きながら考え事をしていた。欲しいものは全然手に入らないけれど、いらないものは自然と身についてしまうのはなぜかと言う事を、ただぼんやりと。
かくいう俺、エクスにとってはよくあることだった。兄や父よりも頑丈で、脚がとにかく速くて、人より少し体が大きいけれど、どれもが別に必要なかった。
欲しいものはたった一つ、魔法を使いこなす才能だけだ。
俺はかなり特殊な家系に生を受けていた。
貴族は貴族でも、ここキール家は魔導貴族と呼ばれる。魔法の扱いにおいて右に出る者がいない家系であり、王族や公爵家からも一目置かれている。
しかしそれは逆に言えば、魔法が使えなくてはならない家系ということでもある。
幼少の頃から父のプレッシャーを肌で感じ、一見朗らかな兄からは強くライバル視されていることも知っていた。でも、どこかで楽観視をしていたことは間違いない。
なぜかといえば、俺は人並み以上に高い魔力を持っていたからだ。魔力とは魔法を撃つために必要なスタミナであり力のようなもの。
だから魔力が高い俺は自然に魔法を覚え、十代の早い段階で自由自在に操っている……筈だった。
しかしながら、なぜかまったく魔法を覚えられないままで十五歳になってしまった。攻撃魔法初歩の初歩であるファイアボールだって、まだ放てたことがない。魔法使いの先生から教育を受けても一向に進歩がなかった。
でも、だからと言って諦める必要はないはずだ。魔力があるのに魔法を扱えない人間は、スキルという異能の力を得ることで、普通に使用できるようになる場合がほとんどらしい。
ほとんど、という表現が気になるけれども、俺は特別気にはしていなかった。どこか能天気なところは今も変わっちゃいないが、この時は特にそうだったと思う。
だが、スキルを授かる為には儀式が必要だ。それは神や精霊が集う場所と称えられる聖なる滝で行われる。神技授与の儀式と呼ばれており、人生でたった一度しか行うことができない一大イベントとも言えるものだった。
時間に遅れることは決して許されない。俺とメイド達は屋敷を出て、少しばかり庭を進み馬車に乗り込んだ。それからのどかな畑道を眺めること十数分。いよいよ川付近に辿り着き、滝へと向かう。
滝の前にはすでに何十人と集まっているようだった。みんなが俺のスキル授与儀式の為に足を運んでくれたらしい。申し訳ない気持ちになりつつ、まずは落ち着きがない父の側へと向かった。
「父上、エクス・キール。ただいま参りました」
「……うむ。良い顔をしておるな。エクスよ、分かっておるな。必ずや有用なスキルを授かり、魔導貴族としての始まりを我に見せよ」
「承知いたしました」
作法にそって頭を下げ、神父様が待つ滝へ。両足とも水につかり、重くなる足取りを我慢しながら滝の前にたどり着いた。神父様はすでにずぶ濡れで、なんだか申し訳ない気分になる。
「お待ちしておりましたぞ、エクス様。かの大魔導貴族の次男として、今日が記念すべき日になることは間違いありません」
「勿体ないお言葉です」
この返答で良かっただろうか。俺はどうにも世間知らずな面があって、たまに自らの常識に自信がなくなってしまう。まあ、反応を見る限り問題はなさそう。
「それでは、瞳を閉じて祈りを捧げるのです。神が貴方さまに、至高の力を授けられますように」
言われるがままに瞳を閉じた。緊張で心臓の鼓動が高まっている。真っ暗な世界で滝の音が途絶えることなく聞こえていた。川に入った脚の冷たさにも慣れ、いつしか神父様の存在すら遠くに感じていた。
闇一色の世界に佇んでいると、唐突に上から何かが降っていることに気がつく。暗いはずの世界に色とりどりの美しい玉が見えた。気がつけば沢山の水玉のような何かが落下してくる。それは闇の中で俺の足元付近に落ちるとはじけて霧散していった。
落下し続ける謎の玉。その中で一際大きく、黄金色に輝くものがあった。それはほぼ俺の真上に位置しており、まるで押し潰すつもりでもあるかのように、垂直に下降してきて頭頂部に触れた。
やがて頭から全身にかけて、ゆっくりと黄金色の何かに包まれていく。寒かったはずの全身がポカポカと暖かい。何か大切なものが体の中に生まれたような気がする。
「はい。もう結構でございますよ、エクス様。目を開けてください」
神父様の声が正面から聞こえて、俺ははっとして目を開ける。儀式を受けていることさえ忘れてしまうほどに、美しくも素晴らしい体験だった。
「さて。今から授かったスキルを確認させていただきます。貴方様のスキルは……」
老人のしわが刻まれた両手がゆらゆらと振られ、白い煙のような何かが顔にかかった。ちょっと煙い。でもすぐに終わったようだ。これは名高いプリーストのみが習得できるという、スキル掌握の霧と呼ばれるもの。
「ふむ。分かりましたぞ。貴方様が獲得されたスキルは………です」
「え? なんですか?」
最後のほうが辿々しくて全然聞こえなかった。じゃぶじゃぶと川を荒らす音が聞こえ、気がつけば隣に息を切らした父が立っていた。
「なんだ!? いったい何を授けられたのだ? 勿体ぶってないでさっさと言え!」
「ダッシュ……斬りです」
え……ダッシュ斬り? 俺は声も発せずに固まっていた。聞いたことがないというか、聞くはずのない単語が神父から発せられたような気がする。
「な、なんだと! ちょっと待て。ダッシュ斬りと申したのか!? あの……剣士の初級スキルにしか過ぎぬと言われるゴミクズも同然で魔法を使うことには何の役にも立たないハズレもハズレの無能丸出しスキルを我が息子が授かったというのか!?」
父上、言い過ぎです。いくら何でも。
「はい。左様でございます」
神父様も認めちゃうのかよ。酷い。
「ぬぬぬぬ! エクス貴様ぁあああ、なぜワシの期待に一切応えることができんのだ! その馬鹿みたいに強大な魔力はアクセサリーか!? ダッシュ斬りなんぞ覚えたところで、屁の役にもたたん!」
「す、すみません父上」
「すみませんではないっ!! お前という奴は、とうとうワシを本気で怒らせおったな」
その日から父上は変わった。貴族としての暮らしとは到底思えないような、酷い扱いを受けるようになっていったんだ。
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